第二部: 魔王と勇者
第12話 勇者 #1
クラーケン狩り以降、二、三回ほど異世界での週末を過ごしたあとの平日。
ルナの通う学校で、中間試験の結果が発表される日がやってきた。
「うう……成績が全公開されるとか、進学校は恐いところだよ……」
「あら、岩崎さんの中学は違いましたの?」
ルナと桜花は連れ立って、中間試験の順位表を確認しに来ていた。職員室の前に張り出された順位の前には、既に人だかりができている。
緊張で胃が痛い。
でも、十位以内の成績免除を目指して、現実のおよそ五十分の一という時間の流れを利用して異世界でみっちり勉強してきたのだ。
ちょっとズルかも知れないけど。
「――岩崎さん! すごいじゃないですか」
「……え?」
桜花の声に顔を上げたルナの視界に、自分の名前が飛び込んできた。
5位――岩崎
「わ……やったぁ!」
高校一年の全試験総合成績が十位以内だと、翌年の学費が免除になる。最初の定期試験としてはいいスタートを切ったといえる。
「ふふ、おめでとうございます」
「安心したらお腹すいてきた……。そうだ、桜花ちゃんは?」
「ふふん」と自信に満ちた顔で、髪をかきあげ、桜花は順位表を指差した。
125位――
「わぁ……わ……んん?」
ルナは、桜花のドヤ顔と順位表を交互に見比べる。
確か学年の生徒数は200人くらいだったはず。
完璧っぽいムーブで示した順位が125位。
これは、どういう反応が正解なのか。お嬢様の価値基準がわからない……。
「えっと……。すごい、桜花ちゃんの名前があるね!」
ルナはとりあえずそう言って、ガッツポーズをして見せた。
「ふふ、そうでしょう?」
あ、いいんだ。
「成績なんて些細なことです。わたくしは、そんなものに関係なく価値がありますから。今こうして生きていること、その素晴らしさを全身全霊で肯定するべきなのです」
「いや、まぁ、その」
その考え方自体は立派だと思うけど。別の流れで聞いたら感動するかも知れないけど。
困惑の上に笑顔を乗せて、そうだね、とだけ答えた。
◆
放課後の華道部部室。
シスター
桜花はいつものように、スマートフォンをぽちぽちとタップしている。
「桜花ちゃん、そういや前のピックアップ召喚、引けた?」
「ええ。やっぱり天井がないので時間がかかりましたけれど、出るまで回せば出ましたわ」
「……なんか、聞くの恐いけど聞いとくね。それ魔結晶いくら使ったの?」
魔結晶というのは召喚、つまりガチャを回すために必要なアイテムである。イベントでも少しは手に入るが、ショップで100個セットを3000円で購入するのが基本だ。
「さあ……5万個くらいだったかと」
「聞かなきゃよかった」
廃課金お嬢様は絶好調のようだ。
「とってもユーザー想いのいいゲームですから、そのくらい安いものですわ。先日も意見をお送りしたら、そのとおりに調整が入りましたの」
たぶんそれ、課金しすぎてVIP枠に入ってるんだと思う。お嬢様が廃課金勢とか、確実にやっちゃだめな組み合わせでしょ。混ぜるな危険だよ。
「召喚した【勇者】でランクマもだいぶ上がりましたし」
「へぇ。勇者だったんだ、ピックアップ」
「ええ。ずっと伝説の中の存在でしたけど、いよいよストーリーに絡んできましたので」
「……」
桜花のプレイするソーシャルゲームは、ソーシャル要素をゲームシステムに散りばめているものの、シナリオ自体は王道RPGのストーリーラインに沿っている。
プレイヤーは冒険者となり、悪の魔王を倒して世界を救う話だ。
ただ、プレイヤー自身は勇者ではない。かつて世界を救った【勇者】の伝説をなぞるように、戦いを進めていくストーリーだった。
満を持して、その伝説の勇者がプレイアブルキャラに入ったということだろう。
(勇者が魔王を倒して世界を救う……か)
ルナは、自らが異世界に【魔王】として召喚された意味を考える。
初めて目にした異世界は、勇者が正義で魔王は悪、というお約束からは外れていた。
魔族と人間が共存する世界。魔族たちとの穏やかな日常。
平和になった世界で魔王として召喚されたあたしは、あの世界にとってどんな意味を持つのだろう?
むしろ
世界を救うのは、きっと、いつも勇者の役割とは限らないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます