封印されし闇×逆ナン
受付も終えたので試験の説明会場に向かう。
平均的な日本人に比べて明らかに体格が良い男がほとんどという中、スーツ姿の東は明らかに浮いていた。
なんか武器っぽいのを持っていたり傷だらけだったり厳つい連中ばかりで、明らかに浮いている東は気圧されたように俺の隣から離れようとしない。
荷物を預かっている手前、離れないのは都合がよいのでそのままにしていると、東は数人を見て驚く。
「ま、まさか……魔の四人まで参加しているなんて……」
「魔の四人?」
俺が尋ねると東はこくりと頷く。
「はい。彼らは圧倒的な実力を持ち、この試験の参加者に数々の恐怖を植え付けていったことから、その名で呼ばれているんです」
「……受験するってことは試験には落ちてますよね? 魔の四人」
「あっ、あそこにはSSSランクの参加者まで……!? こ、今回の試験は荒れそうですね」
「そのSSSランクさんも何がそのランクなのか分からないですけど前回は落ちているんですよね?」
「なっ!? あ、あんなところに封印されていたはずの闇の受験生まで……!?」
……いや、全員試験に落ちたから再び受けにきたんだよな。少なくとも飛び抜けて実力があったら普通に合格してるんだからそこそこ程度のものなのではなかろうか。
そう考えているうちに試験時間になったらしく、先程の試験官の大男が前に出て試験内容を簡単に説明していく。
最初は体力測定、次に適性検査で合格すると仮免許が貰えて、仮免許をもらったら二次試験の試験官と迷宮にいけるらしい。
仮免許の期間は半年ほどあるそうで、その間は一次試験をせずに二次試験に挑めるようだ。
「……つまり、封印されていた闇の受験生も体力測定に落ちたのか」
「恐ろしい……試験ですね」
「……そうか?」
と思わずツッコミを入れてしまったが確かに短時間で行うにはかなり厳しい試験内容に思える。
まず第一に最初から持久走を15km走らされて、その後にその他の測定をするようだ。
おそらく迷宮で体力を使った後にどれだけ動けるかというところを見たいのだろうが、多少の運動をしていなければ、その距離を走るだけで辛くその後は何も出来ないということになるだろう。
「さ、西郷さん……に、荷物、平気ですか? 平気じゃないですよね、こんな重いものを持ってなんて……」
「……まぁそこは言っても仕方ないですね。……時間内に走り切れたらタイムは評価に加えないらしいので、俺がペースメーカー代わりに走るから、俺の横……いや、後ろに着いて走ってください」
東はコクリと頷いてから俺が背負っている鞄に手を伸ばす。
「あ、始まるまでにトイレで着替えてくるから待ってて」
「ああ、はい」
若干の気まずさを感じながらトイレの前に立って待っていると、封印されていた闇の受験生が男性トイレに入っていった。
……トイレ行くんだ。
スマホを見るといくつかのメッセージが初から届いており「今から試験」と送信すると、初と新子の映った写真が送られてくる。
遅れて「冷蔵庫はこれぐらいの大きさのでいいですか?」というメッセージが送られてきて、よく見ると写真の背景に冷蔵庫が映っていることに気がつく。
どうやら初や新子は縮尺が分かりやすいように映っていたようだ。
簡単に「いいと思う」とだけ返信したあと、スマホのトップ画面にその画像を登録して、初が見えやすいようにアプリアイコンの位置を弄っていると、俺の前に誰かが立っていることに気がつく。
「やや、こんにちは。別に用事があるってわけでもないんだけどさ、わたし達と同い年ぐらいの子がいるのが珍しくてさ」
顔を上げると、黒い髪が空調の風に流されて微かに揺れるのが見えた。この試験会場では珍しい女性……それも俺と同い年ぐらいの少女だ。
他の受験生とは違う動きにくそうな格好……近くのお嬢様学校の冬服に厚手の黒いタイツと女学生らしさのあるローファー。
一言で言えば着崩していない上品な制服姿……と、俺が言えるような言葉ではないが動きやすい格好とは到底思えない物だ。
それ自体は東もそうだったが、彼女との違いは目の前の少女は手に持っている鞄は学生が教科書を入れるような物で、着替えが入りそうなものではないことだ。
「……はあ、そうですか」
「それでさ、あっちに私の友達が二人いるんだけどさ。二次試験は受験生四人と試験官二人の六人で迷宮を潜るんだけど、もう一人ほしいんだよね」
少女が指差す方を見ると同じ年頃の男女が二人ベンチに座って、女子の方が俺の視線に気がついてはにかみながら小さく手を挙げる。
「あの子が君に声をかけないかって提案してさ。でも男の子に声をかけるのは恥ずかしいみたいでね」
「でも、一次試験の突破率低いんですから今声かけても仕方ないんじゃないですか?」
そう答えたあとに「もしかしてこれ逆ナンなのではないか?」といか考えが浮かんでくる。
そんなしょうもないことを考えていると、少女はニコリと子供っぽい笑みを浮かべて上目遣いで俺を見詰めていた。
「うん。でも、君は残りそうだ」
「……まぁ、そのつもりではありますけど。連れ……というか、さっき一緒に行くことになった人がいるんで」
「そっか、残念。じゃあ、私達の誰かか君のお友達が一次試験で落ちたら一緒に迷宮潜ろうね。あ、わたしは
そう言って土田は去っていく。……やっぱり逆ナンっぽいな。
そう考えている間にジャージ姿に着替え直した東が戻ってきて、少し申し訳なさそうな表情を浮かべながらポニーテールにした髪を大きく揺らして頭を下げる。
「ご、ごめんね? 学校の友達と来てたんですね」
「いや、知らない人。多分逆ナンですね」
「へー、逆ナンって初めて見ました。最近の若者は積極的ですね……」
そう話しながら長距離走の場所に向かう。
そう言えば……なんで俺の名前を知っていたのだろうか。東は俺のことを「西郷さん」と呼んでいるので「ヨクくん」という名前を知っているはずはないが……受付で見ていたのか?
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