通り道

深夜零時を過ぎた頃、突然家のインターホンが鳴った。

布団の中で携帯をいじっていた俺は、その音に酷く驚いた。


「こんな時間に誰だよ……?」


若干の苛立ち、そして恐怖を持ちながら扉の方へと向かう。

万が一に備えて携帯を110にして、いつでも警察を呼べるようにした。


ドアスコープを覗く。外には誰も居ない。

悪戯かとも思ったが、だとしてもこの時間にするのは変な話。

近所に悪ガキらしい悪ガキも住んでないので、一先ず酔っ払いの仕業と考えた。



「最近、こういう悪戯が多いな」

数日前にも仕事が休みの日に昼寝をしていた時に同じことをされたのだ。

確か時間は17時30分辺り。ドアスコープを覗き、誰も居なかったので無視をしたが。

他にも、窓の外に誰かが立ってこちらを見ている時もあった。

この町に引っ越してまだ数週間ほどだが、一体どうなってるのかね。


「さっさと寝るか……」


そう思い部屋へ戻った瞬間、再びインターホンが鳴り響いた。

急いでドアスコープを確認するが、やはり外には誰も居ない。

ならばこちらにも手段がある。俺は玄関の前に、息を殺して待機した。


「次鳴ったら、すぐ扉開けて顔を見てやるっ」

深夜のテンションと苛立ちも相まって、不思議な高揚感に苛まれる。

1分、5分、10分。携帯を見ながら待ち構えるが、インターホンは鳴らない。

もう悪戯をした奴は帰ってしまったのだろうか? はあ、とため息をつく。


明日も早いし寝ないと駄目だ。数秒前の自分が馬鹿らしくなり、立ち上がった。

フローリングを素足で歩いたことで、足元からペタペタと音が鳴る。



ピンポーン



またしても、部屋に戻った瞬間にインターホンが鳴った。

眠気による苛立ちが最高潮を迎えた俺は、勢いよく扉を開ける。

そこには、誰かが立っていた。もしかしたら、最初から居たのかもしれない。


真っ黒で、背がとても高く、頭を揺らしているのに目線はずっと俺を見ている。


これは人間なのか? 腰が抜けて動けず、ただ揺れる頭を見ることしかできない。

一歩、一歩とこちらに近づいて来る。


ああ、今になって思い出した。

引っ越した当日、近所の人に言われたことを。




「やっと開けたね待ってたからねもう遅いけどさようなら消えちゃうよ約束したもんね忘れたから仕方ないから終わるんだよ楽しみにしてたのにこれから……」



この辺りは、神様の通り道があるんだ。





〇〇県-〇〇市-逢狂町の日常 異の章-FIN

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