〇〇県-〇〇市-逢狂町の日常

羽寅

恐の章

玄関

私の住んでるアパートには、他の所にはない変なルールがある。

それは、毎日17時30分から10分間は玄関の鍵を開けておかないと駄目というものだ。

泥棒に入られる可能性もあるのに、そんなことをする必要はあるのか?

引っ越して早々聞かされたルールに対して質問をしたが、お隣さんも詳しくは分からないらしい。

ただ、ずーっと昔から決められている決まり事とのこと。


最初は私も受け入れて、外をしっかり確認したあとに鍵を開けていた。

そして10分経ったらいそいそと玄関まで向かい、鍵を閉める。

正直面倒くさいが、周りの人たちに合わせないと世間体に影響しそうというのも続いていた理由。


でもそんなある日、私は17時に入ってから強烈な睡魔に襲われた。

昼寝というには遅いけれど、それまでやっていた掃除の疲れが出たのかもしれない。

窓から差し込んでくる夕陽と、柔らかいソファーが心地良い睡眠へと誘ってくる。

ああ、玄関に行かないと。頭の中ではそう葛藤したが、結局負けて眠ってしまった。




目が覚めると、まだ外は明るい。時計の短針も、そこまで動いてなかった。

17時35分。私は欠伸を噛み殺しながら玄関へと向かう。ルールを守るために。

たった数分遅れただけ。その油断が、駄目だったのかもしれない。

裸足のせいで冷たいフローリングを歩いて行き、鍵を開けようとしたその時。

扉の向こう側で声が聞こえた。



「開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ

開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ

開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ

開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ

開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ……」




気が付くと私は、再びソファーで目が覚めていた。時刻は17時40分。


あれは夢だったのか? 恐らく、それは違う。


だって、玄関にこびり付く手形の跡が今もなお残っているから。





――そんな体験をしてから、私は色々と調べて分かった事がある。

この付近、そして玄関は、いわゆる神様の通り道になっている可能性が高いそうだ。

一見すると不気味だが、通る神様が近寄ってくる怪異から守ってくれるらしい。

だから感謝の意味を込め、毎日決められた時間内は鍵を開けて道を作るそう。


これが正しい情報かは分からないが、私はそれ以降ルールを忘れず守っている。




……ただ、私は一つ引っかかった事があった。

あの日扉の向こうに居たのは 神様か、怪異か、どっちなんだろう?

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