砂漠渡りと長月

@chauchau

理性と臆病風が邪魔をする


 腹が減れば飯を食う。

 眠気が襲えば目を瞑る。

 コントロールが出来ない欲望にだって、それぞれ対処の方法があるというのに、どうして恋愛だけは違うんだ。


「金銭欲も叶えようとして叶えられるものではないんじゃないか?」


「そういうのを揚げ足取りって言うんだよ」


 間抜け面に空のペットボトルを投げつける。


「詩的になりたい気持ちだけは汲んでやるけど」


「時間が悪い」


 あと、一緒に居るお前が悪い。


「八つ当たりかよ」


「違うよ」


 八つ当たりとは関係のない相手に苛立ちをぶつけることだ。いまの私は正当な相手に苛立ちをぶつけているのだから八つ当たりには該当しない。


「毎回同じ答えで悪いが、告白しないと始まるもんも始まらないだろうが」


「終わりの始まりかもしれないじゃないか」


「告白してからが恋愛だって言葉もあるぞ」


「それは成功者だから言える戯言だよ」


 臆病者が行動しろと言われて出来るものか。

 出来ないからこそ臆病者なんだ。


「髪でも染めてみようかな」


「心機一転?」


「それもあるけど」


「けど?」


「心機一転だよ」


 噛み付き、噛み砕き、咀嚼する。

 出来もしないことを夢に夢見るお年頃、もすっかり峠を越えました。


「意味が分からん」


「私という種の存亡がかかっているんだよ」


「それと髪の色を変えることの関係が分からん」


「一生悩んでろ」


 結局、色が変わることはない。

 変われない程度には、満たされている。


 満たされている自分がなんとも情けない。

 それだけの話。

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