第66話 火の大精霊サラマンダー
新たに風の女神の眷属、シルフの疾風を仲間にした俺たちは、北西へと向かっていた。
「目的地は火山の麓です」
ラーダのナビで移動しているが、次は火山か。少し怖いな……。
「火山って、噴火したりしないのか?」
「火の女神の眷属であるサラマンダーがいますので、噴火はしないようです」
「なるほどな」
サラマンダーか。どんな大精霊なのか興味はある。どうやって噴火を抑えてるんだろうな。
火山の麓に村があるというのも気になるな。鉱石を加工して鉄製の道具や武器を作って、他の村と取引していたりしてな。
もしかして、その取引に向かう途中、あるいは帰る途中にゴブリンに襲われたりしたか?
「お」
森を抜けて山肌があらわになった。かなり大きい火山だ。
周辺に木は生えていない。岩肌が露出して殺風景な場所だな。
「本当にこんな場所に住んでるのぉ?」
アトラは暑そうに手であおいでいる。暑いのが苦手なのか。
まぁゴシックドレスのような服装だし、見た目からして暑そうだしな……。
「はい、向こう側に――」
「止まれい!!!!」
ラーダの言葉を遮った声――また上か!
「あ、あれは、もしやサラマンダー……様?」
ラーダが怯えている……サラマンダー、アイツがそうか。
赤い体に赤黒い髪、筋肉質モリモリマッチョマンの大精霊だ。
体に纏っているオーラ……ではなく、実際に赤い炎を纏っているのか?
雰囲気からして友好的ではないな……。
「水と風が何故ここにいる? それに天災のヴリトラを連れている理由を聞かせてもらおう!!」
サラマンダーが腕を組んだまま、勢いよく降りてきた。
腹に響くような重い声だな。ジジイ、とまではいかないが、中年くらいの雰囲気だが、鬼のような顔をしている……阿吽像に似てるか?
「相変わらずサラマンダーのオッサンは暑苦しいねぇ」
飄々としているシルフの疾風からすれば、確かにこのサラマンダーは暑苦しい……いや、実際に熱い。纏っている炎の熱気を感じる。
「サラマンダーよ、私たちはゴブリンキングに攫われていた獣人たちを、全員家元に返している途中だ。侵略する気も戦うつもりもない」
霞が事情を説明してくれたか。下手に俺が喋るよりも、同格の存在が説明したほうが余計なトラブルを招くこともないだろう。
「……」
サラマンダーの視線が後ろにいる獣人たちに向いた。そして俺を見た。
このサラマンダーに獣人たちを返して大丈夫なのか、少し不安になってきたぞ。
場所が場所だしサラマンダーの見た目や言動が不安要素過ぎる。
ダークエルフや関西弁シルフのところにいたほうが幸せだったか……?
いや、この短時間だけで判断するのはダメだな。俺はサラマンダーを知らなかったんだ、勝手にそう判断するのは良くない。
「うむ。理解した。我が子らよ、よく無事に帰ってきてくれた」
……我が子? ん?
「勿体ないお言葉!」
「この方達のおかげで無事に戻ることができました!」
「サラマンダー様、ただいま戻りました!」
振り返ると、サラマンダーを崇めているやつらが土下座状態だ。
これは……それだけ慕われているのか? だとすれば、怖いけど実は優しいおじさんみたいな感じか。それはそれで和むな。
「サラマンダー様は非常に慈悲深く、領民である獣人たちを自分の子供のように可愛がり、領民からはよき父親のように慕われているようです。他の子たちがよく話してくれました」
「へぇ……」
ラーダの説明ならその通りなんだろうが……ギャップが凄いな。
まぁなんにせよ、帰るべき場所があった獣人たちは良かった。
「水よ、事情は理解した。我が子らを無事に送り届けてくれたことには感謝しよう。だがこれ以上天災のヴリトラを連れてここを進むことはならぬ」
ま、そうなるよな。サラマンダーは別にイジワルで言ってるわけじゃない。
余計な混乱を招かないようにしているだけだ。
「わかっている。それじゃあ俺たちは他の場所へ行くから、あとは任せたぞ」
「うむ」
火山の麓で狼人族たちと別れ、俺たちは西へ向かった。
▽ ▽ ▽
「暑苦しい大精霊だったな。ああいうの苦手だ……」
「実際暑かったしねぇ……」
アトラは手で顔を仰いでいる。まだ暑いのか。
「見た目は暑苦しいが、義を重んじるのがサラマンダーに多い。アレもそうだろう」
「敵対したときが怖そうな相手だな」
「主が今のままでいれば、アレと敵対することもないだろう。もっとも、相性では私のほうが上だ。戦ったとして、面倒ではあるが負けることはない」
属性的に霞のほうが強いか。水と炎じゃ確かに水のほうが有利だろうな。霞がいればなんとかなりそうだが、だからといって進んで敵対したいとは思わないぞ。
「サラマンダーの炎は岩だろうがなんだろうが溶かすからなぁ。俺は相手にしたくないぜ」
疾風からは苦手意識を感じる。炎と風は相性が悪いのか?
だが、戦い方次第では有利に戦えたりしそうだがな。
「また何かくるぞ」
「今度は何だ……」
俺の膝の上に頭を乗せていた霞が立ち上がり、疾風もそれに続きその何かに備えて構えた。
度重なる襲来に疲弊しつつも、俺も備える。
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