第65話 新たなる戦力
「いやー悪い悪い、お前さんたちがどれだけやれるのか、ついつい試したくってな」
俺たちの前に、無傷のシルフがあぐらをかいて浮かんでいる。
アルの風の剣をその体に受けていたはずだが、その痕は残っていない。
超回復の持ち主なのか、それとも単純に無傷だったのか……油断できないシルフだ。
「それで、遊んだ結果はどうだった」
「憑き物よりかは楽しめたぜ。やるなぁお前さん」
霞の問いにシルフは飄々と答えているが、やはりあれだけではなかったか。まだ何か奥の手を隠している……というか、単に本気ではなかったのかもしれない。
そして、この周囲までやってきていた憑き物をやったのは、このシルフで間違いないだろう。
あの被害は一匹二匹じゃない、かなりの数がいたはずだが、それをこのシルフが一人でやったとするなら、かなりの実力を持っていると見るべきだ。霞と同じ大精霊だけあるというわけか。
「私には主様から頂いたアルという名前がある。風の大精霊であろうと、その名前で呼んでいただこう」
格的にこのシルフのほうが上なんだが、アルはなんだか強気だな。
多分手加減されていたことに気づいて、不機嫌になってるのかもしれない。
「悪いな、アル。楽しかったぜ」
「ふん」
このやり取りから、悪い奴ではないと思うが、狙いが分からないな。
ただ暇つぶしで遊びたかっただけなのか?
「お前さんはウンディーネだろ? どうしてこんな場所にいるんだ?」
「私はこの男を主とし、従魔となって共に旅をしている。名は霞だ」
霞が俺の肩に手を置いて説明した。シルフは感心したような顔をで俺を見ている……。
「……へぇ、従魔ってことは、お前さんテイマーか」
「……そうだ」
「薄々感づいてはいたが……天災のヴリトラも仲間にしてるみたいだし、お前さんは普通の人族とは違うようだな。悪くないな、いや、いいな! 俺もついていこう!」
この反応、予想はできていたが、本当についてくる気なのか?
「……本気で言ってるのか?」
「あぁ、退屈で暇していたからな」
霞もそうだが、大精霊はそんなに暇なのか?
まぁ戦力が増えるのは歓迎したいところだが……。
「…………」
アルがシルフを睨みつけている。まぁ手加減されてあれだけボコボコにされたんだ、仕方ない。
「キョータロー、本当にこのシルフを仲間にするのぉ?」
アトラは少し不服そうな感じだが、ここは堪えてもらおう。
「……戦力は多いに越したことはないからな。だがシルフ、仲間になるってならテイムミートを食べてもらう必要があるが、食えるのか?」
「そこのウンディーネ……霞嬢も食べたんだろ? なら俺も食えるはずだ」
シルフの中では既に食うことは前提で、生態的に食えるのかどうなのかという問題になっていたようだな。
これ以上の問答は置いてきたベヒーモスたちが気になる。早めに食わせて戻るか。
「それじゃあこれがテイムミートだ。これを食えば従魔になるが、本当にいいんだな?」
「おう、お前さんなら従魔になっても酷い目に合わなさそうだしな」
そう言ってシルフはテイムミートを受け取り、一口で食べやがった。
「ん、んー……ん、美味いなこの肉。お?」
シルフの体を淡い緑色の光が包む。そして光が収まり、テイムが完了した。
本当に大精霊のシルフをテイムするとはな……。
「へぇ、これがテイムされるって感覚か。悪くないな。そういうことでこれからよろしく頼むぜ、主さんとお嬢さんがた」
「ああ。それでお前の名前だが、疾風でどうだ? しっぷうと書いてハヤテだ」
安直な名前だが、しっくりくるような気がしている。
もしあっちの関西弁シルフだったら、風子になっていたかもしれないな。
「よし、今日から俺はシルフの疾風だな。いいぜ、気に入った!」
「おっ、話が終わったみたいやな」
話が終わったと思ったら、どこからともかく関西弁シルフが現れた。
「おー、ちっこいのも来たか」
「誰がちっこいのや!」
じゃれているところを見ると、兄と妹みたいな感じだな。
「んじゃ、アンタがいなくなるならここはウチが貰うけどええな?」
「あぁ、構わないぜ。結界は解くから張り直しといてくれ」
「よっしゃ、これでウチの領土が増えた! あとで返せって言っても返さんからな!」
「俺は出てくから後は好きにしろ。じゃあ行こうぜ、主さん」
こうしてシルフの疾風を仲間にした俺たちは、関西弁シルフと別れ、ベヒーモスたちと合流し、ラーダのナビに従って北に進んだ。
▽ ▽ ▽
「まさか本当に、シルフ様まで従魔にしてしまうなんて……あなたは本当に人族ですか?」
移動中、ラーダが畏怖の眼差しで俺を見ている。
「俺も気になるな。主さん、本当に人族のテイマーなのか?」
疾風も話題に乗っかってきた。
今の結果からすれば、俺がただの人族だというのは無理があるな……。
ラーダの手前もある、スキルのことは伏せてある程度の事情は話しておくか。
とりあえず異世界から召喚されたことは説明しておく。
「なるほどねぇ、主さんが異世界人だったとはなぁ」
俺が異世界人だというのはラーダは既に知っていたが、疾風にはまだ話していなかった。
丁度良い説明機会だったな。
「そう言えばちょくちょく人族の死体が転がっていたが、そういうことか」
「あ、私も人族が森の中で死んでいるところを、何度か見かけたことがありました」
霞とラーダの発言から答えが出た。やはり俺以外にもこの森に棄てられた異世界人がいて、成す術なく死んでしまったか。
俺の有り得たかもしれない姿だな……。
「主は運よくアトラ殿と出会ったことで、アトラ殿は主と出会ったことで生き残ることができたようだからな、運命の出会いだったのだろう」
「……それもそうだな。運命の出会いだったんだろう」
確かに霞の言う通り、俺はアトラが出会っていなければ死んでいたかもしれないのか……そう考えると、運命というのもあながち間違いじゃないかもしれないな。
「そうよぉ、私とキョータローは運命で結ばれている関係なのよぉ……」
「いつの間にそういう関係になったんだ……」
アトラの熱視線が俺に刺さる。時が経つごとに酷くなってないか?
「アトラ殿に感謝だな。アトラ殿がいなければ私もここにはいなかっただろう」
霞もそうだ。アトラがいなければ霞と出会うこともなかったかもしれない。
そう考えると、世の中面白いようにできているもんだな。
「やっぱ主さんについていくって決めて正解だったな。飽きる気がしないぜ」
「買いかぶり過ぎだ。すぐに飽きるぞ」
「私は飽きていないが?」
そういう霞が一番最初に見限りそうな気がするんだけどな。
まぁ……憑き物ゴブリンキングや憑き物地竜、憑き物ダークエルフと、シルフとの出会いの数々を考えれば、飽きることはないのか。
話題に事欠かない異世界生活だ……。
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