第57話 料理は奥が深い
霞たちが戻ってきたので、さっそく肉の解体を始める。今回も大量みたいだな。
いや、これどんだけ量あるんだ……?
家の前に、家よりも高く山盛りに積み重ねられている、中型規模の魔物の死体の山。
これ全部をテイムミートにするのは……骨が折れそうだな。魔力もつのか?
「素材はそっちへ、肉は主の前に運べ」
「了解しました」
霞の指示で、エリザベスとアルが素材部分と肉を運んでいる。
エリザベスとアル、完全に小間使いみたいな扱いだな……。
「汚れが付いたままでは汚いからな」
「角とか毛皮とか、分けるのは手間よのう」
「解体するのは楽しいわねぇ♪」
霞が生成した水で死体の体を洗い、アスラが素材と肉に切り分け、アトラが肉をテイムミートの大きさに切り分けていく。
ベヒーモス、レックス、メルモル(メルルとモルダ)たちは見学中だ。
「ほれ」
アスラが魔物の内臓をベヒーモスとレックスの前に飛ばした。
内臓もしっかり処理すれば食えるとは思うが、今回はテイムミートを作るのがメインだ。
二匹は飛んできた内臓を、口を開いてそのまま飲み込む。器用なもんだな。
ていうかベヒーモスは草食だと思ってたが、肉も食うのか。いや、食うようになったのか?
メルモルたちは見た目通り草食だから、内臓は食えないか。
「お願いします」
「ああ」
アルの運んできた肉塊を、俺がスキルでテイムミートへ加工していく。
作業自体はスキルを詠唱、魔力を流して加工という単純作業だが……数が多い。
だがしんどいとも言ってられないな。俺がこいつらにしてやれるのは、今のところこれくらいしかない。
だから弱音を吐かずキリキリ働く。
「お、もう始まってたか大将」
「ジェニス、もう向こうの作業はいいのか?」
村で炊き出しの仕事をしていたジェニスがやってきた。
もう日も暮れてるし、夜飯も終わったか?
「あぁ、やっと終わって戻ってこれたぜ」
肩をグリグリ回して首をコキコキ鳴らしているようだが、かなりお疲れのご様子だな。
だがここでもう一働きして貰うことになる。
「お疲れのところ悪いが、テイムミートを焼いてもらいたいんだができるか?」
「お? テイムミートを焼くのか? そう言えばみんな感謝してたぜ」
「テイムミートで回復した話、聞いたのか」
「あぁ、戻るときにお礼言っといてくれってみんなに言われてな……それで……」
ジェニスの視線がテイムミートに移った。
なるほどな……どうする? ジェニスにもテイムミートを食わせるのか?
……まぁ、今更か。特に問題も無かったようだし、食わせてもいいだろう。
「わかった、ジェニスにも食わせてやるから、手伝ってくれるか?」
「おう! 任せてくれ!」
テイマーのテイムミートを食べるという意味を、ジェニスが全く理解していない訳でもないと思うが、迷いのない即答だったな。
細かいことよりも、美味い肉を食べたいという欲求と好奇心のほうが強かったか。
さっそくジェニスが石を集めて竈を作り、その上に家の中から持ってきた鉄板を乗せた。
バーベキュースタイルだな。野菜も欲しくなってきたぜ。
「あっ、最初に何枚か試し焼きしてみてもいいか?」
慣れない素材に違う環境での調理だ、一発でコツを掴むのも難しいか。
「あぁ、大丈夫だ。任せたぞ」
「任されたぜ!」
調理の方はジェニスに任せておけば安心だな……ん?
「確かあのときはそのまま焼いたんだよな……それでみんなが口をそろえて美味いって言ってたし……今回はブロックになってないし、焼き加減だけ気をつければいいか……」
ジェニスがぶつぶつと何か呟きながら作業を始めたが、表情が真剣そのものだ。さっきまでの明るい雰囲気とは一転している……。
身近な奴でここまで料理に真剣なやつは、今まで見たことがない。それほどまでにジェニスの纏う雰囲気が近寄りがたかった。
と、余所見してる場合じゃないな。全員がやるべきことをやっている。俺も俺のやるべきことをやらないといけない。
運ばれてくる肉を次から次へとテイムミートに加工、加工、加工、加工……。
▽ ▽ ▽
「終わったな……」
全員が作業を終えて一息つく。結構な数を加工して魔力をしたから、流石に疲れたな……。
「よし! それじゃあさっそく焼いていくぜ!」
「あぁ、頼む」
ジェニスが熱している鉄板に油を敷き、馴染ませていく。
予め匂い消しの香草を巻いていた肉を取り出し、粉々にしたソルトリーフを巻いていく。
「よし」
そしていつの間にかに用意していた、いくつもの鉄板の上に、テイムミートを置いていくと……肉の焼ける音と匂いが食欲をそそるな。
ジェニスは火加減もチェックしているようだな。俺がバーベキューするときは、あまり火加減なんて気にしてなかったから、作業を見てるだけでも面白い。
「あとはじっくり火が通るの待って、ひっくり返してまた焼くだけだぜ」
「ただ焼くだけならそんなものか」
霞がつまらなそうにぼやく。
「いやいや霞様、焼くだけと言うけど、火加減の調整や、表面だけではなく中までしっかり焼くのは、思っているよりも大変なことなんだぜ!」
「そうなのか」
そうなのだ。
火力が強ければ表面だけが焼けてしまい、中心まで火が通らない。
火加減を抑え、じっくりと焼き、中まで焼けたかの具合を見極めるのが技術の一つなのだが、料理をしないやつからすれば、その辺のことがわからないのも仕方ない。
俺だって最初は強火で焼いていたことがあるが、中が生焼けで失敗した記憶がある。
特にテイムミートはレンガブロックサイズの肉だ。これをそのまま焼くのは、結構難しいだろうな。俺でも無理だ。せめて半分に切って、厚みを減らさないとな……。
だがジェニスは特に無理とは言わず、数回の試行を重ねただけで、問題ないように作業を進めている。
確かジェニスはクッキングシェフというスキルを持っていたが……それのお陰か?
スキルを抜きにしても、ジェニスの料理に対する姿勢や技術は間違いなく俺よりも上だ。
あとは知識さえあれば、ジェニスがこの世界で天下を取ることもできそうだな。
まぁ、その知識を得るのが一番大変なんだろうがな。
「まだひっくり返さないのか?」
「まだだな。ただでさえ厚い肉なんだ、中までしっかり火が通るには時間がかかるぞ」
「つまりそれを見越して、鉄板の数を増やしていたのだな」
ぶーぶーとダレている霞を尻目に、アスラは得心がいったように感心している。
そしていよいよそれまでじっとしていたジェニスが動き出した。
一気に肉をひっくり返し、もう片方の面を焼き始める。
ひっくり返す手際も見事なもんだ。まるで曲芸の如き動きは、それだけで金が取れそうだな。
「おぉ、良い感じに焼けているな!」
「もう片面も焼いてるから、もう少し待っててくれ!」
「匂いもいいし、待ちきれないぞ」
「ふむ……」
「へぇ」
霞は待ちきれないと言わんばかり肉に凝視して、それをジェニスが制止した。
アトラも興味を持ちだしたのか、真剣に調理風景を見ている。
こうやってわいわいしながら外で肉を焼いていると、向こうで気の知れた奴らとバーベキューしていたときのことを思い出すな。
……ま、こっちもこれはこれで悪くはないか。
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