第54話 サイコロステーキにしたテイムミートの効果を実験
「……よし、こんくらいか」
テイムミートを三十人分ほど用意したが……焼くべきか? 焼くべきだな。
流石に人に生肉を食わせるのはな……一部の獣人ならイケそうだが、ダークエルフとかは生では食べないだろ。
ステーキみたいにして焼けば食えそうだが、そもそも怪我人がステーキをちゃんと食えるのかも怪しい。
サイコロステーキにしてジェニスたちに焼いてもらうか。
「アトラ、これを小さブロックに切り分けてくれるか?」
「任せなさぁい」
アトラにテイムミートをサイコロ状に切ってもらう。
なんでも綺麗に切れるアトラは一家に一人の必需品だな。
「では主様よ、残った素材はダークエルフたちに渡してくるぞえ」
「あぁ、頼む。そうだ、もし向こうで何かあれば手伝ってやってくれ」
「承った」
残った毛皮や骨などの素材はアスラに運んでもらう。
あとは肉を焼いてもらうだけだが……。
……いや、本当に大丈夫かこれ?
サイコロ上に切り分けて、その上焼いた状態というのは、果たしてテイムミートとしての効力を発揮するのか怪しい。
多分、大丈夫だとは思う。
何故ならアスラをテイムしたときに、一定量を与えればテイムできるということがわかったから、細切れにされていようが必要量まで食べさせればテイムはできる、そう考えている。
とはいえ、何かしらで実験したほうがいいかもしれないな。
▽ ▽ ▽
魔物が結界内に入れないから拠点まで戻ってきたが、この往復は面倒だな。
アスラがいないからアトラに運んでもらったが、移動時間が勿体ないと感じる。
「マスター、連れてきました」
拠点まで戻った理由は、戻ってきたアルに手ごろな魔物を連れてきてくれと頼んだが……。
「ありがとう。これは、ヤギ……か?」
全体的に体が茶色く、頭から角が後ろに向けて生えている。瞳もヤギ特有の形をしてるな。
土だらけの場所で座っていたら簡単には見つけられないかもしれないな。良い保護色になりそうなくらい茶色い見た目だ。
それを二匹、アルが連れてきた訳だが……気になるのは体が小さいことだ。もしかして子供なんじゃないか? 親はどうなってるんだ?
二匹とも身を寄せ合って震えているように見える。怯えているのか……。
「はっ。これはブラウンゴートという下位種で、土魔法を得意としています。親が狩られ狙われていたのを目撃し、連れてきました」
「なるほどな……」
親は狩られていたのか。弱肉強食の世界だ、珍しくもない事だろうさ。
で、この二匹は運よく狩られる前にアルに保護された訳か。
「へぇ、可愛いじゃなぁい……あらぁ」
気に入ったのかアトラが近づくと、二匹のブラウンゴートはアルの後ろに隠れた。
助けたアルにかなり懐いた様子だな。
「かなり怯えた様子だが、アルには懐いているようだな。アトラ殿が触れるには、まずテイムさせないと無理だろう」
「ふぅん、仕方ないわねぇ」
霞の指摘に、アトラは残念そうにしている。態度からして、かなり残念そうだな。
そこまでこの二匹を気に入ったのか。それはそれで良い感じだな。
「大将、言われた通りテイムミート焼いてみたけど、これでいいのか?」
ジェニスが木の器を持ってやってきた。要望通り調理してくれたようだ。
「あぁ、これで良い。ありがとう」
良い感じに焼けて食欲をそそる匂いだ。テイムミートじゃなければ摘まんでいたが、これはテイムミートだ。
ダークエルフや獣人たちには、霞たちと同じテイムという状態になると予想したが、テイマー自身の俺が食って良い物なのか、判断に困る。余計なことはやめておくが吉だ。
「美味そうだな、どれ一つ……」
「駄目だ。これはテイム用に使うんだからな。あとでジェニスに焼いてもらうから我慢してくれ」
霞が上目遣いで訴えてくるが、これはテイム用だ。食わせる訳にはいかない。
「おっ、ブラウンゴートか! こいつ美味いんだよなぁ、しかも肉が柔らかい子供か! 大将、夜はコイツを食べるのか?」
ジェニスが目を輝かせてブラウンゴートを見ているが……そんなに美味いのか。
「いや、こいつらはこれからテイムするんだよ……」
「なんだぁ……」
肩を落としてあからさまに落ち込むほどショックなのか……。
「切り分けて焼いたテイムミートでも効果があるかの実験だ。さっそく食わしてみるか」
ジェニスから受け取った木の器を、ブラウンゴートたちの前に置く。ちゃんと二匹分用意したからな、量は問題ないはずだ。果たして効果を発揮してくれるか。
「…………」
一匹のブラウンゴートが木の器に近づき、焼いたテイムミートの匂いを嗅ぎだした。
「調味料は使ってないよな?」
「あぁ、言われた通り何もしないで焼いただけだぜ。ナータの実で油は使ったけどな」
油か。確かに肉をそのまま鉄板で焼けばくっついちまうよな。直火の炙りなら使わずにいけたか?
あ、ヤギって草食動物だよな? そもそも草食系の魔物がテイムミートを食べるのか?
「お、食べ始めたな」
そんなことを考えていたら、霞の言う通り、匂いを嗅いでいたブラウンシープが焼いたテイムミートを口に入れたが……どうだ?
「んふふふ」
その横で、アトラは肉を食べてるブラウンゴートを微笑ましく見ているが、そこまで気に入ったのか?
「!」
余程気に入ったのか、ガツガツを食べだしたな。良かった、とりあえずこれで一段階目はクリアだ。
「おー、そんなに美味いのかそれ」
ジェニスが興味深そうに見ている。味見を含む摘まみ食いも禁止にしたから、味が気になるんだろう。
「もう一匹も食べ始めました」
アルの言う通り、様子を見守っていたもう一匹も食べ始めたが、こっちは最初のやつほどガツガツは食べていないな。大人しい性格なのか。
最初のやつはもう半分まで食べているが、テイムされている様子はない。やはり全てを食べないとダメそうだな。
「さて、どうだ……?」
そろそろ最初のやつが食べていた肉が無くなる。まだテイム状態になっていない。
――そして全てを食べ終えた瞬間。ブラウンゴートの体が淡い緑の光に包まれた。
「よし、成功したみたいだな」
実験結果は、切り分けて焼いたテイムミートでも、全てを食べきればちゃんとテイムができるという結果に終わった。
あとはダークエルフたちにテイムが効いて、治癒機能が働くかだ。
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