第51話 ツインディーネからの指名




「待たせたか」


「お疲れさん」

 霞が一仕事を終えて戻ってきた。俺の知らないあいだに色々と復興の手伝いをしていたようだが、こういう自立性は大歓迎だ。


 俺がいなくなったとき……いや、今考えることじゃないな。


「霞様、ありがとうございました!」

 獣人の娘たちが頭を下げている。そう言えばこの獣人たちも、元の居場所に帰してやらないといけないか……。

 

 俺がそこまでする義理はない気もするが、やれる力を持ってしまっている以上、力を持つ者の責任だと思ってしまっている俺がいる。

 相手もそれを期待しているだろうし、その期待を裏切る真似はあまりしたくない。ここで見捨てれば、それは一生俺の心に後悔として残り続けるだろうしな……。

 

 それに、送り先で元の世界に帰る情報の手がかりが手に入るかもしれない。何も悪いことばかりではない、そう思っていこう。


「礼なら主にするといい」

 霞がそう言って一歩下がり、俺を前に出しやがった。


「あ、ありがとうございます!」


「あ、あぁ……」

 俺自身は何もしていないのに礼を言われるのは、戸惑うな……。


「主よ、もっと胸を張るが良い」

 どうにも霞は、事あるごとに俺を持ち上げて、俺の格を上げようとしているように見える。が、それはまだ俺には早い。心の準備ってもんがな……。


 だがこういうことにも慣れていかないとダメか。霞たちはことあるごとに同じようにやっていくだろう。その度に戸惑っていたら、霞たちにも悪い気がする。

 だが霞には悪いが、慣れるには今しばらく時間がかかりそうだ。


 しかし霞の気遣いも理解はできる。こうやって場数を踏ませて、状況に慣らそうとしてくれているんだろう。だから早く慣れるよう、気持ちを切り替えていこう。


「……主様、戦は待ってはくれぬぞ?」

 なんだ、アスラも霞みたいに心の内を読んでくるのか?

 

 確かにアスラの言う通り、こっちの準備を待ってくれる戦なんてないだろうな。そう考えると俺の考えは甘えだ。そしてその甘えが、結果的に誰かを殺すことに繋がるかもしれない。あーやだやだ。


「飯の時間だぜーーーーーー!!!!」

 誰かの大声とともに、金属がガンガンガンとぶつかり合うけたたましい音が聞こえた。


「騒がしいわねぇ」

 アトラは顔をしかめながら音のほうを見ている。騒音が苦手なのか?


 この声の主は――ジェニスだ。

 音のするほうを見ると、どうやら向こうで炊き出しをしているようだな。




「あ、大将! もう大丈夫なのか!?」

 近づくと真っ先にジェニスが俺に気づいた。まぁ霞とアスラに、アラクネのアトラが一緒にいれば、嫌でも目立つか。

 

 ジェニスが隣にいたダークエルフに任せてこっちにやってくる。別に作業を止めてまでこっちにくる必要はないんだが……余計なことは言わないでおくか。


「あぁ、もう大丈夫だ。心配かけて悪いな。飯、美味かったぞ」

「そっか! 元気になって良かったぜ!」

 食欲がそそられる美味そうな匂いが漂ってきた。だがこれはダークエルフや獣人たちの飯だ。それを奪ってしまうのは良くない。


「アルやエリザベスたちのおかげで食料調達には困らないどころか、色んな香草も拾ってきてくれるから大助かりだぜ! たくさん作ったから大将たちも食べてってくれよ!」


「それならお言葉に甘えて頂いていこうか」

 どうやら二人ともここで大活躍のようだな。元は大鳥のアルゲンタヴィスだったアルに、蜂のクイーンノーブルビーだったエリザベスだが、ダークエルフたちと意思疎通を図ることができているようだ。


「仲間が役に立ってるようで何よりだ」

 炊き出しの料理を受け取って食べている奴らの顔は笑顔だった。

 思っていたよりも状況は悪くないみたいで一安心だ。


 ……いや、見えない部分はどうなっているんだろうな。


「そうだ大将、大将がきたら族長のところに案内するように言われてたんだ」


「分かった」

 族長が俺を呼んでいる? 何の用だ……?




 ▽   ▽   ▽




「族長、大将を連れてきたぜ」

 ジェニスの案内で族長のいる部屋まで案内されたが、中には族長の他に、あのツインテウンディーネもいる。略してツインディーネと心の中で呼んでおくか。

 ツインディーネがいるなんて珍しいな。また何かあったのか……?


「あら、アンタたちも来たのね。丁度良いわ、話を聞きなさい」

 ツインディーネと族長は真面目な雰囲気だ。面倒ごとじゃなければいいがな……。

 案内されて族長と同じくゴザに座るが、ツインディーネは立ったままなのか。


「この村以外にも、他の多くの村でも憑き物による被害があったと報告を受けた」

 族長から聞かされた言葉は、俺を憂鬱な気分にさせるには十分過ぎる言葉だった。

 つまり、あの規模の襲撃が、他の村々で起こったってことだろ。どうやって対処したんだ? ……いや、対処できたのか?


「大規模な襲撃でどこも手一杯だったのよ。私も他の村にかかりっきりでここにこれなかったし、護りきれなかった村もあるわ……」


「ということは、被害は甚大か」

 霞が面白くなさそうに口にしているが、それなりの戦力を持ってる俺たちでも苦労した相手だ。他の場所じゃあ対抗する術なんてほとんどなかったんじゃないか……?


「他の村も管理者の大精霊たちが対応してたけど、それでも酷い有様だったわよ……」

 ツインディーネの言葉と表情から、悔しそうな感情が読み取れる。そりゃ無念だったろうな……。


「わらわたちがいなかったら被害は更に広がっていたであろうな」

 アスラの言う通り、俺たちがカシウスや地竜たちを倒していなければ、全滅もあり得たわけだ。


「それでよ!」

 バンッとツインディーネが机を叩いた。まるで気持ちを切り替えたような、そんな雰囲気を感じる。


「アンタ! 憑き物が増えた原因を調べてきなさい!」


「……は?」

 ツインディーネが俺を指さしてるんだが、アイツは何を言ってるんだ???

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