第50話 ダークエルフの村の変化
白の大蛇、アスラの上に乗って移動中――
霞の話曰く、地竜戦のときに霞から流れ出た神気が、俺を経由して従魔たちに行き渡ったことで、アスラは神聖の性質を得て、再び人の姿に変化することができたという話だ。
あの戦いで従魔全員が神気の混じった魔力を取り入れたことで、何かしらの変化が起こり、エリザベスやアルは喋れるようになったとみるべきだろう。
しかし霞の神気解放か……。
「主……もう食えないぞ……」
俺の膝を枕にして、アホみたいな寝言を放っているこのウンディーネだが、やはり大精霊であり、水の女神の眷属ということか。
気まぐれで一緒に行動してくれていると思うが、せめて帰るまでは愛想を尽かされないように気を付けよう。
▽ ▽ ▽
そんなこんなでダークエルフの村に到着だ。やっぱアスラの移動は早くて爽快だな。
移動の振動もほとんどない上に、乗り心地も良い。
そのアスラは、今は人型に変化して戻っている。
右に霞、左にアトラ、後ろにアスラと、俺を護衛するようなポジションだ。
まるで要人になったような気分だぜ。
アスラは三歩下がってついてくるが、この現象に何か覚えがあった。
確か昔の女性は、男を立てるために三歩後ろを歩くみたいな作法があったような気がする。
そんな古い作法は気にしなくてもいいんだが、まぁアスラがやりたいようにやらせておこう。
……にしても、三人がこうして警戒するのも仕方ないか。
憑き物と同化し、村や俺たちを襲ったカシウスという男は、この村の出身でダークエルフだった男だ。
ここはそのダークエルフの村で、カシウスと同じようなやつがいないとも限らない。三人が慎重になるのも仕方ないっちゃ仕方ないが、周囲のダークエルフや獣人たちが怯えてるだろうが……。
「ご主人様、もうお体はよろしいのですか?」
クイーンノーブルビーのエリザベスがどこからともなく空からやってきた。
エリザベスは元は蜂の魔物だったが、俺の従魔になり、更に今は人型に進化して言葉を話すようになり、亜人という括りになっているようだ。
アラクネのアトラと同じ亜人という故に、エリザベスも結界内でも動き回ることができている。
「あぁ、とりあえずは問題ない。心配かけて悪いな。エリザベスはここで何してたんだ?」
「はっ。霞様の指示で、アル殿と共に空から周囲の警戒をしていました」
「そうか、異常はなかったか?」
「はい。今のところ異常は見当たりませんでしたが、引き続き警戒を行いますか?」
今ダークエルフの村は復興中で、周囲への対策が不十分な状態だ。そんなときに結界を破るような憑き物の不意打ちを受けたら……ひとたまりもないだろうな。
張り直されて更に強化された結界を突き破るようなやつがいたら、俺たちでも対処は難しいかもしれない。
そうなったときに先手を打てるよう、エリザベスたちには見張りをしてもらうのが良いはずだ。
「あぁ、悪いが頼む」
「了解しました。それでは失礼します」
そう言ってエリザベスが飛び去って行ったが……ピィピィ言っていた頃のエリザベスと比べると、まるで別人だな。どうしてああなった?
「か、霞様!」
前方から、獣人の娘が霞の名前を呼びながら走ってきているが、特に不穏な雰囲気は感じない。
「霞、何かしたのか?」
「あぁ、多分アレだろう」
俺の知らない間に霞が何かをしていたようだが、なんだ?
「はぁ……はぁ……霞様、お湯をお願いしたいのですが、いいですか?」
息切れしながらお湯を求めているが……お湯――風呂か?
「主、行ってやってもいいか?」
「あぁ、構わないぞ。俺もついていく」
何をしているのか気になるので、俺も霞の後をついていく。
二人が向かった先には大きめの建物が見えるが、あそこが風呂場か?
「おぉ婿殿、もう体はいいのか?」
俺の拠点にある風呂を作ってくれたジェニスのオヤジ、バルトンが話しかけてきたが、俺はジェニスと結婚した覚えはないし、する覚えもない。
「誰が婿殿だ。俺はジェニスに婿入りした覚えはないんだが?」
「元気そうだな。倒れたと聞いたときは焦ったが、無事で何よりだ」
そう言ってバンバンと俺の背中を叩くのはやめてくれて……地味に痛いんだが。
「霞が入っていった建物だが、風呂場なのか?」
「あぁ、ジェニスの案でな。霞様の協力のもと大浴場を作ってみたが、これがなかなか評判が良くてな。今では必要不可欠な場所だ」
「すぐにぬるくなったりしないのか?」
「今は火の魔法を使える者に温め直してもらっているが、いずれは魔法を使わず、霞様の手も借りない浴場を作るつもりだ」
沸かす機能、給水する機能、この二つが問題になってくると思うが、一体どうやって実現させるのか興味深い。
ジェニスが言い出したのは、俺が借りている家に増設した風呂を見たからだろうな。
俺のしたことが呼び水となって、技術を向上させるようになったことを喜ぶべきなのか、あるいは反省するべきなのか。今の俺には分からない。
あまり過度な技術進歩というわけでもないし、そこまで深く考える必要もないだろうが、少し迂闊だったところはあったかもしれないな。
まぁこの程度の風呂なら、既にこの世界にも存在している技術だろうし、それがたまたまここにはなかっただけのことだろう。そう思うことにする。
世界バランスを崩す程の物でもないだろうし、考えすぎるのも考えものだな。
「そうか、できるといいな」
今の俺にはこれくらいしか言えないが、是非頑張って欲しい。
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