第47話 衝撃の連続




 ………………。


 …………。


 ……。


「っつぅ……」

 眠りから目が覚めた――体中が痛い――脱力感が酷い――しんどい。


 ……そうだ、カシウスと戦って、決戦スキルを使って……意識を失っていたのか。


 霞が抱えて拠点まで運んでくれたか……いや、なんで俺は生きている?


 気を失ったことでスキルが中断されたのか?


「ふぅ……」

 決戦スキル<モンスターカーニバル>。できればもう使いたくないスキルだが、あの脅威相手に勝ったんだよな……そうなると使うべきところで使うしかないよなぁ……。


「はぁ……ん?」

 横に誰かが伏せるように寝てる?

 和風の着物を着た……女か? この女が看病してくれたんだろうか。

 霞はどこに?


「ん……」

「……」

 目を覚ました女と目が合った。


「京太郎、いや、主殿、目が覚めたか」

 俺の名前を知っている? 何者だ――!?


「うむ、健勝そうで何よりよ」

 どことなく高貴な雰囲気を漂わせているこの女は一体……いや、異世界で着物???


「ま、待て、お前は何者だ? なんで俺の名前知っている? 霞の知り合いなのか?」


「やっぱり気づいてはもらえぬか」

 気づく? この女は何を言ってるんだ……?


「わらわはアスラじゃ」


「……? ……?? ……???」


 女の言葉が一瞬理解ができなかった。


 アスラは蛇だ。人ではない。だから人違い……だと思ったが、気づいて欲しいという言葉の意味は、自分の正体を俺が知っているという前提で出てくる言葉だろう。だがこの女は、人間の女の姿――

 

 と高速で思考を張り巡らせていたところで、俺の持っているスキル、<エヴォリューション・オブ・オールティングス>と族長の話が思い出される。


 つまり、アスラは憑き物地竜たちを倒して、人の姿に進化したという可能性だ。


 何故真っ先にその答えが出てこなかった、それには少し理由がある。


 人型に進化するにしても、段階というものがあると思っていた。


 例えばエリザベスだ。蜂から人型に進化したが、あれはまだ蜂としての姿を保っていた。あそこからもう何段階か得て、人間に近い姿になるか、あるいはあの姿が終点なのではと、俺はそう思っていた。


 だがこのアスラは、あの蛇の姿から、一気に人間の女の姿になってしまっているわけだ。

 

 それを一瞬で理解しろというのは無理がある。何故、なんで、どうしていきなり人間の姿になってしまったのか。

 おまけに言葉もちゃんと話せている。これがスキルの力なのか?


「あのアスラ……なのか」


「だからそう言っておるではないか」

 あまりの出来事に、寝起きのせいもあってなのか、現実に起きてることを、まだ完全に理解ではできなかった。


「……」

 異世界に召喚されたときはここまで混乱しなかったのに、蛇であるアスラが人間の女に進化したことで混乱してるとはな。


「いや、アスラの姿に驚いただけだ。進化おめでとう」


「……進化ではないのだが、まぁ、いいじゃろ」

 アスラは嬉しそうに微笑んでいる。喜んでくれるなら何よりだが……。


 ここで一つの懸念が生まれてしまった。


 これから先も、今まで通りこの女性を前線で戦わせることが……俺にはできるのか?


 今までは蛇の魔物ということで特に思う所はなかったが、こうしてたおやかな人間の女性の姿になってしまっている以上、戦わせることに抵抗が出てきてしまった……。


 霞が戦ってるんだから今更という気もするが、こうもわかりやすく人間の姿をされていると、どうしても気が引けてしまう。


 突然家の扉が無遠慮に開かれた。


「お、主よ、目が覚めたか」

 どうやら霞が戻ってきたようだ。後ろには知らない女の子……いや、下半身が虫っぽい子がいるんだが?


「アスラのことは問題なさそうだな。では次はこっちか」


「キョータロー!」

 その下半身虫のゴシックドレスを着た少女が、俺の名前を呼んだ。


 まさかこの流れは――


「うわっ」

「おろ」

 いきなりその子がアスラを糸で簀巻きにして外に放り出したぞ……。

 なんで? どうしてあの子がそこまで怒ってるんだ?


 俺が寝てる間に何かあったのか……?


「クックック、主よ、このアラクネの娘は、アトラ殿だよ」


「……!」

 まさかアトラまでも進化していたとは……。

 それに予想通りアラクネに進化か。


「そうよぉ、やっとキョータローと言葉を交わすことができるようになったのよぉ!」

 アラクネに進化したというアトラ。確かに下半身の蜘蛛の部分も赤く、ゴシックドレスも赤い。アトラと言われれば面影は残ってるが……。


「……どうかしらぁ?」

 アトラが上目遣いで俺を見ている。

 なんか俺に対しての好感度が高すぎないか? 正直怖いんだが……。

 

 上半身の人の体は中学生くらいのサイズだが、下半身の蜘蛛の部分はなかなかゴツイ。

 赤毛がモフモフとして手触りが良さそうだが……。


「あ、あぁ……可愛いと思うぞ」

 可愛いというのは偽りない感想だ。整った顔にパッチリとした瞳。腰まで伸びた長い赤髪。どこから出てきたのか分からない赤いゴシックドレスにヘッドセット。

 世間一般から見ても美少女だとは思う。


「んふふふふ……」

 俺が褒めるとアトラは俯いて笑い出した……やっぱり怖いんだけど。

 口には出せないが、アトラは蜘蛛のままでいてほしかったな……。

 多分それを口に出してしまうと、今のアトラを大きく傷つけてしまう。


 しかしアスラやアトラが進化したということは……霞を見るとまだ何かありそうだ。頭が痛い気がする。


「それと、ダークエルフの村は復興を始めた。私たちの手助けがあれば、飢えることはないだろう」


「そうか……それは良かった」

 気になっていた一つが解消されてホッと一息だ。


 ……しかしこの流れだと、エリザベスやアルにも変化がありそうだな――そう思っていた矢先、エリザベスと……何者かが家に入ってきた。


 その何者かは鳥の頭を持ち、鳥の翼を背に携えている。

 まさか――


 いきなりエリザベスと何者かが跪いた。


「ご主人様、ご回復心からお喜び申し上げます」

 エリザベスが喋った。しかも強そうな女の声だ。

 まさかしっかり喋れるようになっていたとはな。進化の影響なのか?


 そして隣の何者かと目が合う。


「この度マスター様のお力で進化することができました、アルです」

 やっぱりか……そうなんじゃないかと察してはいたが、こうやって口から説明されると衝撃的だ。


 アルは大鳥から鳥人に進化したようだ。

 手や足は人のそれだが、頭だけが鳥と挿げ替えられたような見た目だ。

 何も知らなかったら、鳥のマスクを被ったコスプレにしか見えなかったと思う。


 エリザベスは人型に進化しても喋れなかったのに、アルはいきなり喋れるのは何でだ?

 何か進化の過程が違ったりしたのだろうか。


「そうそう、ベヒーモスも進化して、逞しい姿になったぞ」


「……そうか」

 カバのあの姿でも十分逞しい体だと思ったんだが、霞が逞しいという姿は、一体どれほどのものなのだろうか……。


「種族名は確か、チャリオットヒポポタマスだったか」


「チャリオット……」

 戦車の意味だったよな? 進化する前でも十分戦車っぽかったが、アレ以上なのか……。


「それでだ主」


「……まだ何かあるのか?」


「あのとき倒れていた地竜も仲間にしたぞ」


「……………………は?」

 玄関扉の先に影が――地竜の顔がこっちを見ている……。


「これで我らの向かうところ敵なしだな! ハッハッハ!」


「マジかよ……」

 赤い地竜が目礼してきた。ああ見えて礼節を知っているようだが……。


 ハァーーーーーー……これ以上増やしてどうすんだよ。


 勝手なことをするなと言いたいが、もし従魔にしていなかったらあのまま死んでいただろうしな、悪気があってのことでもないだろうし、怒るのも気が引ける。

 別に仲間になったことで不都合なことはないが、帰るときのことを考えるとなぁ。


 色々と気が重いな……心の準備が出来ていない内に、こうして次々に大きな変化がやってくるというのは、なかなか精神的に悪い。


 そして全員が俺に対して好意的であり、忠誠を誓っているように見えるが……それが正直息苦しい。


 魔物姿だったときのほうが気楽に接することができたが、これからはそうもいかないだろう。

 言葉が通じない方がお互いに都合が良いこともある、という説もあるんだがな……。


 進化したことを喜ぶべきだし、従魔たちの忠誠心を褒めるべきなんだろうが、やはり俺の心がそこまで追いついていない。帝王学でも学んでいれば違ったかもしれないな……はぁ。


 流石に蔑ろにしてしまってはかわいそう過ぎると理解はしている。だからあとは俺の心持ち次第だ。

 早くこれに慣れて、従魔たちの期待に応えられるようにしなければ……。


 当初は魔物姿の従魔たちの居場所を作ってやらなくてはと悩んでいたが、今は別のことで頭を悩ませていくことになりそうだ。


 なんにせよ、誰一人欠けることなくあの状況をクリアできたことを喜ぼう。


 ウンディーネの霞。


 アラクネのアトラ。


 チャリオットヒポポタマスのベヒーモス。


 クイーンノーブルビーのエリザベス。


 鳥人のアル。


 ヴリトラのアスラ。


 ……そして地竜。


 こうしてみると増えた……というか多いな。


 だがこれも全て俺の仕出かしたことだ。責任を持って支えていくから、俺のことをも支えてくれると嬉しい。


「そうだな、これからもお前たちの力、頼らせてもらうぞ」


 だからこれから先、俺自身もしっかり相応の力をつけないとな。

 

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