第43話 追跡




 このやり場のない怒りは、カシウスとかいう男にぶつけるほかない。

 

 俺の持てる全ての力を使って叩き潰す。

 

 カシウスという奴はそこまでのことをしでかしたのだから。


「キョータロー殿、きてくれたのか」


「……族長、無事だったようで何よりです」

 族長がシーリアや護衛を引き連れてやってきたが、大きな怪我も無さそうで良かった。


 奥の方ではジェニスがバルトンと再会して喜んでいる。こっちもほっと一息だ。


「……儂が無事でも民がこの有様ではな。族長失格だ」

 族長の無念そうな顔と気持ちがひしひしと伝わってきた。その想い、俺が受け継ごう。


「族長、これをやった奴はカシウスという男で間違いないですね?」


「ああ……。姿を消していたと思ったら、地竜の憑き物を取り込んでいたとはな……」


「差し出がましいようですが、その男の抹殺を、俺に任せてもらえないでしょうか?」


「……良いのか?」


「任せてください。助けた獣人を殺された俺も、無関係ではありませんから」

 思い出しただけではらわたが煮えくり返って、どうにかなりそうだ。


「そうか……ではお主に任せよう。可能な限り支援は行う。カシウスはここから見える山の方へ消えていったと報告を受けている」


「ありがとうございます。では」

 一礼して族長たちと別れる。

 カシウスは山に向かったらしいが……ここから見える山はあれだよな。

 アスラに乗って移動すればすぐに辿り着けるか。


「よっと……アトラ、アスラの上に乗ってくれ。霞たちもだ」

 アトラの上に乗って、更にアスラの上に乗ってもらう指示を出す。


「キ」

「分かった」

 全員アスラの上に乗って、少しでも体力を温存させておこう。

 

 ベヒーモスすら載せられるアスラは、やっぱり尋常じゃない大きさの蛇だな。


「大将!」

 ジェニスがバルトンと一緒にやってきたが、何かあったか?


「どうした?」


「無事に帰ってきてくれよ!」


「……ああ、任せろ!」

 こうやって誰かに言われるのも悪くないな。怒りの感情が少し和らいだ気がする。

 少し頭に血が上り過ぎていたかもしれないな。


「ジェニスを悲しませるなよ!!」

 バルトンは何を言ってるんだ……どう返事したものか悩んだが、手をあげて答えておこう。


「よし、出発だ!!」




 ▽   ▽   ▽




「主、カシウスという男の情報を集めておかなくて良かったのか?」


「……今は一刻も早く仕留めることを優先した。霞、言われてた地竜って、どれくらい強いんだ?」


「そうだな、竜種だけあって、上位種の強さを誇るが、中位種に近い存在だ。アスラや私一人だけで処理できる程度だな」


「だろうな。例え憑き物付きだろうが、決戦スキルを使って全員でかかれば造作もない相手だろ」


「主らしくない考え方だな。いつもならもっと慎重に動くと思っていたが?」


「……らしくないか。そうかもしれない。それだけ怒りに支配されていたってことだ」


「怒りは正常な判断を狂わすことがあるぞ」


「わかっている。まずは霞の目利きで敵を観察、どの程度の強さか判明したら、圧倒的な力を持って蹂躙する予定だ」


「やっぱりらしくないな」


「そうでもないぞ。相手は結界を破り、村を壊滅状態まで追い込んだ奴だ。今まで戦ってきたどんな相手よりも確実に強いだろ。ならば短期決戦で一気にカタをつける。長引いてもこっちが不利になりかねないからな、何かをされる前に叩き潰すのが最善の策だろう」

 なんであれ、憑き物の魔物を取り込んだダークエルフの男が不気味過ぎる。

 そんな奴相手に駆け引きをしてもロクなことにはならないだろうな。

 それなら一気に叩いちまえって話だ。


 決戦スキルの<モンスターカーニバル>がどいう程度なのかはわからないが、こっちにはアトラだけではなく、ウンディーネやアスラという上位種もいる。正直言って過剰戦力だと思っているが、それでも全力で叩き潰す。

 

 力に溺れて相手を低く見ている訳ではない。高く見ているからこその短期決戦だ。


「主らしくない考えだが、これだけの戦力だ。憑き物がついた地竜一匹程度、問題なく倒すことは可能だろう」

 霞のお墨付きだ。だが一つ気にかかっていることがある。

 何故カシウスは山へ向かったんだ?

 何か目的があって戻ったとは思うが、その目的が分からない。


 一体何をしに戻ったんだ……。




 ▽   ▽   ▽




「山の麓までやってきたわけだが……」

 道中の魔物は全てアスラが轢き殺したり食べ歩いてきた。伊達に天災のヴリトラと言われてたことだけはあるな。


「……主よ、向こうに遠ざかっていく気配があるぞ」


「遠ざかる? ……まかさ逃げてるのか?」


「かもしれんな」


「追うぞ! 絶対に逃がすな!! アルは空から索敵をしてくれ!」


「クェッ!!」

 今逃がせばきっと後々になって俺の障害になる可能性がある。

 これ以上力をつけられる前にケリをつけてやる。

 

「クェーー!!」


「主、アルが見つけたようだ」


「よし! アスラ、アルのいるところまで急いでくれ!」


 捉えた。絶対に逃がさんぞ……!!

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