第44話 人ならざる存在




 アルの誘導でカシウスがいる場所までやってきたが……待ち構えてやがったか。


「ナンダァオマエ?」

 もはや人ではないな、アレは。

 ダークエルフ特有の尖った耳をしてるし、その特徴や状況から見て、アイツがカシウスで間違いないだろう。


 普通の大人くらいのサイズだが、体は紫色で、手足は爬虫類、堅そうな鱗がビッシリついてやがる。


 顔も、目が片方まん丸でむき出しているように見えるし、喋り方からももはや正気とは思えない。まともに取り合えるような相手ではないな。


 もっとも、村をあんな風にしたやつだ。まともに取り合うつもりは毛頭ない。だが……。


「主よ、これは想定外だったな。まさか憑き物に憑かれた地竜がこれだけいるとは思わなかったぞ」

 霞が満面の笑みだが、俺は引き笑いだよ。


 憑き物に憑かれた地竜が六匹、カシウスの周囲にいる。かなり厄介だ。


 地竜……見た目はティラノサウルスに近いか。頭にはドラゴンのようなツノが、後ろ向きに二本生えている。これで地竜か……恐竜は全部地竜扱いになりそうだな。

 

 いや、そんなことを考えている場合じゃない。奥に倒れてる地竜がいるが、アレはまだ憑かれていないようだな。他の個体と比べて、体が赤い。

 憑かれている個体はみんな黒いので分かりやすい。


 逃げていたと思ったが、あの倒れている地竜を追いかけていたからだったかもしれないな。しかし何のために?


 ……取り込むためか? だから山へ向かった?


「……オマエタチモトリコンデヤルヨォ!!」

 六体の憑き物地竜が襲い掛かってきたか。マズイ。対策は憑き物地竜一体だけだ。カシウス含む七体は……ヤバイな。


「主!」

 ゴチャゴチャ考えるのはナシだ! 俺は俺のできることをやる。そしてあとは任せる!!


「スキル<モンスターカーニバル>!! あとは任せるぞ!!」

 アスラの邪魔にならないよう、飛び降りながらスキルを発動したが――


 ――っ!?


「ぐっ……」

 想像以上の現象に驚いて着地を失敗した……。


「主!」

「大丈夫だ!」 

 なんだこれっ……一気に半分くらい魔力を持っていかれたような、凄まじい違和感が体を襲ってきやがった。気持ち悪い、吐き気がする……!


「フゥーー……」

 だがその甲斐はあったようだな。霞やアトラたちの体が金色に光っている。見ただけでスーパーな感じに見えるぞ。


「……ほう、これは面白いな!」

 そう言って霞は地竜の一体を殴り飛ばした。

 殴り飛ばされた地竜は、木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいったぞ……。

 

 ベヒーモスは体当たりで、アスラは尻尾で木々を巻き込みながら地竜を吹き飛ばし、アトラは蜘蛛網で動きを封じてから斬撃のラッシュ、アルとエリザベスはコンビネーションで翻弄して一方的に攻撃を与えている。


 凄いな、圧倒的じゃないか。だが、決戦スキルというだけあって、俺のほうの消費もヤバイ。ガンガン魔力が垂れ流しで抜けていってる。


「ナ、ナンナンダオマエタチハ!?」

 このままカシウスも倒して欲しいが、そう簡単にはいかないか。


 一方的にやられていた憑き物地竜たちが、起き上がって反撃してきやがった。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 六体がまとめて咆哮だと!? 鼓膜が破れそうだ……!!


 霞やアスラはなんともないようだが、アトラ、ベヒーモス、アル、エリザベスが動けていない? マズイ!!

 

 怯んで動けていない従魔に、三体の憑き物地竜が襲い掛かってきたが――


「アスラ! アトラたちを庇えるか!?」

 俺の指示にアスラは迅速に動き、襲い掛かってきた憑き物地竜たちを再び尻尾で薙ぎ払った。


「よくやった……ぐっ!?」


「主!?」

 魔力の消費が激しいせいか、足に力が入らない……?!

 思わず膝を地面についてしまった……いよいよ本格的にヤバイな。


「俺は長くは持ちそうにない、一気にケリをつけてくれ――」

 まるで死にゆく者の言葉みたいだな。思わず自分で笑ってしまうくらいには、まだ余裕はあるみたいだ。


「少々遊びが過ぎたようだ。任されよ主。望みのままに殲滅してみせよう」

 ……霞の雰囲気が変わったか? いつもの陽気で好奇心溢れる面白女から、神のように神々しい雰囲気を身に纏っているというべきか……。

 いや、元々水の女神の眷属と言っていたし、そう感じるのはおかしくはないのかもしれないな。


 霞に任せておけば大丈夫だろう。今の霞にはそんな安心感があった。


「フゥ……フゥ……」

 視界がぼやける。意識を保つのが精いっぱいだな……。

 俺の意識が消えたらスキルは止まるのか?

 だとしたら意識を絶つわけにはいくまい……だが、これはキツイ……。


 魔力の流出が一向に止まる気配がない。もう少しで底を尽きそうなくらい気持ち悪い……。

 まるで長距離を全力疾走して疲れているのに、無理矢理全力疾走をさせられているような、そんな最悪な気分だ。


 これが決戦スキルか……もしかしてこのまま魔力が流れ続けて、俺は死ぬのか……?

 

 発動したら最後、自分の意思で止めない限り、死ぬまで魔力を放出し続ける。だから決戦スキルなんて言われ方をしている……とかだったりしてな。


 ダメだ、視界がぼやけて、もはや何が起こっているのか分からない。


 音で霞やアトラたちが戦っているということは分かる。


 だが意識がぼんやりとしてきた。音も何がなんだか分からなくなってきた。

 これが死に近づいているということなのだろうか。


 ……いや、死ねるわけがない。死ぬわけにはいかない。俺は絶対に元の世界に帰る。


 だからこんなところで死ねるかよ……!!


 その瞬間、眩い光で目がくらみ、意識が持っていかれる―― 

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