第37話 レジェンドテイマー




「……その、エヴォリューションなんとかというスキルは、どういったスキルなんでしょうか?」

 三つあるスキルの中で、族長はこの名前だけに反応していた。何かがあるんだろう。

 いや、これだけ御大層な名前だ、何かないほうがおかしいか。


「……別名<万物進化>と呼ばれる自動発動型スキルで、あらゆる従魔を……」

 なんだ? 族長が言い淀んでいるな。何か問題のあるスキルなのか?

 あらゆる従魔を……ということは、従魔に何かしらの変化を与えるスキルに思えるが……。


「あらゆる従魔をヒトへと進化させるスキルだと、聞いたことがある」


「なっ!?」

「ほう」

 あらゆる従魔をヒトに進化って、全ての魔物が人間に進化するってことか!?

 とんでもないスキルじゃねーか!!


 霞も知らなかったスキルみたいだが……超レアスキルなのか?

 レアスキル持っていた興奮よりも、嫌な予感による焦りのほうが大きいんだが……。


「シーリアよ、これから話すことは事実だ。心して聞け」


「は、はい」

 この前置きは……おいおい何を言いだすつもりだ……。


「我らダークエルフ族やエルフ族は、祖はあのゴブリンたちと同じと言われている」


「お父様!? 私たちがゴブリンと同じなんて、そんな話初耳ですよ?!」

 俺だって今までそんな話は創作でも見たことがないぞ。

 まさかダークエルフやエルフが、ゴブリンたちと祖を同じにしてるだなんて……いや、だからこのスキルなのか……!


「<万物進化>のスキルによって、ゴブリンから進化したという事実は、あまりにも非常識過ぎた。我ら以外の獣人もそうだ。元は魔物だったが、スキルによってヒトへと姿を進化させた存在なのだ」


「…………」


 シーリアはあまりのショックに言葉を失ってるな……。

 俺もそうだ。とんでもないスキルを持たされたもんだなこりゃあ……。


「故に、人族は我らを亜人と称し、差別を続けて虐げてきた。もっとも、今の人族が何故我らを迫害しているのか、その真実の理由を知る者は、もうほとんどいないだろう」

 確かに……元が魔物で、そこから人に進化した存在となれば、ほとんどの人間は恐れ、怯え、恐怖して差別し、迫害の対象にしていくだろうな……。


 というか現在進行形で虐げられていたのか。

 真実を知ればより過激になるだろうし、これは墓まで持っていこう。


「今やこんなことを知る者は、この村にもほとんどいないからな、これも仕方ないことだ。知れば無用な混乱を引き起こすやもしれぬと思い、今まで黙っていた。だがそのスキルを持つ者が現れてしまったのなら、遅かれ早かれ知れることになる」


「そんな……私たちがあんなゴブリンたちと一緒だなんて……」


「次期族長候補であるシーリアは知っておくべきことだ。これを後世の族長たちにも語り継いでもらうぞ」

 シーリアはショックでへたり込んでしまったが……俺も受けた衝撃はデカイぞ。

 まさかダークエルフやエルフたちがゴブリンと祖を同じにしていたとはな。耳が尖っているくらいしか似てないぞ。


 猿が人間に進化するのとは次元が違うと思うが、ここは異世界だ。

 科学や論理的な思考だけでは解明できないこともあると、今は納得しておこう


 で、俺がその進化のためのスキルを持っているなんてなぁ……。

 これが召喚されたときに知られていたら、間違いなく俺はここにはいなかっただろう。


 聞いた話を整理するとだ。アトラたちもこのままいけば、ヒトの形に進化するというわけだ。

 今思えば、エリザベスの進化からそのヒントはあったんだろうな……正に人の形に進化していたんだから。

 マジでとんでもないスキルを抱えさせられたもんだぜ。


 しかし気になるのは――


「……その進化が起こったということは、当然そのスキルを持っていたテイマーがいたんですよね?」


「うむ。かつてレジェンドテイマーと呼ばれていた存在だったが、どんな人物だったのかは知られていない。もしかしたらキョータロー殿と同じように、異世界の住人だったのかもしれないな」

 そのスキルだけが強く語り継がれ、人物像に関しては途切れてしまっているようだが、そんなとんでもないスキルを持った人物なら、未来永劫語り継がれていてもおかしくはないんじゃないか?


 いや語り継がれていないとおかしいだろ。

 神の御業に匹敵する偉業を成し遂げていたんだ。それともそのテイマー自身が神だったのか?

 そうなると、そのスキルを持っている俺は神か? はっ、バカバカしい。


「なにぶんこの話は、もう数千年も前の話だ。文献も残っていない上に、語り継ぐ人物も減り、こうして辛うじて断片的に残っているくらいでな。半信半疑であったが、こうして本物を見て、事実だったのだと実感できた」

 なるほどな。しっかりとした記録媒体がなければ、長期に渡ってその記録を残すのは難しいか。

 語り部として族長が断片を知っているだけでも、奇跡のようなものかもしれないな。


 しかしこんな世界のバランスを崩しそうなスキル、存在していていいのか……?

 過去にそのスキルがあったおかげで、今こうしてダークエルフたちがいるのなら、それは間違いではなかったのかもな。


 だが間違いなくその時代の最初は混乱していたはずだ。魔物がヒトの姿になるなんて、宗教によっては物騒なことになっていたかもしれない。

 今はそれなりに種類や数が多いようだから、多少新しく増えても大事にはならないかもしれないが……やはりバランスブレイカーにあたるスキルだな。


 厄介なのは自動発動型――パッシブスキルというところで、俺の意思とは関係なく従魔が人型に進化していくということだ。

 

 世界のバランスの均衡を保つために、俺は元の世界に帰ることを諦め、アトラや霞たちと別れるべきか……。


 ――否。断じて否だ。俺はどんな手段を使ってでも元の世界に戻る。


 必ずこの手で十億円を手にするまでは、どんな障害だろうと突破してやるさ。


 この世界のバランスはなんとかなるだろ。

 現になんとかなった例が俺の目の前にいるんだからな


 ……そのなんとかなる前に、多くの血が流れていたかもしれないが。


「私も初耳だったが、実に面白い話だな」


「霞様はご存じではなかったのですな」


「私たちが生み出される前の話だろう。私が顕現していた頃には、既にダークエルフや獣人たちはいたからな」


「そうでしたか」

 霞も知らない歴史か。それだけ古代の話なんだろう。そもそも霞の年齢はいくつなんだ?

 ……聞くのは野暮ってもんか。


 だが霞が言った通り、面白い話ではあった。

 人型に近づくことで戦闘能力はどうなるかとか、霞はこれ以上進化するのかとか、色々と気になるところはあるが、その内判るだろう。




 ▽   ▽   ▽




 こうして目的は果たした。族長とシーリアと別れて、あとは帰るだけだな。

 ……何か忘れているような気がするが、なんだったか。


「主よ、二つ目のスキルについて聞いていなかったが、良かったのか?」

「あっ」

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