第38話 獣人娘のお礼
俺が聞き忘れた二番目のスキル、<モンスターカーニバル>についてだが……。
霞曰く、<モンスターカーニバル>というスキルは、テイマーの固有スキルの一つで、一度発動したら使用者の魔力を消費し続けることで、従魔たちのリミッターを解除して力を増幅させる、いわゆる決戦スキルらしい。
一時的に限界突破した従魔たちは確かに強いかもしれないが、スキル使用者である俺の魔力が尽きたら効果も切れてしまう。
任意で効果を消すことができるようだが、効果終了時に従魔たちは、リミッターを解除したことによりかなりの負担がかかるようなので、連発はできなさそうだ。
俺は俺で、使い続けたら魔力が枯渇して倒れてしまい、ヘタをすれば死に至るらしい。そうでなくとも戦闘中に倒れてしまうのはマズイな。使う際は気をつけよう。いや、できれば使いたくないスキルだな……。
「というスキルだ」
「スキルを使うことで従魔たちの負担になって、寿命を縮めるようなことにならないといいけどな」
「それはないだろう。ただの疲労で動けなくなる程度だと聞いている……が」
「が?」
「主のことだからな。どんな効果を及ぼすかは未知数だ」
霞の言う通りだ。従来通りの性能なら問題ないかもしれないが、<エヴォリューション・オブ・オールティングス>だったか、別名は万物進化。こんなバランスブレイカーなスキルを持っている俺だ。
もしかしたら<モンスターカーニバル>のスキルも、普通とは効果が違うんじゃないかと悪い予想をしている。
<クリエイト・テイムミート>は問題なく普通のスキルみたいだから、そこは半々といった確率だな。
なんにせよ、あまり進んで使いたくないスキルだが、使わざるを得ないときは必ずやってくるんだろうな。憂鬱だ。
「あ、あの……!」
目の前に一人の獣人娘が現れた。
見た目は人が獣に近づいたようなタイプの獣人だ。鼻が獣のそれだが、顔の造形は人に近い。
手足もふさふさな毛が生えているが、俺と同じ人の手足だ。
目の前の獣人娘は犬タイプ……か? 全体的に茶色い毛とたれ耳、口周りや腕の内側には白い毛が生えている。
両手には葉っぱに包まれた何かを持っているが――
「何用だ?」
「あっ……」
それまでヘラヘラ笑っていた霞の真面目なトーンに、獣人娘が委縮してしまっているではないか。
「霞、もう少し優しく接してやってくれ……」
「む?」
む? ではない。
怯えさせてどうする。まぁ他人を警戒するという理由も理解はできるが、この娘は確かゴブリンの巣で助けた獣人娘の一人だ。
俺に害をなそうしている刺客ではないだろ。
「それで、何か俺に用か?」
「あ、はい! 助けてもらったお礼をしていなくて……その、良かったら食べてください!」
両手に持っていた葉っぱの包みを差し出してきたが……とりあえず受け取っておこう。
……温かいな。料理か?
「これじゃお礼にはまだまだ足りないですけど……みんなで頑張って作ったので、良かったら食べてください! 失礼します!」
それだけ言って駆け出して行ってしまった。まるで先輩に憧れる後輩女子みたいな感じだな。
「ほう、料理か。どれ、私が毒見をしよう」
流石に毒は無いだろうが、霞の提案を断るのも、俺を気遣ってくれている霞に対して可哀そうな気がする。ここは任せておこう。
単に霞が食べたいだけな気もするが、余計なことは言わない。口は災いの元だ。
「今開けるから待ってろ…………これは、良い匂いがするな。何かの肉の香草焼きか?」
葉っぱをめくっていくと、中から食欲をそそる良い臭いが漂ってきた。
細かく一口サイズに切られた肉と、緑の葉っぱの断片らしき物が散らばっている。
他にも何かの野菜が同じように、一口サイズに切られて混ぜられているな。
肉も良い感じに焼かれていて美味そうだ。
「では一つ……」
霞が手掴みで肉と野菜を摘まみ上げ、そのまま口に運んだ。味はどうだ?
「……美味いな」
霞のお墨付きがでたようだ。問題はなさそうだ。
箸が無いので、俺も素手で掴んで口へと運ぶしかなさそうだ。
「……驚いたな、確かに美味いぞ」
美味そうな匂いの中に嗅いだことのない匂いが混ざっていたが、この世界特有の香草か?
まぁ俺自身そこまで詳しいわけじゃないからな、向こうの世界にも同じような物があるかもしれない。
肝心の味だが、肉は良い焼き加減でしかも柔らかく、鶏肉に近い食感だ。
一番最初に頭に浮かんだのは、バジルソースだな。この料理にソースは使われていないが。
白米と味噌汁が欲しくなる美味さだ。今度作り方を教えてもらうか。
▽ ▽ ▽
「美味かったな」
「ああ」
俺と霞で全て平らげてしまい、程よく満足感を得られた。
白米と味噌汁があれば完璧だったんだが、無い物は仕方ない。
「あの獣人も、犬型の魔物から進化したんだろうか」
「何世代も重ねて、今の姿に至っているのであろう。ただ獣人は人族に耳と尻尾が生えた程度から、獣が二足歩行したような姿で産まれることもあるから、振れ幅が大きいらしいぞ」
ちゃんと言葉も通じるし、話も通じる。人間でも言葉が通じても話が通じないタイプがいるし、そういうのを考えたら姿なんて些末な問題だ。
……まぁ元の世界でも差別や迫害、争いが全くないわけじゃない。どこにでも起こり得る問題か。
「……そういえば、あの獣人たちを家に帰してやらないとだな」
いつまでもここに居させるのは、獣人にとってもダークエルフにとっても良好ではないだろう。
明日にでもアスラに乗せて順次帰してやらないとか。
「主が面倒を見てやるのはどうだ?」
「勘弁してくれ。俺には何もできねーよ」
自分のことで手一杯なんだ。誰かの面倒を見るなんてそんな余裕は一切無い。
仮に余裕があったとしても、いずれ俺はこの世界から消える予定だ。その後のことを考えれば、ちゃんと自分の居場所にいさせたほうが良い。
霞が言っているのは、俺がその居場所を作ってやればいいという意味だろうが、ただの人間でしかない俺にはどだい無理な話だ。
刹那の感情に任せて判断を誤らせるわけにはいかない。
俺は俺のやるべきことを見失ってはいけないのだからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます