第29話 知らせ
謁見も終わって出てきたが……どうするか。
「主よ、少し村を見て回ってみないか?」
「……そうだな」
と言っても、ざっと村を見渡しても、特に目立つようなものはない。
店や冒険者ギルドなんてものも無さそうだし、特に見るようなものはなさそうだが、せっかくの異世界だ。ちょっとした観光気分で見回ってみるのもいいかもしれない。
▽ ▽ ▽
村を見て回った結果、魔物を解体しているところや、皮をなめしている作業など、なかなか面白いものが見られた。
畑は各家庭に最低一か所はあったが、自給自足がメインなのか?
どんな野菜があるのか興味はあるが……聞いてみようにも、みんな俺たちを恐れているのか、視線を向けると会釈してどこかに消えてしまう。多分、隣にいる霞のせいだろうな。
外敵から村を守るための壁や柵がないが、結界があるから必要ないのだろう。
だが結界を破壊されたときはどうするつもりなんだ? 現に結界を破壊してしまったわけだしな……。
まぁほとんどの家は木の上にあるし、いざとなればそっちに逃げればいいのか。
と、そんなことを俺が気にしても仕方ないか。
「ここは良い村だな」
霞がどういう理由でそう言ったのかは分からないが、特に飢えた子供もいないし、荒れ果てた様子もなく、みんな健康そうに生きている。それだけでも良い村なのかもしれない。
「そうだな。じゃそろそろ戻るか」
「ああ」
霞は満足そうだし、それだけでもきた甲斐はあったか。
アトラたちにも何かしてやりたいところだが……美味い飯を食べさせるくらいしか分らないな。
いや、あるな。繁殖のためのパートナー探しか。だが同種をテイムしたとしても、その相手を気に入るかどうかはわからない。なかなか難しい問題だな。
「おーい! たいしょーー!!」
この声はジェニスか……ベルカも一緒みたいだが、どうしたんだ?
「大将! 族長が大将のために家を用意してくれるってよ!」
「それは本当か?!」
「オレたちを助けてくれたお礼だってさ」
思わぬ知らせが降ってきたな。まさか家を用意してくれるなんて、これほどありがたいことはない。
「いや待てよ……俺は仲間がいるから結界の中では過ごせないぞ?」
「あっ、そういえばそうだな……どうすんだ?」
「……その問題は大丈夫だ。結界の外に小屋があっただろう」
「ベルカ、それは……」
そういえばあったな。あそこを使っていいなら助かるが……ベルカとジェニスの様子が気になるな。
「あの家を使うと良いでしょう。中は掃除してあります。すぐにでも住めますよ」
ベルカの愁いを帯びたような表情だ。あの家には何か特別な思いがありそうだが、あまり詮索するのもやめておこう。
「……分かった。ありがたく使わせてもらう」
なんにせよだ、これでこの世界での住居を手に入れたことになる。
番犬なら番従魔がいれば、この森でも普通に暮らすことはできるだろうな。と言っても、この世界に長居はするつもりはないがな。
アトラたちを育成して進化させるための場所として、最大限利用させてもらう。
「そういえば、お前たちをハメた男は捕まったのか?」
「……カシウスの野郎、村にいなかったんだよ」
「逃げられたのか?」
「わからない……」
ジェニスたちを罠にハメたダークエルフの男は消息不明か。
こういうのは大抵あとで敵として現れるのがお約束だからなぁ。面倒なことにならなければいいが……。
「ま、なるようになるだろ。何かあれば可能な限り力になってやる」
俺じゃなくて従魔たちが、だけどな。
ジェニスたちを助けたおかげで、話もスムーズにいっただろうしな。ここで更に貸しを作れば、何かあっても優位に事が運べるだろうという下心がある。
俺は誰かに借りを作るのは嫌いだが、誰かに貸しを作ったり、借りを作らせるのは好きなのだ。
「大将……」
「あまり過度な期待はするなよ」
「ああ! そうだ大将! あとで飯作りに行ってやるよ!」
「そいつは楽しみだな」
「じゃあ用意してくるから、また後でな!」
そう言って駆け出して行ったな。じゃ、俺たちも行く――ん?
「キョータロー殿……」
「……どうしたベルカ」
「あの家は……どうか麗に使ってやってもらえないでしょうか」
「心配するな。こう見えて掃除は嫌いじゃないからな」
「ありがとうございます……呼び止めて失礼しました。では……」
ベルカが頭を下げて去っていった。
無理な笑顔ってのは簡単に分かる。あの口ぶりから、知り合いが使っていた家なのかもしれないな。
親兄弟か、あるいは恋人か。なんにせよ、その人物が死んで空き家になったということだろう。
死因は気になるが、好奇心で聞いて良い事でもなさそうだ。
「俺も死なないように気をつけないとだな」
「何を言う。我らがいるのだから主が死ぬはずもないだろう」
確かに霞の言う通り、憑き物以外なら今のところ相手にならない。
だが慢心はしない。霞を凌ぐ魔物が現れないとも限らないしな。
ゆめゆめ忘れないようにすべし。
「頼もしいことだ。それじゃあ俺たちの新しい家に帰るぞ」
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