第30話 新居




「ただいま。特に異常は――解体中か」


「キ」

 あれからジェニスたちと別れてアトラたちと合流したが……。

 

 アトラは魔物を解体中で、大量の魔物の肉が大葉の上に山盛りで置かれている。

 骨はアスラが処理しているようだが、喉に引っかかったりしないのか?


 ……いや、バリボリいってるな。スナック菓子みたいに食ってやがる。

 これなら食事や死体処理に困ることはなさそうだが、ちゃんとした肉も食わせてやらんとだな。


「肉が山のように溜まってるが、それだけ魔物に襲われたのか?」

 エリザベスが首を横に振っている。襲われた訳じゃないのか。じゃあこの肉はなんだ?


「……そうか。主、ダークエルフたちに渡す分もあるようだぞ」

「クエッ」


「なるほど、そういうことか。よくやった」

 ダークエルフたちのために、わざわざ狩りに行ってくれたみたいだな。ありがたい。

 これだけの量があれば、村でも一日二日くらいは持ちそうだが……。


「……あとでジェニスがくるだろうし、帰りに持ってってもらうか」

 生のままで放置するのは気が引けるが、数日置くわけじゃない、火を通せば大丈夫だろ。


 まだ大量に吊り下げられて血抜きされてるが、一体どれだけ狩ったんだ……。

 この異質な光景だけで魔物除けになりそうだが、知能がない魔物なら血の臭いにつられてやってくるか?


「――あぁこうするか、アトラ。残りの血抜きしてる魔物の死体を、ジェニスたちに渡すぞ」

「キ」

 解体の手間はあるが、肉に切り分ける前のほうが保存性はいいだろ。多分。

 皮素材のこともあるだろうし、そっちのほうが喜ばれるんじゃないか?


「で、こっちの解体した肉をテイムミートにして、お前たちの飯にするか」


「キ!」

「クェッ」

 みんな喜んでくれているようだ。俺の飯はジェニスが持ってきてくれるようだし、あっちに任せよう。

 アスラは尻尾をびたんびたんさせてるが、音と振動が響いてくるからやめさせるべきか。


「……それじゃあ、さっそくあの家の中を見させてもらおうか」

 ダークエルフの村にあったものと同じ、木造の一階建ての家だ。

 朽ちている様子もないし、綺麗な状態だな。

 誰かが住んでいたということは知っている。家具も揃っているだろうが……本当にいいのか?

 

 ベルカの知り合いの家だということは察している。そこによそ者の俺が住むのは、かなりの抵抗がありそうなもんだが……ベルカは本当に受け入れているのか。

 ま、今はそこまで考えても仕方あるまい。使えるものは使わせてもらおう。


「……」

 大きい木造の両開きドアを押して開ける。鍵はないのか? まぁいい。中は――


 ワンルームだな。右奥に木製のベッド、左奥の小部屋は……多分トイレか?

 

 ベッドとトイレの間に暖炉が設置されている。


 手前右部分はキッチンだな。床から下に段差になって、土の地面が露出している。

 そこに石で造られたであろう竈が設置されている。


 横にある大きな瓶には……水が入ってるのか。水道設備なんてものは無さそうだしな、自分で汲んでくるか、魔法で用意するしかなさそうだ。

 水は霞に頼めば問題ないだろうが……トイレだな。恐らく汲み取り式だろう。

 文句は言うまい。あるだけマシなのだからな。


 中央には長方形のテーブルと、丸太を輪切りにしたような丸い椅子が四個。畳八畳以上はありそうな広さだし、暖炉もあって悪くないな。


 だが風呂場がないのが唯一の不満か。まぁ湯を沸かす手間暇やコストを考えれば、ないのも無理はない。だがなんとかしない部分だ。


 ん……? テーブルには埃が積もっていない。ちゃんと掃除されてるようだな。

 掃除したのはベルカだろうか。これは俺もちゃんと掃除しないといけないな。


「なにはともあれ、今日から暫くはここが俺たちの家だ。去るそのときまで大事に使わせてもらおう」


「ここが人の住まう家か、面白い場所だな」

「キ」

 アルやアスラは流石に中に入れなかったが、アトラやエリザベスは問題なく中に入れたようだな。ベヒーモスもギリギリ入ることはできそうだ。

 

 両開きの扉を開けるときも気になったが、あまり大きくない中型程度の魔物なら、家の中に入れるようになってる仕組か? そのための両開きじゃないかあれ。


 ワンルームで部屋は広く、暖炉の前には広めのスペースがある。そのスペースに魔物を休ませておく……そう考えるなら、前任者はテイマーだった可能性が高い。そうじゃなきゃ結界外に家を建てる理由もないように思える。

 だがそう考えると、やっぱこの世界のテイマーは生き辛いんじゃないか?


 しかしそうなるとだ。俺よりも前に王国に召喚されていたテイマーたちが少し気になるな……。

 

 あんな対応をしてくれた国だ、ロクな目に遭ってなさそうだな……。

 この森に棄てられたやつらも、果たして何人生き残ってることやら。


 ん? そういえばあのダークエルフの村は何人テイマーがいるんだ?

 もし複数いるなら一か所にまとめておいたほうが安全だと思うんだが、ここにはここ一軒しかない。

 

 まさかテイマーは一人だけだったのか? 村の規模はそこまで小さくはなかったし、もう何人かいてもいいと思うんだが……結界の四方に散っていたりするのか?


 ……わからん。あとでジェニスにでも聞いてみるか。

 今はアトラが解体した肉をテイムミートにしていく作業だ。

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