レジェンドテイマー ~異世界に召喚されて勇者じゃないから棄てられたけど、絶対に元の世界に帰ると誓う男の物語~

裏影P

1章:棄てられたテイマー

第1話 勇者ガチャ




 ――二〇二二年二月二日、昼過ぎの二時


『今日未明、昨年行方不明になっていた男性が重傷の状態で発見され――』


「よっしゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


、こんな大声を出したらご近所さんに迷惑かもしれないが、この気持ちを抑えられるわけがない。



 何故なら! 俺は!!



 宝くじ一等の十億円に当選したからだッッッ!!!!!!



 この喜びを我慢できるわけがない!

 

 これで一生働かずに自由気ままに生きていける!!


『――男性の奇抜な服装から、何かしらの事件に巻き込まれたのではと――』

 

 さっそく換金しに――

 

 ってなんだ!?


 ――体が光って――っ?!

 

 クソッ、が眩しくて前が見えないッ……!!



 ▽   ▽   ▽




 ………………。

 

 …………。


 ……。



 光が落ち着いてきたか……?


「……ん?」


 目を開けたら王様とお姫様が俺を見ている?


 周りには鎧を着て槍を持った兵士たち?


 ここは……中世の城みたいな場所?


 なんだ? 何が起こってる?


「残念ながらまたもテイマークラスです。これからスキルチェックに入り――」


「もうようもうよい、次だ次」


「またテイマーですか? これでもう百二十七人目ですよお父様……」

 側近らしき人物が王様っぽい人に話しかけていたが、それを王様が遮り、お姫様みたいな女がゴミを見るような目で俺を見ている……。


 ……宝くじ一等当選したから、なんかのサプライズなのか?


 宝くじの一等を当てて喜んでいたら、いきなり体が光だして、今ここにいる。


 だがカメラもスタッフもいないし、撮影という雰囲気でもない。


 突然体が光りだした非科学的な現象と、今のこの状況から察するに……いや、非現実的だな……しかし……。


「さっさとそいつもかえしてやれ。次だ次。まだ召喚できるであろう?」


「はっ。召喚士たちにはマナポーションを飲ませて対応しています」

 王様っぽい人物の発言で、俺を囲んでいた兵士の一人が動きだし、無言で俺についてくるように顎で案内してくれている。

 不愛想な態度になんだかイラッとしたが、一体何が起こっているのか不明だし、金属の鎧に槍を持ってる相手に、迂闊な行動や言動はするべきではないだろうな。


 他の兵士たちよりも豪華な鎧に見えるが、隊長クラスの人物か? いや、兵士というよりは騎士か? なんにせよここで暴れてロクな目に遭わなさそうだし、大人しくついていこう。


 まずは何が起きているか、冷静に判断して対処していくしかない。


 信じられないけど、多分ここは俺のいた世界とは違う異世界かもしれない。

 

 突然体が光って見知らぬ場所に移動しているという非科学的な現象を、この身で体験したからには受け入れるしかないよな……。

 

 そして王様らしき男が俺を帰してやれと言っていたことから、俺はこの騎士に案内されて元の場所に帰ることができる……はずだ。


「一体いつになったら勇者様が召喚されるのかしら……一刻の猶予もないと言うのに」

 後ろからそんな言葉が聞こえたが、この声はさっきの王女さんか。

 その言葉から察するに、勇者がいないとマズイ状況なのか?


 ……マズイ状況だから召喚してるのか。


 それにしても、日本語しか知らない俺が言葉を理解できているから、ここが本当に異世界なのかは半信半疑だし、これが現実かどうかも疑わしいんだよな……。


 喜びのあまり失神して夢を見ている可能性……はないか。意識ははっきりしている。


 俺の手に持っていた宝くじは無い。衣服もファンタジーな感じに変わってる。

 

 簡素な村人っぽい衣服に白いローブを纏い、茶色い革製のショルダーバックを肩から下げている状態だ。裸足だった足にも革靴っぽい靴が履かされてるしな……。素足だから臭くなりそうだ。


 これらを俺に気づかれず着させるのは不可能だ。

 眩しくて目を開けられなかったが、目を開けるまで何かが俺に触れた感触はなかった。

 それにその時間も一瞬だったことからも、ドッキリの線は消してもいいだろう。


 ……そう言えば、俺を見てテイマークラスって言ってたよな?


 今着ているのは、多分それの初期装備みたいな物か?

 よくゲームをやっていたからな、その辺りはなんとなくの経験則で察せるが――

 テイマーといえばモンスターをテイムして使役するクラスだったはずだ。


「この門を通ればかえれるぞ」

 俺を案内した騎士が口を開くが、最後まで無表情で不愛想だ。まぁこんなもんだろう。

 無事に帰してくれるのであれば二度と会うこともないだろうし、さっさとこの場から離れよう。


 しかしこの門、黒色をベースにした禍々しい感じの門で、本当に帰れるのか……?


「どうした、早くいけ!」

 後ろにいる騎士から、敵意がこもった声が聞こえてくる。

 この様子からただならぬ雰囲気を感じるが、嫌だと抵抗しても持っている槍で刺されて死ぬのがオチか……。

 

 悩んでいても仕方ない。仮に帰れなかったとしても俺は絶対に帰る。


 十億円が俺を待っているんだからな。 




 ▽   ▽   ▽



 …………。


 ……。


「ここどこだあああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 俺の渾身の叫びは虚しく響くだけか……。


 かえしてやれって、土に還してやれって意味だったのか!?

 

 門を通れば家に出ると思っていたが、なんで見知らぬ森の中なんだよ……。


 振り向いても通ってきた門はないし……。

 

 いや、こうなる可能性は感じていた。


 俺に対して一言もなかったあいつら……まるでゴミを廃棄するかのように――

 

『またテイマーですか? これでもう百二十七人目ですよお父様……』


 ……なるほど、そういうことか。多分、これは、そう。アレだ。


 いわゆるガチャだ。そして俺は既に百人以上いるハズレキャラ。


 ガチャで被ったキャラは大抵強化に使われるか、売り飛ばすか、使い道がなければ棄てる。


 つまり俺は不要だから棄てられた。


「あーーーークソッ!!!」

 勝手に呼び出して不要だから捨てるって、ゲームじゃねえんだぞ!


「はぁーーーー……」

 これからどうする? ここが日本という可能性もゼロじゃ――


「ギャーーーーギャギャギャギャギャ」

「キョキョキョキョキョ」

「クエックエックエッ」


 多分日本じゃないな……。

 なんか聞いたことない生き物の鳴き声(?)が聞こえるし。周囲に生えてる木々もデカすぎる。


 もうここが異世界だと認めよう。認めた上で、どうするか慎重に考えるべきか。

 だがマズイな、このままじゃヤバイ動物に狩られて、本当に土に還ってしまうぞ……!


 どうする……どうすれば生き残れる……?


「あっ」

 そうだ、俺はテイマークラスだと言われていたな。


 ここがファンタジー溢れる異世界で、テイマークラスが俺の知っているような存在であれば、動物を仲間にできるはずだ。

 

 しかしどうすれば仲間にできるのかは分からない。

 仲間にする工程に戦闘があれば、今の俺には不可能だろうな。

 

 往々にして、戦って弱らせて仲間にするのがテイム方法だと思うが、どうしたもんか。


 ……そういえばカバンがあったな。中に何か入ってるみたいだし、役に立つものがあればいいが。


 ショルダーバッグのカバンの中には、大学ノートサイズの干し肉が一枚と、革袋に入った飲み水、そしてレンガブロックほどの生肉が大きな葉っぱに包まれている。どうりで重いわけだ。

 

 干し肉と水は俺の食料だろう。となると、このレンガブロックサイズの生肉が、テイマーとして魔物を仲間にするためのアイテム、か……?


 この生肉を食わせてテイムする流れ……だと思うが、本当にテイム用アイテムかも分からない。


 とりあえず、この生肉が仲間にするためのテイム用アイテムだと仮定して、問題は仲間にする動物だ。

 

 俺一人じゃ戦えないし、生肉よりも先に俺が食われるだろ。常識的に考えて。

 

 俺はこんなところで死ねない。絶対に帰って十億円を手にするまでは――


「プギイイイイイイィィィィーーーーーーーー!!!!」


 なんだ!?


 豚の悲鳴が聞こえたと思ったら、二足歩行の赤い豚……いやオークか?! 木を薙ぎ倒しながら吹っ飛んできたぞ……。

 

 このオークは倒れたまま動かないが……絶命してるようだ。


 ――ヤバイ、このオークを殺したやつに殺される……!


 逃げたいのに、足が震えて動かない……クソッ、他に何かできることは……どうする、どうする……。


 混乱しながら考えている内に、吹き飛んできた方向から、一匹の何かが木の幹を伝って飛んできたんだが……。


 あぁ、俺はここで死ぬのか……死を悟ったのは初めてかもしれないな。


 飛んできたのは赤い蜘蛛だ。


 多分、この傷だらけで拳サイズの赤い蜘蛛が、このオークをやったんだろう。


 ――そして次は俺だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る