夢と諦念
「ただいま〜っと」
すっかり人気のなくなった海岸へ着地する。
すると、奥からソフィアとエリザがやってきた。
「おかえり、お兄ちゃん」
「無事でよかった」
二人が俺を労ってくれる。
「二人も避難勧誘ありがとう。それで、マルコは?」
この場にマルコだけがいなかった。さすがのマルコも来てくれると思ったのにな。
「あ〜、マルコはね……」
◆◇◆◇◆◇
海岸を右に進んだ先に崖があった。
その崖の先にマルコは座っていた。
「何してるの?」
マルコの隣に座り話しかける。
「……」
俺の姿に驚かない。
たぶん俺がここに来るのが見えたのだろう。
「俺は勇者を目指している」
数秒、間を開けてマルコが口を開く。
「知ってる」
さっきエリザに聞いたからね。
「なのに、さっきは全く動けなかった。全部貴様が一人で解決した」
「しょうがないんじゃない?だってドラゴンだよ。俺は逃げ回って隠れただけだし」
ソフィアとエリザには、逃げ隠れたと言っておいた。
だって、ドラゴンを倒すのなんて普通じゃないからね。
ソフィアは俺の魔法を知っているから本当のことを話しても良かったけど止めといた。
ボロが出るかもしれないからね。
「それでも貴様は……」
「これから、また努力すればいいじゃん」
「っ!報われない努力をまだ続けろと?」
◆◇◆◇◆◇
俺は、小さい頃から物語の勇者に憧れていた。
だから、俺が光属性を持っていることを知ったときは本当に嬉しかった。
勇者は光属性を持っていないとなれないから。
俺は、皆を守りたい。
笑顔にしたい。
その想いを糧に毎日厳しい練習をした。
そのおかげか俺は十年に一度の天才なんかと呼ばれる程には強くなった。
でも、上には上がいた。
毎年ある、勇者候補が全員集まり序列を決める審査。
そこで俺は、いつも八人中の最下位だった。
悔しかった。でも、努力をすればいつかは俺が一番になれると思い、よりいっそう努力した。
しかし、それでも他の勇者候補との差は埋まらず、それどころか広がっていく。
そんな、俺を他の勇者候補はあざ笑い、バカにする。
村の人はよく言う。
『強くなって将来、この村を守ってね〜』
『マルコならSランク冒険者も夢じゃねえな!』
違う。
俺は、皆を救うんだ。
誰も、死なせないし、不幸にもさせない。
そんな物語のような勇者に。
そう言いたかった。
だが、できなかった。
俺なんかが勇者になれるのか?
そんな思いが頭を埋め尽くす。
それから、練習には身が入らない。
そのせいで他の奴らとはもっと差がつき、バカにされる。
さらに練習に身が入らなくなる。
そんな負の連鎖が続く。
他の奴らからは『努力の天才』とバカにされるようになり、いつしか俺は他人を見下すような人間になっていた。
◆◇◆◇◆◇
「これ以上の努力は無駄なだけだ!俺には才能がない!こんな分不相応な夢をいつまでも抱いてたって辛いだけだ!なら、もう捨ててやる!」
マルコが顔を歪めながら言う。
「俺は、別に夢を諦めるのもいいと思うよ。それがマルコの本心なら。でも、ダメだよ。今のマルコは諦めて捨てようとしている。それはいけない」
それに、まだ子供だろ?夢を捨てるには早い。
「じゃあ、どうすればいいんだ?!」
マルコの顔は悲痛に染まっている。
ずっと不安だったのだろう。
「努力すればいい。まだ、諦めきれないでしょ?」
「だから、無駄だって――」
「――俺が手伝ってやるよ。どうせ、マルコのことだ。ずっと一人でやってきたんだろ?ほら、こういうときはね。友だちを頼るんだよ」
知らんけど。でも、俺はマルコを助けたいと思った。だから、やる。
「……友だち」
「ああ」
「俺と貴様が友だちだと?」
「はあ?!」
嘘だろ!コイツ言いやがったよ!今それ言う?
「ふっ、はははっ、冗談だ。いいだろう、手伝わせてやる。言っておくが俺の練習量は多いからな、音を上げるなよフィン」
「はあ〜。冗談きついよ。まあ、いいや」
マルコは、皆を救いたいと言う。
今は皆を救えないかもしれない。
でも、ちゃんと救えた人は確かにいる。
今日、海岸に来ていた人たち。そして、俺もマルコに救われた人間だ。
「よろしくな、マルコ」
こうして、俺とマルコの修行が始まった。
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