元魔王と仮勇者の葛藤
家族旅行
我は魔王である。――ずっと独り。
異界から来た呪われし存在だ。――寂しい。
誰かが我を呼んでいる。――誰か来ないかな。
勇者が覚醒めたか。――助けて。
我はずっと独りだ。
◆◇◆◇◆◇
「……夢か」
目が覚める。
体を起こすと少しの頭痛に顔を歪める。
「大丈夫、俺はもう独りじゃない」
自分に言い聞かせるように呟く。
「お兄ちゃん!おはよう!」
ドアを開け、ソフィアが入ってくる。
「ああ、おはようソフィア」
俺はゆっくりと立ち上がり、リビングへ行く。
アラード学園は夏休みに入り、俺は家へ帰省している。
来たときには、何故か師匠がいたが気にしないでおこう。
朝ごはんを食べながら俺は前世のことを思い出していた。
今日の夢が気になったのだ。
そういえば、死ぬ前に助けた女の子は元気かな。
「お兄ちゃん、今日の朝ご飯私が作ったの。美味しい?」
俺は、ずっと独りか。
最後の『我はずっと独りだ』って言葉が頭から離れない。
前世は確かにそうだったけど、今は家族も友だちもいるしな。
友だちはまだ三人しかいないけど。
まあ、そのうち増えるだろう。
「お兄ちゃん?」
「ん?あ、ああ美味しいよ」
ヤバい。ソフィアを無視してしまってた。
ごめんよ。
「……うん。けど、大丈夫?なんか悩んでいるみたいだけど」
ソフィアが心配したように俺を見る。
そうか、俺そんなに悩んでいるように見えたのか。
所詮は夢なのにな。
「いや、何でもないよ」
ソフィアを安心させるように笑顔を作る。
「……じゃあ、いいけど。あ、それよりも明日から家族で海に行くってよ!」
それは、急だな……。
でも、海か。そういえば俺って、なにげに一回も海に行ったことないな。
海か。
「楽しみだな!」
「うん!いっぱい遊ぼうね!」
今日のところはソフィアと最近身近であったことを話して早くベッドに横になった。
◆◇◆◇◆◇
「全然寝れなかった」
原因は隣で寝ているソフィアではなく、海が楽しみだったのだ。
海って塩辛いらしいけど本当なのか、とか。
水着来た美女を見たい、とか。
色々と。
子供みたいだと笑えばいい。
それほど俺は楽しみなんだよ。
「お兄ちゃん、着いたらすぐに海入ろう?」
「そうだな」
馬車で移動中、さっきから俺とソフィアはずっと海の話をしている。
今、トレード家が向かっているのは海のある大きな街、オーシェント。
俺の村、ナタス村から馬車で半日かかるほどの距離だ。
馬車って遅いんだよね。
俺が自動車を作りたくなるくらい。まあ、普通じゃないからやらないけど。
あと、俺みたいに転生者がいるかもしれないし。開発してくれるのを待っておこう。
少し眠いし寝よう。
◆◇◆◇◆◇
「お兄ちゃん、起きて」
ソフィアに肩を揺さぶられて目が覚める。
目を開けると空は暗くなっていて、少し潮(たぶん)の匂いがする。
どうやらオーシェントに着いたらしい。
そして、俺は着くまでソフィアをほっといて眠るという兄として情けない姿を晒してしまった。
恥ずかしい。
「暗いから海に行けないね」
ソフィアが悲しそうな声で呟く。
「そうだな。でも明日遊んだらいいじゃないか」
ちくしょう、俺も遊びたかった。
だけど兄としてこれ以上情けない姿を晒すわけには。
「そうだね!じゃあ、明日いっぱい遊ぼう!」
あれ?立ち直るの早くない?
俺の足、必死に押さえとかないと海にダイブするんだけど。
そうか、ソフィアも強くなったんだな。
あんなに泣き虫だったソフィアが……。
「……成長したんだな、ソフィア」
俺は感慨深く言う。
「え?……お兄ちゃん」
一瞬戸惑っていたが、俺に乗って真似するソフィア。
数秒目が合ったまま、互いに動かず。
「二人とも〜。そろそろ宿に行くわよ〜」
「「はーい」」
俺たちは何事もなかったかのように共に歩き出す。
やめるタイミングがなかったので助かった。
「……恥ずかしかったよぅ」
隣から小さな声が聞こえたが風にかき消され聞き取れなかった。
◆◇◆◇◆◇
宿の前にて。
「な、何故、貴様がここにいるんだ!」
それ、俺も言いたいよ。
「フィ、フィン、隣の女性は誰なの?」
何か浮気現場を目撃されたみたいな気持ちになるな。違うけど。
「婚約者です」
「ちが……わなくはないけど、ここは妹と言っておこうね」
ソフィア、そんなに睨まないで。
痛いから、腕をつねらないで。
宿の前で、何故か帰省したはずのマルコとエリザと出会った。
二人はどうしてここにいるのかな?
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