流行には乗って行け―2

 冒険者登録した翌日の昼頃。俺とエリザは再びギルドに来ていた。

 今日は依頼を受けるのだ。


 と、言っても今の俺たちに受けられる依頼は薬草採取関連のものしかないけどね。


 冒険者には低い方からE〜A、そしてSランクがある。

 ランクによって受けられない依頼があったりする。


 そして、俺たちはEランク。

 Eランクの仕事のほとんどが薬草採取だ。


「こんなクエスト早く終わらせてランクアップしましょ」


「そうだ――」


『何度言えばわかるんですか?あなたはここに来たらダメだって。また薬草採取して』


『そうだそうだ!お前はもうここに来んじゃねえ!』


 ……え?どういう状況?


 受付のところでひ弱そうな眼鏡かけた青年が困っている。


 分かった。彼は薬草採取すらまともにできない、新人冒険者。

 そして、そんな彼に罵詈雑言を浴びせる受付嬢と他の冒険者。


 そうか。薬草採取って結構重要なんだな。


 これは、本気で挑まなければな。薬草採取もろくにできない、無能な奴と思われるわけにはいからな。


「気合い入れて行こう」



◆◇◆◇◆◇

   


 薬草には種類がある。


 回復草。解毒草。魔力回復草。


 そして、ランクもある。

 低いものから、下位、中位、上位、神位。

 ランクが上がるにつれ効果が上がり、数も減る。


 俺たちが狙うは、回復草。それも神位だ。


 まあ、神位は数が少ないだけだから簡単だろ。


 そういうことで俺たちは今、カヤーノ山に来ている。

 ここで、神位薬草がたくさん手に入ると冒険者に聞いた。

 来てみたところ、魔物も少ないから安全性も高い。


 でも何故か他の冒険者いないんだよね。

 どうしてかな。


「……」


 それにエリザの元気がない。


 ああ、そういうことね。エリザも簡単だと思っていた薬草採取が難しそうで緊張してんだな。


 ここは、一つ元気づけるか。


「エリザ、緊張しなくていいよ。ここは神位の回復草が採れるエリアだ」


「……だからなのよ」


 俺の言葉は虚しく散り、エリザが元気になることはなかった。



 フィンは知らなかった。


 薬草のランクを決めるのは周囲の魔力密度で、魔力密度が濃いほどランクが高くなっていく。


 そして、魔力密度が濃いほどそこの魔物は数は少なくなるが強くなる。


 つまり、神位の薬草がたくさんあるということは、強い魔物がいるということなのである。


 そんなことは、冒険者としては常識なのだが、フィンは知らない。



◆◇◆◇◆◇



(風刃、魔力3000)


 物音のした方へ風の刃を飛ばす。


 生々しい音を立てて首が落ちる魔物。


「……」


「お、またあった」

 俺たちは順調に回復草を集めていた。

 これで、もう二十個目だ。


 よし、さらに進めばまだまだ採れるぞ。


「…ろ」


「ん?どうした?」


「もう、帰ろって言ってるでしょ!」


 え?エリザがあるき出そうとした俺の袖を掴んだと思ったら怒鳴り始めた。


 エリザ、そんなに怒鳴ったら……。


 四方八方から騒がしい足音が近づいてくる。


「もう、やだぁ」


 魔物の集団が来る。


(風龍、魔力10000)


 風を纏った龍が現れる。


 風龍は魔物の群れを切り刻み暴れる。


 魔物は一分も経たないうちに全滅。辺りは魔物の血で溢れかえっていた。


「エリザ、魔物が怖かったんだね。気付けなくてごめんね。帰ろうか」


 エリザは実は魔物恐怖症だったのだ。

 俺はそれに気付けなくて無理やりこんなところまで連れてきて。

 俺はエリザの友だち失格だな。


 俺とエリザはゆっくりとギルドに足を運んだ。



◆◇◆◇◆◇



「たった二十か」


 俺は革袋に入っている神位の回復草を見て呟く。

 少し不安がある。二十で足りるのか?


 まあ、考えていてもしょうがないのでとりあえず出してみよう。


 依頼の素材は受付嬢に渡し、報酬を貰う。


「あの、これお願いします」


「はい、薬草採取ですね」


 俺は受付嬢さんに革袋を渡す。

 受付嬢さんは鑑定するために一旦この場から去っていく。


 心臓が飛び出そうだった。


 ここでいかに俺たちが無能ではないのかを証明しなくてはならない。


「あの〜、換金お願いします」


 隣に他の冒険者が立った。


 見ると、昼にいた、あの眼鏡かけたひ弱そうな青年が立っていた。


「またですか」


 受付嬢さんがため息を吐く。

 どうやら、彼に時間を割くのさえも億劫らしい。


「今日は何を?」


「上位の回復草、十個です。それと神位の回復草が一つ」


「神位の回復草?!それに、上位の回復草を十個だなんて」


 受付嬢さんが驚いている。


 どういうことだ?


「上位の回復草探してたら、たまたまありまして。魔力がそこだけ溜まっていたようです」


 ん?何言ってるんだ?

 神位の回復草なんてなんとか山に結構生えてたよ?


「は〜、あなたには薬草ギルドからスカウトが来てるのですからここには来なくて良いのに」


 あれ?この会話どこかで。


「そうだそうだ!お前はここより、そこの方が向いてんだからここに来んな!」


 二人の会話を聞いていた他の冒険者たちが青年に言う。


 もしかして、彼って有能だった?


 薬草ギルドってとこは、名前からして薬草採取専門のギルドだよな。


 彼が採ったのは上位の回復草を十個と神位の回復草一つ。


 それで、俺たちは……。


『え、ええええぇぇぇぇっっっ!!』


 突如、驚くような声があがった。


 俺がさっき革袋を渡した受付嬢さんのものだ。


 革袋の中には、神位の回復草、二十個。


 ヤバい。こんなものかと思いながら採ってたけど、かなりの量だったんだな。

 おそらく、異常に多く生えていたのだろう。


 しかし、こんなの普通じゃない。その上、目立つ。


 ヤバいな。


 こうなれば、


「エリザ、逃げるぞ!」


「え?きゃっ」


 俺はエリザの手を掴んでギルドを走り去った。


 数日後、神位の回復草を二十個採ってきた謎の凄腕冒険者がいると色んなところで噂になっていた。


 俺は、一時ギルドに行くのは止めようと誓った。



 


 



 


 





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