§ 2―9 停止



 左肩の痛みに不快感を感じ、目を覚ます。見慣れた天井。寝ぼけているのか、頭がくらくらする。痛みの先の左肩を触ると、包帯が巻かれているのだろう感触が解かる。


「は!」


 我に帰り慌てて上体を起こす。


「おれの部屋? どうして?」


 頭のもやが晴れていき、記憶がよみがえってくる。ウイルスをメルが取り返したところまで思い出せる。その後が思い出せない。とりあえず、薫先輩はどうなったんだ? そう思い出しスマホを探す。そして、部屋の中を見ると、そこにはメルが倒れていた。


「なっ!」


 身体を動かすと傷が痛むが、それどころではない。すぐにメルに近づく。


「メル? おい、メル?」


 彼女を見ると、表情は微笑んでいる。しかし、息をしていない。


「おい、メル。起きろよ! 冗談だろ?」


 自然と涙があふれてくる。何度呼びかけても、体を揺すっても反応がない。



 ふと、机の上に見慣れない小瓶と薬と、なにやら書かれたレポート用紙が置いてある。ふらつきながら机に歩み寄り、レポート用紙を強めに握りしめ、急いで読み始める。



『アキト様、錠剤は化膿止めと痛み止めですので、しっかりお飲みください。それと、瓶は薫様のお母様に使用してください。病気が治るはずです』



 涙を流しながら、レポート用紙をさらに強く握りしめる。


「嘘だろ、メル! まだ、おまえに借りを返していないのに……」


 涙を拭うこともせず、そのまま動かなくなったメルに近寄り、反応のないメルを抱きしめる。


 強く抱きしめながら、肩の痛みを忘れ、アキトは枯れるまで涙を流しつづけた……。


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