§ 1―10 闇の刺客



 コントロールルームを出ると、アルバニアの側近のレナが倒れていた。その周りには、先ほどのゼニス王の兵が、8人ほど倒れている。それを横目にユッドは急ぐ。最大出力で揺れ続ける大地を走り続ける。


 コントロールルームを出て15分で、アニスのマンションに辿たどり着いた。すでに道には亀裂が入り始めている。


「イリス様をお助けしなければ!」


 マスターの指示を守るために、ユッドはひたすら走った。そして、階段を上り、アニスの部屋の前に着いたとき、部屋のドアが開いていた。その開いたドアの隙間すきまから、かすかに怯えるイリスの声が聞こえてきた。


「イリス様!」


 と部屋に飛び込むと、そこには見知らぬ男がイリスの手を掴んでおり、女性が1人、血を流して倒れていた。


 男は闇と同じ色の服を身につけ、晒している腕には、レムリア王国にはない模様の刺青が描かれている。髪は数年手入れせずに長く伸びており、その顔は無表情だが眼球だけを動かしユッドを見つめた。


 目を赤く輝かせ、臨戦態勢になる。


「この女の抵抗が終わったと思ったら、今度はおまえか?」


 その男はイリスの手を放し、こちらに殺意を向ける。


「まったくイライラさせてくれる!」


 男はそう冷徹れいてつに言い放った後、倒れている女を蹴り飛ばす。そして、倒れた女に刺さったナイフを右手で引き抜き、ユッドに襲い掛かる。ユッドはこれを躱し、その腕の関節をきめ、叩き折る。


「ぐはっ……。なん……だと!」


 ひるんだのもつかの間、即座に体勢を整え、左腕で殴りつけてくる。


 そのこぶしをつかみ、そのまま手加減なくひねって腕の筋をすべて裂く。


「がはっ」


 うめき声をあげると同時に、ユッドの渾身こんしんの右ストレートが男の顔に直撃し、そのまま吹っ飛び、窓ガラスを突き破って消えていった。目の赤い輝きが消える。



「イリス様、大丈夫ですか?」


 と呼びかけると、どうやら気絶していたらしく、パッと目を覚ます。


「ユッドお姉ちゃん……。怖かったよー」


 ほっとしたのか涙が溢れ出す。


「男の人が、ヒック、急に入ってきてね、ヒック、急にシャルナお姉ちゃんをね、ヒック、ウエェェン……」


 イリスを優しく抱きしめながら、倒れているシャルナに視線を落とす。


(どうやら、あなたがイリス様を守ってくれたようね)


 思わず言葉が漏れる。


「……あなたはマスターを守れたのね。うらやましい……」



 イリスを抱きかかえると、部屋の奥から黒猫のニャルが、おいていかないで、と鳴き声を上げて寄ってきた。ニャルも一緒に抱え、部屋の外に出る。振動がさらに激しくなってきている。アニス様のところに戻らねば。


 イリスを助けるために一目散に急いでいたので気づかなかったが、すでに地震で建物は崩壊しているものもある。道もさらに亀裂が入り、分断されている。アニスのところに戻る方法を必至に模索する。


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