第7話 雨

 有史以前から続く争いの日々に、終止符を打つ発明がなされた。


「博士、やりましたね!」

「ああ、ついに長く暗かった歴史に光が灯るぞ」


 世紀の発明を成し遂げた博士と助手は歓喜に打ち震えた。


「ところでこれはどういったものなのですか?」

「それを話す前に、なぜ争いが起こるのか、を考えてみてくれたまえ」

「何故争いが起こるのか、ですか。銃弾の雨なんて常ですから、考えたことがありません」


 助手は頭をひねるがいい答えは出ない。博士はにやりと笑い話を続ける。


「争いは『違い』から生まれる」

「『違い』ですか」

「そうだ。生きとし生ける者は皆違う。私と君とだってたくさんの違いがある。例えばそう、年の差であったり」

「でもそれは仕方のないこともあるのでは?」

「仕方ないと君は割り切れても、私は割り切れない。君の若さが羨ましいし、才能が妬ましい。こういった些細な『違い』が争いを起こす原因だ」


 なるほど、と助手は頷く。価値観の相違や他宗教の信仰。貧富の差。博士の考えは大雑把だが、『違い』が原因であると納得できた。


「そしてこの薬の登場というわけだ」

「『違い』をなくすせるものなんですか?」

「そうだ、性差はもとより容姿年齢思考その他諸々、これを飲んだ者は皆同じになる」

「すごい発明ですね!」

「皆が同じ思考、同じ行動をする世界で争いなんて起きようはずもない!」

「素晴らしいです!」


 些細な言い争いもなくなり、競争競合も一切なくなる。性差、肌の色、言語の壁。世界に溢れるあらゆる『違い』がなくなり、この世から戦争の二文字が消えてゆく。これは未来永劫に語り継がれる大偉業である。

「私は世界の救世主となったのだ!」

 高らかに叫ぶ博士に、助手が拍手を送った。

 

「それで博士。これをどうやって全人類に飲ませるんです?」


 

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