第27話

[清廉暦714年春月38日 昼の刻と大分節][大河都市 南側外周地区 役所]



 ハンターレベル10の本登録と従魔登録はあっさりしたものだった。

 確か、レベル9以下の木製のハンター証は発行した管理所でのみ通用し、本登録は成人したハンターがレベル10相当であるとハンター職員又はレベル30以上のハンターが保証することで承認されるはずだ。

 この制度によりハンター訓練所で職員から指導を受けなくても、レベル30以上のハンターの親や師匠が子や弟子にハンター修行させ、保証人になれば本登録が可能になる。


 従魔登録もすんなり出来た。やはり第一印象は大事なのだろう。

 見た目が清潔で服のようなものを着せられていて人に抱えられても暴れない魔物と、寝台で腹が割かれた兵士の死体がある部屋に鏡の前で触手をくねらせて奇声を発する血みどろの魔物とは印象が大きく違うのだ。



「それと、輸送依頼をここで完了としたい。荷物を寄こしてくれ」


「はい」


 リコリスは騎士の鎧の残骸が入った袋をデギランに渡す。中身を確認したデギランがリコリスに二千フェダールを渡し、クノセさんには書簡を渡す。


「リコリスは輸送依頼を受けていた。受取人はデギラン。確かに受け取った」


「昇格条件の『指名依頼を達成する』を満たしたからレベル11に昇格ね」


「ええ?!」


 茶番か。

 クノセさんはリコリスから再度ハンター証を受け取ると横に置いてある機械にはさんでガチャンと打ち込む。

 奥の部屋にある機械は鉄の板に文字を打ち込めるようだけど、こちらは印のみのようだ。レベル10を示す鉄製のハンター証に印が一つ、これでレベル11という事らしい。


「レベル19までは指名依頼を受けて、達成するたびに昇格するわよ。レベルに適した依頼が回ってきたらだけどね。はい」


 鉄製ハンター証を再度受け取る。木製のハンター証とは、信頼関係の重みも違う。


「はい、ありがとうございます」



「ところで魔狼討伐関連で何か動きはあったか?」


「とくには。予定通りですね」


「そうか。俺は騎士団駐屯地に届けたらそのまま拠点へ戻る。まだ仕事が残ってるんでな。クノセ、リコリス、じゃあな」


 ハンター証に紐を通そうとしているリコリスに、デギランはさらりと別れの挨拶を告げる。



〈タルテ、今日は何日だったっけ?〉


〈今日は春月38日だよ〉


「デギランさん! えーと……35日間お世話になりました。ありがとうございました!」


「職員としての仕事をこなしただけだ。それを恩と感じるのならハンター職員からの依頼は出来る範囲で手伝ってくれ。職員側としてそれが助かる」


「はい! わかりました!」


 リコリスがデギランに礼を述べ見送った。まあ別にデギランと一緒に役所を出て良い筈なんだけど。ほら、雰囲気的にね。



〈クノセさんにリヌ大河の渡航料とか聞いてみよう〉


〈あ、うん。そうだね〉


 クノセさんにリヌ大河を船で渡り都市の北側に行く方法を聞く。本来は役所の仕事だけど暇してたようなので付き合ってくれるようだ。

 そして、なぜか私はクノセさんに抱きかかえられている。


 役所側から運搬船利用規約書を一枚引き抜いてざっくりと説明してくれた。

 私は規約書を読みながら話を聞く。



 現在、輸送品が激減しており、船着場からの運搬船は昼の刻に一便のみ運航されている。

 個人の乗船料は一人五百フェダール。人が抱えて運べる動物や従魔も同額。人が乗れる馬や従魔は千フェダールで乗船可能。


 馬車の積み荷や、一人では持ち運べないほどの荷物には『輸送許可証』が必要となる。

 許可証は役所にて発行を受け、昼の刻までに船着場で荷物検査を済ませなければ、荷物のみ船に乗せることができなくなる。


 あー。大商隊の許可証を明日の朝までに用意するために人員が割かれていて、役所側の受付だけあんなに混み合っていたのか。ハンター側と受付が別で本当に助かった。


 ちなみにクノセさんはハンター管理職員であり、役所の端っこを間借りしているだけなので役所の仕事を勝手に手伝えない。



 クノセさんにお礼を言って役所を出るとトアが駆け寄って来た。


「リコ居たー! って、なにそれ可愛い~」


 私はクノセさんの手によってドレス姿の人形のようになっていた。

 クノセさん手製の人形から頭部と中の詰め物を取り払い、私のぶらぶらだらりとした蔓腕や根足を中に詰め込まれた。このほうが可愛いからと言われて。


 私としても都市の中では従魔よりも人形姿のほうが目立たないし、気にならなくなっていたけど全裸や葉っぱ腰巻よりも良い。

 ちなみにクノセさんの人形作りは出張所勤務になってからの趣味らしい。

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