悪いこと
◇◇◇◇
円卓がある大きな部屋。その円卓に席は八席あり、席は六席埋まっていた。
「妖狐のメイは今日も来ないの? 久しぶりに外でお酒を酌み交わしたいと思いましたのに。もう帰ろうかしら」
妖狐メイの名を口にしたのは赤目の着物を着た美女。
「さっさと帰ればいい。お前なんて居ても居なくても、こっちは困らねぇんだから」
「サタンさん、言葉がトゲトゲしいわね。昔、あなた達のお仲間を二人殺ったのを、今でも根に持っているのですか?」
「……」
「なんでしたっけ? 『七つの大罪』とか、ガキ臭い組織名を名乗っていらしたもんね。二人消えたからちゃんと『五つの大罪』に改名しましたか?」
サタンと言われた男は鋭い目で着物を着た女を睨む。
「モモさん少し落ち着きなさい。ここには四人も元七つの大罪のメンバーがいるのよ。鬼のモモさんでも、神域クラスの四人と同時には戦いたくないでしょ」
「私は落ち着いているわよ。ルイコさんは私がコイツらに負けると思っているの? 神域クラス?」
モモと呼ばれた着物を着た美女は、ふっと鼻で笑い、白衣を着たルイコに挑発的な視線を向ける。
「いつから神域クラスは雑魚が入れるようになったのかしら」
そうモモが言うと、途端にズシッ! と重力が増した。そして重苦しい空気が円卓の場で流れる。
モモはその場の数分の時間をかっさらう。それだけの威圧感を放っていた。
「モモさん、私の名前、ルイコ呼びはやめて」
誰も何も言えない空間に耐えきれなくなり、ルイコはため息を吐きながらモモの言葉を訂正する。
「あぁはいはい、ボスさんね。これでいいんでしょ」
モモはあっけらかんと威圧感を収めて、支配している空間を解放した。
「ありがとう」
「あなたの頼みだからメイも私も協力しているのよ。なんで怪人は『ノートルト』の封印を解くことに希望を抱くのかしら。ノートルトの能力はあなた達が想像しているような、それこそあなた達の願望を叶えるような能力ではないんですよ」
「分かってる、でも私にはこれしかない」
「昔の悪の組織のように人を殺して回ってるだけで願望が叶うなら、私とメイが人を絶滅させています。
あなた達のやっていることは
「決定したことは、あとで連絡します」
「はいはい」
モモは席を立ち、扉へと歩を進める。大きな扉は自動でガコンッ、ガガガと開けられる。
モモが扉を潜ると、場所が切り替わる。周りには大きな扉などはなく、モモの目の前には和式の豪華なお屋敷があった。
「ルイコさん、あなたは全然分かってないのですよ。人々の終焉の先に、怪人の理想郷はない。怪人も人々と同じく、終焉が待っているだけなのに」
ルイコを想って口に出した言葉は白々しく、
「久しぶりに終焉を見るぐらいいいですね。暇つぶしぐらいにはなりそうです」
終焉を思い出して口にした言葉は、どこか期待している。
「あぁメイの分のお菓子が切れてたわね」
モモは屋敷を背にして歩き出した。
◇◇◇◇
『ダルマジロン、美しく蹂躙してくださいね』
『はい。美しくは出来る限り気をつけます』
オラを見張っているアスモデウス様との通信を切った。
オラの目の前には大きな遊園地がある。
遊園地に来ると思い出す。野良の怪人の理不尽な暴力と、正義のヒーローの理不尽の正義を。
「困ります。ここは人に近い怪人以外は入園禁止です」
人と違う異形の怪人が入れる遊園地というのはあまりにも少ない。
「だからここへ来たんや」
「え? ちょ!? なッ! ア……」
片手で係員の男を身体ごと包み、握り潰す。
拳から鮮血を滝のように流れて、ボトボトと残りカスが落ちる。
それを見た人たちは我先にと逃げ出した。
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