許さない
空中で静止したルナ。首元には刀が添えてある。少し前に移動するだけで、ルナの首は切れる。
「勝負あったな。今、悪の組織は俺しかいない。そして魔法少女を倒しても俺には一銭も金が入らない」
「だからなに? 私に引けと」
ルナは左手で刀身を掴む。
「俺はどちらでもいいが?」
「二回目ね。冗談にしても、笑えない」
「二回目だが、わりと本気だ」
刀身を掴んでいるルナの左手から血が垂れる。左手の馬鹿力で刀がルナの首を離れると、次に俺の顔面を狙う右拳が迫る。
左手で掴まれていた刀は、ボッ! と白い炎を残して消失し、俺と右拳のあいだに白い炎を伸ばして再度刀が現れる。
「おっと」
ルナの右拳の攻撃を刀で受けて、力の向きを俺のいない右側にズラす。黒雷を纏った力は強力で、無効化したと思っても衝撃が完璧にそれてくれなかったのか、身体も右側に流れる。
さらに黒雷を纏った左の拳を打ってくる。その攻撃も刀でいなし、次の衝撃では左側に身体が持っていかれる。
ルナはすかさず右拳を放つ。その繰り返しの連続攻撃に、右に左にと身体を揺らす俺。
「なんでこんなに力を使っているのに、一発も綺麗に決まらないの!」
さっきまで下に見てた相手。しかも風が吹けば倒れそうな相手に攻撃が上手く決まらないと怒り、困惑している。その感情は表情だけじゃなく、刀からも伝わってくる。
「人の身で何十年、お前らの攻撃を受けてきたと思ってるんだ」
俺が大人になっても、どんなにトレーニングしても、一生持つことはないだろう圧倒的な筋力の差があることを俺は知っている。
左側に身体が流れたところで、クルッと一回転し、ルナの首に刀を向ける。
「ッ!」
ルナは後方に大きく飛ぶ。首を刀で切れる寸前のところで回避した。
「おいおい、そんなに離れてもいいのか?」
刀の白い炎が大きく。さらに大きく燃え上がり、天まで昇らんとする。その白い炎を左手で抑えながら刀身を掴む。
左手を腰の位置まで持ってきて。
構える。
「なにこの緊張感は!? どこにそんなに力があるわけ!」
ルナの叫びを聞く。ふわふわ、ふわふわと、白い炎が俺の周りを囲むように円上に燃え上がる。
「結月ねぇ私、あの刀の構え。どこかで見たことがある気がするの」
「見たことがある?」
キラの声を聞き。
「……ッ! なによ、それ。嘘でしょ」
ルナは俺を見て、驚きの表情とともに殺気が段々と薄れていく。
なんだ?
キッと俺を睨んだルナ。
「……許さない」
そうルナが呟くと、爆発的に殺気が膨れ上がり、黒雷もドクンドクン、ドクンドクンと鼓動を鳴らし、右拳に集まっている。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。
右拳の黒雷が玉のような形状になり、段々と大きくなっていく。
ルナは人ひとりは軽く入るぐらいに溜めた黒雷を俺に向ける。左手を右腕に添わせると、握った右手を開く。
「これで終わりよ。死になさい! 『
黒雷の弾丸がありえない速度で俺に向かってくる。地面は黒雷の弾丸を避けているように抉れていく。
何かを思う間もなく、人ひとりを飲み込むほどに大きい弾丸が目の前に迫る。
ふぅ、と息を止める。そして時間も止まる。
一瞬の静けさ。
俺の刀が鞘もないのに、カチャリと噛み合わせの良い音を鳴らす。
一瞬の静けさから、再び時間が動き出した。
目の前の黒雷の弾は縦に半分に割れ、俺を起点に左右に分岐する。そのままの威力を残しながら、黒雷の弾は俺を通り過ぎた。
「ふぅ」
俺は息を吐いて、ルナを見る。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。
ルナは左手で、次の黒雷の弾丸を構えていた。
「二発目は聞いてない。もういっか……!?」
俺は身体がふらつくと、刀を地面に刺して、膝を落とす。
まずい、もう視界がボヤいて焦点が合わない。
俺、終わりじゃね。もう一回も、全力で刀を振れないなんてな。
目の前が真っ暗になって、バサりと何かが倒れたような音がした。
身体に力が入らない。目を開けようと頑張ったが、暗い視界に諦めて、そのまま俺は意識も手放した。
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