無機質な音
放課後にブレイドルドをやっている体育館のコートを借りてイケメン君と向かい合う。
流石はブレイドルドの有名人だ。放課後に体育館に来て、二つ返事でブレイドルドのコートを貸してもらえる。
しかもこのイケメン君は、戦隊ヒーローブレイジャーズのレッドだ。ブレイジャーズはブレイドルドのトップチームだけで構成された戦隊で、その『木原瞬』と言ったら悪の組織で知らない者はいない。
周りを見渡したら、俺とイケメン君の一つしかコートを使っていないにも関わられず、二階の観客席は空いている所が見当たらない程に、隙間なく観客がいる。
「君は模擬剣でやるの?」
「そうだが?」
刀型の模擬剣、ここ一年触ってなかったはずなのに手に馴染む。今日が初めましての模擬剣で思うのはちょっとどうかと思うが、ずっと振っていた模擬剣の感覚が無くなっていて、少し悔しかった。
持っている模擬剣を手の甲で回してキャッチする。それを二、三回繰り返した。模擬剣を見ながら思う、今日帰ったら押し入れに入れている埃の被った模擬剣を出して、外の空気でも吸わせてやろうかなと。
「お前は長身の剣だな」
赤色のメカメカしい機械、必殺技までのチャージに必要なメーターのような物まで備え付けられている長身の剣で、赤色の闘気が出ている。
「あぁ僕のは、ブレイジャーズで使っている剣だよ。向かって来た怪人を一刀両断する力を持っている」
待て待て、俺この前まで一般人! まぁ怪人になったけど、身体能力は一般人に毛が生えた程度だ。そんな俺に正義の力を使うのか。
「正義の力を、俺に使うのか?」
一般人に正義の力を使う事の意味を理解しているのか? と、暗に示す。善と悪、一般人を守るという大義名分を自分から捨てる覚悟。
正義マンたちが築き上げてきた力を使うことの証明、その真髄がブレるという話だ。
イケメン君はこくりと頷く。
「君は忘れたのかい?」
ひょうきんなヘラヘラ顔から殺伐とした真剣な表情に変わる。
「君に一撃でも入れるって、僕がブレイドルドで負けたのはただ一人。佐藤勇、君だけだ」
長剣を俺に向けた瞬間からヒリヒリとした空気が突き刺さる。
それを受けて、俺は心の奥底に燃えるような感情が湧き出すのが分かった。グッと手に力が入る。
「覚えてるはずないだろ。そして……二度と俺の負けを、負けた事実を、お前が口にするんじゃねぇ!」
「やっとヤル気になってくれたみたいだね」
「は?」
俺がイケメン君を始まる前に殺そうと思っていると、ピッ……、と機械音が鳴る。俺がブレイドルドをやっている時のルールが変わってなければ、10のカウントで試合が始まる。
そうだ、殺すのは始まってからでもいいはずだと感情を溜め込む。
「今日まで僕の目標は君だった。だから勝つよ」
「大層低い目標だったな。でも今日まで? 悪いが、その目標は正義の力を使っても叶うことはない」
目をつぶる。腰に左手を置き、左手を鞘の様にして模擬剣を潜らせる。姿勢を前に屈めて、それとなく右足に力を溜める。
女子の黄色い歓声は場の空気で押し黙る。
シーンとするコートで、ピッ……ピッ……ピッ……、と無機質な機械音が鳴っていた。
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