引き分け
ピーと、長く長く長い、終了の合図が流れる。
空を見上げれば、刺激が強い照明の明かり。
俺は見覚えのある景色にチッと舌打ちをする。
「またこの夢か、もうずっと見てなかったのに」
横の方を見れば、視界に入ってくる大型モニター。そのモニターには、今の試合の結果が出て、俺がもう一生勝つことは無いと証明するには十分過ぎる物だった。
【引き分け 0勝32敗】
その結果を見て両の膝をつく。俺の身体には傷一つ付いてなく、相手の服はボロボロだったが、その相手の身体にも掠り傷一つ付いていない。
「凄いね君の剣! さすが神童参ったよ」
金髪爽やかボイスの正義マンは俺を褒める。
「じゃお前は俺に勝ちを譲ってくれるのか?」
「いや、ルールはルール、引き分けだ。君に勝ちを譲ったら、僕はこの大会で一位になれない」
そう、引き分けだ。
俺は中学の頃から一般人がブレイドルドを辞めていくのが不思議だった。だが、それを高校に入って初めての大会で、辞めていく理由を知った。
ブレイドルドのプロに、一般人がいない理由も。
「僕の名前は瞬、
俺に向かって手を差し出し、聞いてもないのに自己紹介をするイケメンな正義マン。俺はその手を取らずに立ち上がる。
「お前の名前はモニターを見ればわかる」
大型のモニターを見れば、俺とコイツの名前が大きく映し出されていた。
「ん? 違うよ」
何が違うんだよ。
すると正義マンは大袈裟に腕を振り、右手の親指を自分に指す。
「僕は君に、僕のことを見て欲しいから君に名を託したんだ」
ババン! と効果音が付きそうな程に意味不明なことを宣言した。
一般人には理解不能だ。
「だって君、ここに居る誰にも興味無いだろ?」
「だからなんだ?」
「いやいいんだ」
正義マンは笑顔で頷く。そういう一般人を下に見た正義マンの態度にイラッとくる。
「またやろう! 次に君と試合する時には一撃でも入れられるように、練習を頑張るよ」
正義マンから一撃を貰ったら、その時点で一般人ならアウトだ。
「はぁ? やるわけないだろ。呆れた……今後、お前と会うこともない」
「待ってよ、なんで? そんなに強いのに」
コイツ本気で言ってるのか?
「俺の強さは限界だ」
俺は大型モニターを指しながら言い放った。
イケメン君はいっそう笑顔になり、「それなら」と俺に切り返した。
「それなら……君に勝ちを譲るよ」
俺は忘れない。
……ピピ、ピピピ、ピピピ、ピピピ。
ベッドの横にあった時計を叩いて、音を止める。
思い出したくない過去の夢を見てしまった。夢と言うよりも、悪夢と言った方がいいか。
愛華に会う事も出来ず、悪夢まで見て、俺は心底ついてない。
まぁ、岡村という俺には勿体無い後輩が居たから今日も生きていける。
「ありがとう岡村」
岡村に感謝して、時計を見る。
【12時35分】
学校には余裕に遅刻だ。
岡村が言っていた、破壊された学校は一日で戻っていたと。
正義マンの奴らの中に、復元の力を持った奴がいるらしい。
昨日と今日でついてない。
でも学校に行けば愛華に会える。そう思った俺は早速ベルトから転移石を取り出した。
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