スマホ
◇◇◇◇
ビルの上から町を見下ろす。
魔法管理協会に勇くんを捜索して貰っているけど、この二日間見つかったという報告はない。
勇くんのスマホに何度も着信を残す。私は寝る間も惜しんで、学校周辺を見て回り、勇くんを探す。
ずっと手に持ったままのスマホからの最新の情報は、『黒い水を出していた怪人を、戦隊たちと魔法少女たちがみんなで協力して倒した』と、勇くんの捜索には関係の無いものだった。
そんな事は報告しないでいいよ、と思ったのは事実で、私は勇くんただ一人を見つけるので精一杯。
「勇くんどこにいるの? 死んでないよね」
死んでないという望みはある。リクスウェルトンは誰かに倒されていたからだ。
倒したのは勇くんじゃないかもだけど、倒した可能性はある。
長期戦を意識していた私とリクスウェルトンの力の差はほぼ互角だった。
私の正義の力を糧に怪人になった勇くん。でも私の正義の力だけじゃリクスウェルトンほどの怪人は倒せないはずで。
悪の力と正義の力は反発する物。正義の力を100パーセント悪の力に転換出来たとしても、悪の力に反転させたら、正義の力の半分の力にしかならない。
勇くんが私の力の他に、正義、悪の力を取り込んでいる可能性は無いと思う。
悪の力は力同士は混ざり合うことで強くなる。でも勇くんは、私の力の香りが強い。
力が混ざり合ってたら、私の力の香りが薄くなってるはず。
もし勇くんがリクスウェルトンを倒していたら、私の力の半分だけで倒したの?
「冗談でしょ」
有り得ないことを想像して首を振る。でも、でも、と有り得ないこと想像する度に『勇くんは生きている』という事実が霞んでいく。それが本当に嫌だ。
ビルとビルの間をジャンプで飛び越える。
微かな生命反応があると、スマホにその場所をタップして魔法管理協会に知らせる。だがそれはどれも勇くんの波長とは違う。
「勇くん、勇くん、勇く……ッ!」
スマホが震えて、着信を取る。どうせ魔法管理協会から、でも勇くんのことかも知れない。
「もしもし」
「愛華、少し会えないか?」
え? ワンテンポ遅れて耳に聞こえたのは、生きているかも知れない相手だった。
「嫌よ」
私は拒否して耳からスマホを離した。するとツー、と頬に涙が伝うのを感じる。
「こんな顔じゃ会えるわけない」
頬に伝う涙は大粒になり、左手で顔を覆い隠す。
「良かっだ、、、良かっだよぉぉおおお」
私は足に力が入らなくなり、空を見上げながら、勇くんが生きていることに安心して泣き叫んだ。
◇◇◇◇
「ヴェェェ。吐きそう」
「もう吐いてるじゃないですか」
俺は公衆便所の便器に向かって吐いている。後輩の岡村は背中を摩ってくれる。
「食べ過ぎですよ。また女関係ですか」
岡村からため息が漏れる。
「なんでわかんだよ。まさか能力!」
「そんな興味無いことに能力なんて使いませんよ。能力を使ったとしても、そんなことまで分からないですし、僕の能力はそんなに万能じゃありませんから。なんとなくそうじゃないかなと思っただけです、勇先輩分かりやすいんで」
そんなに分かりやすいか? 便器の水を流して。
「もう一件行くぞ!」
「またですか」
岡村は俺に肩を貸してくれる。
「お前は良い後輩だよ。俺とお前は相性がバッチリだよな〜」
「気色悪いこと言わないでください」
「おま、気色悪いってなんだよ」
「……どうせ、僕じゃダメなくせに」
「ん?」
岡村はチッと舌打ちした。
「次はどこ行くんですか?」
「ふふふ、次は小籠包が食べたい!」
「小籠包ですね」
岡村はスマホで検索して、俺たちは公衆便所を後にした。
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