悪い子
さっさと逃げてれば良かった。
「待てよ。結界を張っているということは、ヒーローの助けが遅れるということか?」
思っていることを声に出してみると、今の状況が絶体絶命の状況なんだと分かる。
運動場に居る怪人なら、この学校を消すなんて余裕だろう。
「あっ、俺の人生。……いや、怪人生は終わった」
今日この場所で俺は死ぬんだ。
悪の組織で沢山の怪人を見てきた俺には分かる。運動場に居る怪人は、間違いなく悪の組織の幹部クラスの実力だ。
「ははは、マジかよ」
笑うしかない。喉が枯れて、唾も出なくなった。
「ん?」
運動場にいる怪人じゃない、すぐ近くに何かの力を感じる。
「下か!」
力の収束を感じてフェンスから下を見る。
「愛華!」
愛華はピンク髪の魔法少女の姿で重力がないかのように壁に立っている。
そして運動場に居る怪人を見上げて、愛華の全身から壁伝いに光の輪が連続して三つ出でくると、足を折り曲げた。
その瞬間にブゥンッ! と愛華はその場から消えた。
ガキンッ!
運動場からの激しい音で視線を飛ばすと、愛華はバトンを、怪人はステッキを持って、つばぜり合いをしていた。
俺は愛華と怪人の戦いに集中していると、下から物凄い風が吹き、俺の身体を浮かした。
空中でバランスが取れなくなった俺は尻を打つ。
ドタドタドタと学校が揺れる。
「イテテ」
全校生徒が走ると学校が揺れるのか。と、尻から感じる振動に初めてを知った。
うるさく聞こえるのは悲鳴と怒号。生徒かな? 先生かな? 何重にも重なっている声に、特定することを諦める。
俺の貸し切りの屋上には誰も来ない。全校生徒は学校から遠くの何処かに逃げるんだろう。
逃げる? どこに逃げると言うんだ。幹部と同じ実力がある怪人から。
結界の中の俺たちは、死ぬのが遅いか早いかの運命しか残されてはいないのにな。
体操座りから立ち上がって、フェンスの上にジャンプする。
「おっ、と」
フェンスに乗って、腰を落とした。
俺は今戦っている最強の魔法少女、愛華を応援することにする。
幹部を倒せるのはこの結界の中で愛華しか居ないと思うからだ。
もし死ぬ運命が変わるとするなら、愛華が怪人を倒す時だろう。
「愛華〜、がんばれ〜」
ゴシャッ! ゴポゴポゴポ。
「ッ!」
俺が応援していた時に、愛華が打ち返されて、屋上の給水タンクにぶつかった。
俺の目では弾き返されたスピードが速すぎてよく見えなかった。愛華が消えた! と思ったら、給水タンクが壊れる音で、弾き返されたと気づいた程だ。
愛華を見ていると、給水タンクから立ち上がりながら濡れている愛華に冷たい視線をもらう。
運動場に居る怪人がふわっと宙に浮いた。
そして空中を移動しながら近づいて来る。
愛華が給水タンクから屋上に降り、怪人を睨んでいる。俺もフェンスから降りて、怪人を見つめる。
怪人は人型で紳士服に白髪だけど、青年ぐらいの若い顔の作りをしている。大学生と言われればそのぐらいかなと思う。
「あぁ逃げてないんですね。私だって胸がチクチクします。あの方は何と言うでしょう。今からゾクゾクします!」
俺を視界に捉えた怪人の口角は、三日月のように頬が裂ける程に上がる。
怪人は屋上に降り立った。
「私はリクスウェルトン。悪い子の集いのメンバーです。どうかこの名を地獄で広めてください」
リクスウェルトンは気色悪い笑み崩さずに自己紹介をした。
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