後輩


 学校では愛華とは隣の席だが、恋人ごっこを卒業した日からは喋ることも無く、殺されることもなかった。


 一ヶ月間学校に行ってみたが、本当に悪の組織のモブAと相対した時だけ殺しにくるという感じか?


 愛華は魔法少女の力を失った次の日にはもう、ピンク色の髪は黒色に染まり、大きな胸もなくなっていた。魔法少女の力が復活したと見ていいと思う。


 学校でジロジロと見ていたら、愛華から冷たい視線を貰うことが何十回もあった。その度に俺は視線をさまよわせて挙動がおかしかったと思う。


 でも愛華の学校生活は俺と別れる前と何も変わっていない。クラスの連中とは笑顔で話し、気配りが出来て、成績も優秀。ただ俺と喋らなくなっただけ。


 俺も愛華が来る前と何も変わっていない、ボッチだったし。



「はぁ」


「なんですか? ため息なんて吐いて。久しぶりに後輩の僕と一緒に仕事が出来て嬉しくないんですか?」


「岡村ぁ」


「なんですか! くっつかないで下さいよ」


 俺は岡村の肩に腕を置き、ダル絡みをする。


「あぁ、まだ引きずってるんですか? 凄い美少女の彼女がいるって噂になってましたけど、すぐに振られて可愛そうですね」


 グサッと来る一言を岡村に言われた。


「その彼女が勇先輩の良さが分かってなかっただけですよ」


「いや、俺のせいだ」


 岡村は彼女が分かってなかっただけだと励ますが、俺はその言葉には賛成できずに俺のせいだと言葉をこぼした。



「はぁ? 早く立ち直ってください、めんどくさい」


「あぁ! めんどくさいって言った!」


「めんどくさいのは、めんどくさいじゃないですか!」


「おま!」



「「「「「「……海皇戦隊パイレーツジンジャー」」」」」」

 


「「やべっ!」」


 俺と岡村は完璧にズレたタイミングで爆発ボタンを押した。



 爆発の音が聞こえて、ここからは誰が責任を取るかが話し合われる。


「勇先輩のせいですからね」


「ふぅ、後輩のミスを負うのも先輩の役目か」


「キッカンシャー先輩も怒ってますよ。煙突から黒い煙がごうごうと出てますもん」


 キッカンシャー先輩は、機関車の怪人で腕と足がある。足のせいで地面に車輪がついていない、車輪要らねぇじゃんと思う。


 横から見たら色々書かなくてはいけないが、正面から見ると丸を書いて、腕と足を書いて、丸のてっぺんに煙突を書けば、ソックリなキッカンシャー先輩の似顔絵が出来上がる。


 丸の部分に大きな目が二つと口を書くのも忘れてはダメだがな。その顔の上にある煙突の部分から黒い煙を吐いていた。


「キッカンシャー先輩勝ってくれよ! 反省会でグチグチ言われるのは嫌だからな。しかもキッカンシャー先輩は奢ってくれないんだよ」


「負けますよ。しかも勇先輩がグチグチと責められているのが見えました」


「負けるのか。にしてもお前の怪人の能力すげぇな」


 岡村は『途中経過から終了が見える』という怪人の能力がある。


 俺が褒めると中性的イケメン顔の岡村の頬が赤く染まる。能力は俺にしか言ってないらしい。


 後輩として岡村も可愛いところがある。


「キッカンシャー先輩、幼稚園の子供に人気があるって喜んでましたね。それでおだてて、気持ち良くなってもらいましょう」


「あぁそれ俺がキッカンシャー先輩に教えたんだよ。この前その方法で凌いだから、人気があるっておだてても三十分が限界だろうな」


 ハイっ! と、岡村が俺の手に転移石を置いてくる。


「帰ったら居酒屋を予約して、代役立てて逃げましょう」


「岡村、お前誰にそんなこと習ったんだよ」


「勇先輩ですけど」


 早速転移石を使って、更衣室に帰った。



 更衣室に最初に帰ってきたバイト君に俺たちは用事が入ったと代役を任せる。


 毎回飲み会の幹事は爆発チームで、用があったら代役を頼むことはある。だが帰ってきたバイト君も同じチームだ、爆発チームの俺たちが失敗したことは分かっている。


 だから代役を断ろうとしてくるが、二千円で買収した。


 勝てばタダ飯、負ければ愚痴とタダ飯。まぁ負けしかないんだが、その賭けに出て、皆んな負けていく。俺もその一人だ。



 俺は岡村と一緒に、予約しておいた居酒屋とは反対のラーメン屋に行く。


「「かんぱーい」」


 俺も岡村も酒は飲めない、ジュースで仕事の終わりをねぎらう。


「お前と一緒に行きたい場所がある! って言っていた所が、ラーメン屋ですか」


「良いだろ! お前のために見つけておいたんだ」

 

「まぁ、いいですけど」


 ズルルと岡村が麺をすすると、「美味い」と言ってくれた。


 後輩に奢るのも先輩の務めだ。まぁ安いところじゃないと先輩の務めは出来ないけどな。





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