第7話  巻子さんの罪

「駄目ね?夜の世界で遊びそうにもないものね」


 僕は、答えなかった。


 極楽門が見えてきた。暗い霊道を照らす青い炎が、まばらになってきた。


 極楽の光が、漏れているので、周囲は逆に明るい。


 もっとも、星明かりもない暗い空の元、道だけが続く世界。


 少々明るくなっても、たかがしれている。


 暗い世界でもはっきりと分かる道の両端外の世界、漆黒の奈落が、より目立つくらいか。


 門にタクシーをつけると、天使たちが現れた。


「では、こんな言い方は、変ですが、巻子さんお元気で」


「そうね。私は死んでいるし。あなたこそ元気でね。たまには羽目を外さないと、あなたの人生が、可哀想よ」


「分かりました」


 ドアをあけて、巻子さんは、天使たちの方へ向かう。


 しかし、突然飛び出してきた、女に突き飛ばされた。


「私の膵臓を返せ。お前が騙して私の身体を切り裂いて取り出した膵臓を返せ」


 彼女は、刺されたようだ。しかしすでに死んでいるので、ダメージはないはず。


 彼女の腹部から血が流れている様に見える。しかし、血では無く、彼女の刺した女に対する引け目だろう。

 

 どうやら、さらに悪どい事をしていたらしい。


「しつこい女ね。あなたの男が私の店に借金を作ったのでしょう。あんたは、借金のかたに、男に売られたのよ。何をされても文句は言えないでしょう」


 強い口調だが、悪い事をしたとは、思っているようだ。


「お前が、良平を騙した。良い人だったのに。色仕掛けで騙したお前が、何もかも悪い」


 その女は、髪を振り乱し、目がつり上がり、まるで裂けたような真っ赤な口をしている。


「五月蝿い。大人の遊びが出来ない癖に、お店に来る方が悪い」


 タクシーの中で、それ以上は、言ってはいけないと叫んだが、無駄だった。


 僕は、タクシーから降りることが、出来ない。


「あの男は、お前に飽きていた。別れたがっていた。お前も気づいていたはず。しつこくつきまとうから、殺される事になる。私は、どうせ殺すなら、膵臓が欲しいと言っただけだ」


「私を殺すようにそそのかしたのは、あなたなのね」


 巻子さんは、反射的に言い返してしまうタイプのようだ。


「そうよ。私が、膵臓移植しかもう残されていない。移植する膵臓が欲しいのよとベッドで、囁いてやったのよ。そしたら、あの男、本当にあんたを殺して、膵臓を持ってきたわ。残念ながら移植しても駄目だったけどね」


 天使たちは、去ってしまった。


 巻子さんは、掴み掛かってきた女と共に霊道の端から、転落してしまった。




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