第14話 治癒士との訓練

「さて、今日は新たな魔法を覚える為に、色々試したいとのことだったかね?」


「あぁ。たくさんの知識と経験を持ち、この村随一の魔導師だというあんたの力を借りたいんだ、ローレルさん」


「昔の話さね。魔導師としてなら、シャルトルーズみたいに若くて才能ある者がいる。私は前線を退いて治癒士に専念した身さぁ」


「治癒や補助系でもいい。今の俺は宝の持ち腐れ状態で、力を活かすにも未熟過ぎる」


 

 三日間、シャルと共に広大な森を駆け回っていて分かった。

 悪魔に刻まれたエミッションと言う魔術は確かに便利だけど、あくまで攻撃手段の一つでしかない。

 右手を封じられたり切り落とされたりしたら、その時点で詰み状態になる。


 その他は千里眼や気配隠蔽、簡単な治癒と障壁があるものの、攻撃手段は火属性低級魔法のフレイムのみ。

 これでは逃げ回って隙をつくくらいしか立ち回りが無い。


 シャルみたいに多彩な攻撃や防御、前衛も後衛もこなせる技量が欲しい。

 エルフの年長者であれば魔力の扱いにもより長けているはず。

 だからローレルさんを頼る事にした。


 

「何があったか知らないけれど、ショーマさんは私らの恩人だからね。復興中の畑の側なら、だだっ広い場所があるよ」


 

 この村にも二ヶ月前までは畑があったという。

 しかしオークの群れが襲撃してきた際に荒らされ、栽培していた薬草もダメになってしまった事が、全ての発端だった。


 今ではシャルと一緒に集めた薬草を植え直し、近いうちに育つとのこと。


 魔物は数え切れないほど討伐したが、魔獣はバイコーン二角獣を見たきりだった。


 聖者の森の名に相応しい、平和で穢れのない場所って事だろう。


 考えてる間に案内された所に着き、ローレルさんが説明を始めた。

 


「まず最初に言っておくけど、魔法は先天的要因に依存する。つまり才能が無ければ、いくら努力しても使えないってことさね」


「それは知ってる。俺は現状、火属性と無属性しか使えないからな」


「まぁ人間で最も適性者が多いのが火属性だ。ちなみにエルフは風属性に愛されてるね」


「魔力を火に変換するイメージは出来ても、水や雷なんかは全然だった。感覚が掴めないと言うか、わけが分からない感じで」


「それが適性が無い証拠だからね。まぁ気にする事はない。私にゃ火の方がわからん」


「そういうものか。俺が魔法の実力を上げるのに、どんな修練方法がある?」


「まずは持ってる技を磨くことさ。あんたは本当にフレイムしか使えないのかい?」


「……なに? それはつまり―――」

 


 俺は新しい魔法や魔術を身に付けるしかないと思っていた。

 でもよく考えてみれば、シャルは風属性を様々な魔法にして扱っているだけで、根本的には一種類と身体強化くらい。


 あれが技を磨くという言葉の意味か。


 複数の属性や、無属性の補助や防御系のバリエーションを増やすより、まずは今あるものを使いこなさないと。

 

ブレイズ中級火属性魔法

 

 火属性の中級魔法。

 魔物の上位種や、ガルムなど下位の魔獣にも有効な威力を誇る、フレイム低級火属性魔法よりも上の炎魔法があっさり出た。

 


「なんだ、中級魔法もいけるじゃないか。それなら派生魔法も使えるようになるよ」


「熟練度が以前とは段違いなのを忘れていたんだ。フレイムで精一杯だったからな」


「ふむ。火属性には詳しくないが、ヒール回復魔法の上位に当たるグローヒール上級回復魔法も使えそうさね」


「グローヒール? 初めて聞くな」


「ヒールは軽い怪我にしか効かないけど、グローヒールは消費MPマジックポイントを増やせば瀕死の重傷でも治せる。治癒士の登竜門的な魔法だよ」


「魔力量によって、治癒力が増すヒールって感じなんだな。試しにやってみよう」


 

 散々遊んできたゲームの中でも、回復魔法には段階があった。


 ヒールで回復するより、もっと大幅に体力を戻す強い癒し。


 せっかく無尽蔵の魔力を持ってるんだ。出し惜しみせず、魔力全てが癒しの光に変わるイメージで――


【グローヒール】

 

 唱えた瞬間、両手から溢れ出した輝く魔力は、植えたばかりの畑の薬草を包み込んだ。


 まだ根付かず元気の無かった植物達は、みるみる茎を伸ばし、葉を青々と茂らせていく。

 


「ショーマさん……あんた、聖者様だったのかい? こんな癒しの魔力、見た事ないよ」


「いや、俺はただの異国の魔術師……だと思うんだが。これはさすがに想定外だ」


 

 遺伝子操作によって改変された俺の体は、MPポーションを生成出来る力に由来して、回復系に特化してるのかも知れない。

 目の前で起こった超常現象を客観的に見ると、そう考えるのが妥当だ。


 期待とは違ったけれど、思わぬ収穫に胸躍らせていたその時、後方から大きな声で俺の名前が呼ばれた。

 

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