無窮の魔術師 〜MP切れを知らない俺は、魔力の物量で異世界を蹂躙する〜
創つむじ
一章 人里離れた森の奥
第1話 悪魔の実験体
クソっ、なんだこれ。
一体なにがどうしてこうなった?
背後にある見知らぬ魔法陣に吸い寄せられ、全身の自由がまるで利かない。
俺はただ目の前のコイツに、自分で召喚したそこの
やはり悪魔なんかに頼った事が、全ての間違いだったのか……。
「なんて顔してんだ契約者様よう。お前様がどうしても力を寄越せと言うから、こうして親切に手伝おうとしてやってんだろ?」
「じゃあなんだよその不気味な液体で満たされた注射器は!? これじゃまるで、人体実験でもしようとしてるみたいじゃないか!」
「みたいじゃねぇよ。お前様は今から実験対象だ。上手く遺伝子改変に適応出来れば、お前様はその時点で特別な存在になれる。まぁ運が無ければ死ぬだけだ。悪魔に力を望んでおいて、ノーリスクで済むわけないだろ?」
「代償は払ったはずだ! 俺は元の世界の全てをお前にくれてやった! それでも送り込まれたこの世界は、俺の希望と違っただろうが!」
唯一動かせる首から上だけを使い、血の色をしたマントに身を包むそいつに対し、躍起になって訴え掛けている。
俺は確かに悪魔の力によって、この魔力という概念が存在する世界に送られてきた。
だがこちらに来ても無能扱いされるなんて聞いていない。
なんの為にリスクを犯してまで異世界転移したのか、これじゃまるで分からないじゃないか。
話半分で聞いていた悪魔はケラケラ嘲笑っていたかと思うと、俺の左腕を掴んで鋭い形相に変化する。
「契約者様よ、お前様は失ったモノの価値に期待し過ぎだ。違う世界に行きたいと言うから連れてきた。力が欲しいと言うからこうしてチャンスを運んできた。こっちは支払われた代償と割に合うやり方してんだから、あとは自分で努力しろ」
「今回の対価はこの実験結果だって言うのかよ? この傲慢インチキ悪魔が!」
「これまでのサンプルはあっさり死んじまったからなぁ。せいぜい足掻いてくれよ?」
腕に針が刺さってすぐに、脈動が異常な速度になるのを感じた。
この液体は明らかにまずい。薬物によるドーピングなのだから当然だが、体の奥からどんどん得体の知れないなにかに
思わず叫び出してしまうほどの激痛に見舞われ、小一時間もがき苦しんだ後に意識を失った。
「う、うぅ――…ん。ここは、さっきの……」
「やるじゃねぇか契約者様よう! まさかお前様が最初の成功例になるとはな!」
「……悪魔てめぇ、さっさとお前の棲み家から解放しろ。もうお前になんかなにも望まん」
「出してやるとも。この屋敷を出た広大な森には、血に飢えた魔獣がうじゃうじゃいる。そこで実験の成果を見せてもらうからな」
「魔獣だと!? ゴブリン程度の魔物相手じゃ結果はわからないのか?」
「しょっぺえこと言うなよ。お前様が使える低レベルの炎魔法でも、数百、数千喰らわせれば魔獣を狩れるだろーさ」
「馬鹿言うな!
俺が転移してきたこの異世界では、魔力を利用して魔法や魔術を扱う事が出来る。
魔法とは魔力をそのまま別のエネルギーや物質に変換したもので、使用者の素質が無いと使えない。
対する魔術は誰でも使用可能だが、術式や紋章を使いこなし、それに魔力を込める必要がある。
とどのつまり、修練によって体得するのが魔術であり、才能頼りなのが魔法というわけだ。
しかしそれらには制限がある。その制限とは使用者の魔力保有量、通称マジックポイントに依存するという点だ。
MPが尽きたところで体力にはほぼ影響しないが、魔法や魔術が一切使用出来なくなる。
この世界では致命的な状態だ。
「身体強化の魔術が使えなくなれば、逃げ延びる
「たった今遺伝子改変したばっかだっての。お前様は無尽蔵の魔力を手に入れた。魔術使い放題、魔法
「はぁ……? 無尽蔵の魔力だと?」
「わかり易く言えば、お前様は体内でMPポーションが生成される体質になった。体液に混じって流れてるから、常に魔力を回復すんだよ」
MPポーションとはマジックポイント回復薬の別呼称だけど、どうやってそんなもん体内で作るんだよ。さっきのドーピングは本当にとんでもないものだったらしいな。
魔力切れにならないのなら、確かに魔法も魔術も使い続けられる。
微々たるダメージでも蓄積すれば、強敵を葬れるはずだ。
「ここで効果を試してもいいか?」
「屋敷を破壊しない方法なら構わん。身体強化でも障壁を張るでも、好きにやってみろ」
俺は右腕に刻まれた紋章に魔力を込める。
これは身体能力向上の魔術紋章で、この世界では割と一般的な物。これに軽く魔力を流すだけで、通常の三倍以上は筋力が増す。
「マジかよ……。魔力が消耗してる気がしない」
「そりゃその程度なら減るより回復の方が早いからな。お前様はもう歩く魔力タンクだ」
「なんだその奇っ怪な称号。微塵も嬉しくないな」
その後複数の魔術を同時に発動させ、ドーピングが確かに成功していると証明された。
気を良くした俺はさっきまでの恐怖心が薄れ、魔獣の棲息地である森へと繰り出す。
ちなみに今までの俺であれば、魔獣という存在相手に逃げるだけで精一杯である。
「この辺境にあるネビュラの大森林では、
「ちょっと待て。魔獣って、熊とか狼とかのあれじゃないのか!? 龍なんて上位種、まだ見た事もないんだが……」
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