職場

私は昨日、とある患者様の首を絞めそうになった。


もちろん、絞めることはなかった。


殺人者として捕まりたくなかったからだ。


でももし、それが罪にならなければ、私は実行してしまったかもしれない。


私は、“死”を軽んじる人間が一番嫌いだ。


本当に死にたい人は、誰にも何も告げずに死ぬのだ。


口に出して死にたいを連呼する奴ほど、周囲の注目を浴びるためにやっていることを知っている。


私はされた側なので、それがいかに苦痛で辛いことなのかを分かっている。


だから死ぬ勇気も出ない。


にもかかわらず、私に振られる担当患者はそんな“死”を軽んじるような輩ばかりである。


これは、いじめか?と思う。


もちろん、現在の職場のスタッフは私の家庭の事情も知らない。


だから意図して振っていないのは重々承知なのであるが、それでもそんな奴らに優しい言葉をかけなければならない苦しみが日々私を蝕んでいく。


昨日、そんな患者が飛び降りようとしたのを私が強制的に止めることになった。


その時、本当に首を絞めなくて良かったと思っている。


患者はさも、私がこの世で一番不幸ですというような顔をしたのがあまりにも腹立たしくて、私は自分の現状を洗いざらい喋ってしまった。


他のスタッフもいる前で堂々と。


露骨に慰めてくるものや傷口をえぐってくるもの。


聞こえないふりを演じるスタッフもいたが、全てが煩わしかった。


私は別に不幸自慢をしたかった訳ではない。


苦労を知らない奴ほど自分が一番不幸だというアピールをすること、そのものに腹が立っただけだからだ。


私だって私が一番不幸だと思ってもいないし、もっと苦しい経験をしているひとをこの目で見ている。


だからこそ、家庭の事情などに興味を持たなければいいのに、人間と言うのはそのように振る舞えない様子である。


私も現に周囲の目を気にしている時点で終わったと思う。

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