第5話
「それって……どういう……?」
「ん? ああ、最初に言ったろ? 三年に一度、夢を見ているって。夢は続いているんだ。俺が拒否しているだけで……おそらく、あの村はいつだって俺を呼び寄せることが出来るんだろうな」
暗く翳る部屋の中で自嘲気味に笑う
暫くそのまま暖炉の方を見ていた
「二度目の夢の話は、また今度にしよう。と、なれば……なあ、
その形の良い唇の端には、不思議な笑みが浮かんでいる。
「せ、責任って何ですか。僕には何の責任も……」
思わず狼狽える僕に向かって
「何って、俺が思い出したくもない夢を、お前に話すことになった責任だよ」
分かっている癖に、と言外の意図を滲ませてみせる僕の眼の前に居るのは、完全にいつも通りの
「えっ? それって、どうすれば」
「……分かるだろ」
「わ、分かりません……って言わせてくださ……い?」
「ふうん?」
禍々しくも美しい
濡れて艶を含んだ
逸らすことが赦される筈はない。
甘さを滲ませるその眼差しに絡め取られた僕は、しなやかな美しい獣のような
ソファの軋む音が、部屋に響く。
ゆっくりと僕に向かって伸ばされた
その瞬間、ふわと
アンバーやムスクに加えて、
あゝ抗うことは、もはや無意味だ。
観念した僕は、眼を伏せる。
衣擦れの音と共にソファが
…………、……。
…………?
「…………おい」
その突然の突き放すような声に、それまでの甘い雰囲気に蕩けるような響きは、露ほども無い。
夢から覚めたように、はッと眼を開けると、少しも
「まあ、お前がそのつもりなら、俺は別に良いんだが……ふうん? 良いんだ?」
また、やられた。
どうして僕は……。
「良くない、良くないです」
少し遅れて我に返った僕の必死すぎるその様子に、
それを見て僕はまた、容易く勘違いしそうになる自分を諌めるのだった。
「ははッ。俺もそんなつもりは、ねぇよ」
「えっ?」
「おい……何を残念がっているんだよ」
「ざ、ざ、残念?! そんなことは、思っても……
「ふふん」
その傲慢な笑顔も
結局、
「僕の家で構わないですか?」
「
夕食を外で済ませた僕と
もう誰も、待つ者の居なくなった家。
「
玄関の鍵を回す僕に、それまで黙ったまま家まで歩いて来ていて突然、何を思ったのか、あるいは道々僕が考えていたことを気づかれてしまったのか、
「変わりません。相変わらず、眠ったままです。
「そうだな、どんな夢だろう」
「……
「いや、寝るよ。誰かが傍に居ると、不思議とあの夢は見ないんだ。だが、長く続けては眠れない……恐ろしいんだな」
「へぇ……そうなんですね。じゃあ、それに気づいたきっかけがあるんですね?」
「ああ、そうだ。夢は怖いが、あの頃はまだ三年に一度という決まりがあったから、普段は忘れていることの方が多かった。で、すっかり忘れていた三年ぶりの十五歳のその日」
「その日?」
「俺は
「それで……?」
「違う夢を見ていたその中に、あの老人が紛れていて、それに気づいた俺に向かって悔しそうに言ったんだよ」
まさか、独りじゃないとは……。
次こそは、必ず……。
「……で、俺は飛び起きた。それからずっと誰かと寝てる。相手は別に誰でも良いんだ。あの夢さえ見なけりゃな。誰もいない時や独りで居たい時は、起きたまま夜を彷徨い明かす。公園で、あの爺さんが言ったように俺は独りじゃ夜、寝られないんだよ」
そうして酒を飲みながら、映画を観て朝まで時間を潰すことにした僕と
驚いた僕は、
まじまじと見下ろされている気配を感じたのか、寝ていた筈の
次の瞬間、寝ぼけているのだろう
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