婚活が捗らないけど割と楽しんでる件

サンセット

第1章 婚活以前編

第1話 親からの圧力

 両親からちょっと良いものを食べに行こうと誘われて、家族でうなぎ屋にやって来た。自分ももう就職しているので、自分の食事代くらいは出すと言ったのだけど、両親は払ってやるからいいと言った。


 何か妙だなと思いつつ、少し控えめにうな重の梅御膳を選んだ。やがてうな重と吸い物のセットが来た。うなぎ屋のうなぎだから、味は間違いなく美味しい。けれども何か違和感があった。両親が職場の人間関係などを聞いてくるのだけど、会話がどことなくぎこちないのだ。


 一通り食べ終わると、両親が少し居直った。何をする気かと思っていると、改めて自分に質問し始めた。


「たかし、ちょっと聞きたいんだが……。お前、結婚する気はあるのか?」


 自分は思わず、飲んでいたお茶を置いた。


「たかし、別に今すぐって訳じゃないのよ。でも無事に就職もしたし、親としては次が気になるのよ」


 なんだそういうことか、と思った。自分に色恋沙汰が無いのを心配しているのだ。しかし、わざわざ結婚願望を聞くために、うなぎ屋まで連れてくるとは……。


「……結婚する気自体は、あるよ。ただ、今の状態だと出会いは無いから、どうしようかとは思ってるけど」


 会社の同僚で、マッチングアプリをやっている人が多少いる。自分も何かの機会に登録したけどそれっきりなので、結婚する気なら改めて始めた方が良いんだろうか。そんなことを考えていると、両親が続けて口を開いた。


「たかし、近いうちに結婚相談所へ説明を聞きに行きなさい。お母さんが連れて行ってもいいから」


 待て待て待て。自分に結婚願望はある。親が自分に結婚してほしい気持ちも分かる。だけどタイミングくらいは自分で決めさせてほしい。それにいざ婚活するとなったら、もっと事前準備みたいなのが必要なんじゃないのか。そもそも自分はどういう女性だったら合いそうなのか、合いそうな女性がいたとしてどう振舞えばいいのか、正直よく分からない。そんな状態でいきなり結婚相談所にいって、上手くいくものなのか?


 自分も結婚に無関心な訳じゃないので、多少は情報を調べたことがある。なんでも、たとえ結婚相談所でも、成婚退会率は2割以下が普通なのだそうだ。それに成婚退会する人は、大体1年くらいで相手を見つけるらしい。そういう話を聞く限り、すんなり相手を見つけて退会する人と、相手が見つからずズルズル居続ける人は、そもそも入会前の時点で何か差があるように思える。今すぐ自分が結婚相談所に行ったら、まず後者の人間になってしまう気がする。


 それに、自分はいま27歳だ。結婚相談所に行って、仮に順調に相手が見つかったとしたら、1年後の28歳に結婚するのか? 女性なら20代後半で結婚が多いかもしれないけど、自分がいざ相手を見つけたら来年に結婚する気になれるのか? 少なくとも今はそこまでの気持ちじゃない。いきなり婚活とかよりも、もっと幅広く色んな人に会うとか、そういう所から始めても良いんじゃないのか?


 そんなことを考えて、すぐに結婚相談所へ行く気はないという話はしたものの、「入会しなくても説明を聞くだけでいいから」などと言って、両親もなかなか折れてくれない。両親は親戚の紹介でお見合い結婚をしたのだけど、結婚相談所はお金を払ったら適当にいい女性をあてがってくれる所だと思っているらしい。そこへ行けば全て解決すると思っているなら誤解を解かなければいけない。議論は白熱した。


 しかし結局、両親は折れてくれなかった。とは言え自分もすぐに結婚する気はないので、結婚相談所へ行くかどうかは自分次第だ。まあ現状はそれらしい相手すらいないので、状況としてはもちろんいい訳ではない。あと1年で東京オリンピックがあるので、その時には誰かと行きたい気持ちもあるけれど……。


 というか自分の両親、こんなに過保護だったかなとか思いながら、黙ってうなぎ屋を後にした。



<つづく>

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