相談するだけで恋が成就すると評判になった僕の元に、ずっと片想いしていた幼馴染が恋愛相談に来た

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短編

 僕、佐藤さとう陽太ようたは普通の男子高校生。ちょっと変わっているところといえば実家が縁結びで有名な神社だということだろうか。

 そんな恋愛成就パワーの溢れる場所で育ったせいなのかはわからないけれども、僕にはどうやら不思議な力があるっぽい。


 それは『僕に恋愛相談を持ちかけるとその恋が成就する』というもの。


 そんなバカなことあるわけないだろうと思うかもしれない。しかしある時、学校イチの美少女を狙っていた男友達の恋愛相談に乗ったところ、見事に二人は付き合うことになったのだ。その話がまたたく間学校中に広がり、僕は恋に悩む人からよく相談を受けるようになった。そしたら恋愛相談をした人たちがまたことごとく成就していくので、『歩く恋愛成就のパワースポット』として僕は有名になってしまった。

 実際のところ、相談に乗ったついでに実家で売っている恋愛成就のお守りを買ってもらっているので、本当のパワーはそっちの方にありそうな気がしないでもない。どっちにしろ実家の神社の宣伝になるのでいいかなと僕は思っている。


 ちなみに肝心の僕自身は全くモテない。他人の恋を成就させる星の元に生まれてきてしまったのだろう。まるで自分のパワーを削って他人を幸せにする、あんパンで出来たヒーローみたいだ。そんな青春も悪くはないかなとは思いながらも、せめて自分の好きな人くらいは振り向いて欲しいなあなんて毎日考えている。


 ◆


 ある日の放課後のこと、僕の元を尋ねてきた一人の女子生徒がいた。彼女は塩谷しおや美月みつき、僕のクラスメイトかつ幼馴染である。

 明るいキャラクターとショートヘアが絶妙にマッチした活発系美少女でクラスの人気者。小さい頃はよく遊んだりしていて、なんだかんだ高校まで一緒になってしまった。

 高校生になってからはたまに話すぐらいの仲になったわけだけれども、ノリが良いおかげで授業なんかで同じ班になるととても楽しい。


 そんな美月に僕は昔からひっそりと好意を抱いている。でもそれも今日で終わらせなければならないみたいだ。


「ねえ陽太、ちょっと時間ある? 相談をお願いしたいんだけどさ」


「まあいいけど。……やっぱり恋愛相談?」


「そんな感じ。陽太に恋愛の相談乗ってもらうと100%成就するんでしょ?だったら是非ともお願いしたいなーってね」


 僕にとっては美月からのその言葉が一番聞きたくなかった。相談すると100%恋が実るという僕の元を尋ねてくるということはつまり、美月にはどうしても結ばれたいくらい好きな人がいるということだ。美月のことが好きな僕にとっては残念なことこの上ない。


 本当は美月の恋愛相談に乗るなんて悔しい気持ちでいっぱいなのだけれども、それでも美月が悲しむよりはマシかと思って僕は気を取り直す。たとえフラれてしまったような状態になっても、好きな人が幸せそうにしているのであればそれはそれでいい。


「……それで?相手はどんな人なの?」


「そこそこ仲のいい人……、かな?なんだか友達みたいな感じ。だからもうちょっとお近づきになりたいなって思うんだけど、どうしたらいいのかなって」


 美月は明るい性格のおかげで顔も広いので、彼女の周りにいる『友達みたいな感じ』の男を挙げるだけで両手の指が余裕で折れる。下手をすれば手がサッカー場でサポーターがやっているようなウェーブみたいになる。この情報だけでお相手を絞り込むのは無理そうだ。


「それなら一緒に出掛けてみればいいじゃん。デートでもいいし、グループでもいいし。そしたら自然に距離も近づくだろうし、相手のことも少しづつわかってくるんじゃないかな」


「おおー、さすが陽太。なんか相談のプロっぽい」


「そりゃまあ成就率100%を謳ってますから」


 なんて強がってはいるけれど内心泣きそうだ。美月と他の誰かがデートをしている様子を想像するだけで胸の奥がチクチクと痛い。


「じゃあ、デートに誘ってみようかな。ありがとう陽太、やっぱり頼りになる」


「いいってことよ。ついでに、うちの神社で売ってる恋愛成就のお守りを買っといてくれ」


「オッケー、相談料代わりってことだね。ちゃんと実家の営業もしてて偉い偉い」


 そう言って美月は僕の頭をポンポンと撫でた。なんだかなだめられているみたいで情けない。


「陽太んちのお守りってあれだよね?巾着の中に相手の写真入れると効果抜群ってやつ」


「まあそういう都市伝説もあるな……。ちょっと罰当たりな感じするからあんまりやって欲しくないけど」


「いいじゃんパワーアップするんだから。相手の顔がわかる方が神様もやりやすいんだって」


「そういうもんかなあ……」


 うちの実家のお守りには変な都市伝説みたいなものがあって、巾着袋を開けてその中に想い人の写真を仕込むと効果が上がるなんて言われている。なんとも罰当たりな手法なので推奨していないが、それでも実行する人が後を立たない。

 何にせよ信仰の仕方は自由なので各自の判断に任せる。


 ◆


 数日後、美月から『デートに行くことになったから練習をして欲しい』と連絡が来た。わざわざ僕なんかで練習をしなくてもいいと思ったのだけれども、『陽太が一番相談しやすくて信頼できるから』と言われてしまったので断れなくなってしまった。たとえお世辞だったとしてもそう言われるのは嬉しいのだ。なんとも単純な男心である。


 日曜日に駅前で美月と待ち合わせることになった。遅刻するのはさすがに良くないので僕はかなり早めに約束の場所へ来たつもりだったのだけれども、美月はそれよりも早く待ち合わせ場所に到着していた。

 僕はデートの練習台だというのに、美月はバッチリお気に入りの服を着てメイクまでしてきている。おそらく本番を見据えているのだろう。身だしなみの面でちゃんと用意ができているのならば心配はいらなそうだ。


「おはよう。随分早いじゃん、いつもの美月だったら予定より30分は遅刻してくるのに」


「30分は言い過ぎ。せいぜい15分だし」


「どっちにせよ遅刻してるし。まあでも、時間をちゃんと守るのは良いことだと思うよ」


「でしょー?私ったら偉すぎじゃない?」


「はいはい偉い偉い」


 軽く冗談を受け流すと、美月からジト目の眼差しが飛んできた。こんな感じで表情が豊かなところも美月の可愛いポイントだと思う。それゆえにこれから美月の彼氏になるであろう男が本当に羨ましい。


「んで、どこ行こっか? 陽太はなんか行きたいところある?」


「んー、買い物でも行こうかな?最近服とかあんまり買えてないし」


「いいねー、じゃあ早速行こうよ。……ほら、エスコートして?」


 美月は右手を差し出してきた。これは手をつなごうという意思表示なのかもしれないけれど、ヘタレの僕は流石にその手を取ることができなかった。


「ばーか、そういうのを練習台で試すんじゃないよ。本命のために取っておけよ」


「いいじゃん別に減るもんじゃないし。――あっ、もしかして恥ずかしいの?」


「そ、そんなことないし! 」


 動揺する僕の顔を見て、美月はニヤニヤする。


「……あーもうわかったよ!握ればいいんだろ握れば!」


「さすが陽太。デキる男は違うねえ」


 生まれて初めての恋人繋ぎをまさか美月とすることになるとは思わなかった。でも繋いでしまったものはしょうがない。こればかりは許せ、未来の彼氏君。


 そうして僕らは買い物をするために駅からほど近いショッピングモールをぶらつくことにした。本当は服なんて買うつもりはあまりなかったのだけれども、なんとなく美月が服を見に行きたそうな感じがしたので思わず口に出してしまった。

 まあ、僕が言ったことにすれば美月は余計な気を使わなくて済むだろう。我ながら随分と出過ぎた真似をする練習台だなと僕は自嘲した。


 レディースの服屋が並ぶ区画を通りかかるやいなや、案の定美月は目に入った店に吸い込まれるように入っていった。僕のことなどそっちのけで食い入るように夏物の服を物色し始める。


「ねえ陽太、これとこれどっちが良いと思う?デザインはほぼ同じなんだけど色で迷っちゃってさー」


 美月はこの夏の新作らしいワンピースを手に取って僕に見せてくる。片方は明るめの青が主体で、もう片方は淡い黄色。

 おそらく美月の中でもう既に9割方結論が出ていて、購入のためにちょっとした後押しを欲しがっていたりするのだろう。察するに青が本命だろう。

 なぜかって?それは美月が小さい頃、母親が選んできた黄色い服を似合わないからと嫌がって泣きべそをかいていたから。なぜか僕はそんなどうでもいいことばっかり覚えている。


「青と黄色かあ……、どっちも可愛いとは思うけど個人的には青かな。夏っぽいし」


「やっぱりそう思う?じゃあこれを買っちゃおっかなー」


 ノリノリで青いワンピースをレジに持っていく美月。どうせなら本命とのデートのときに買えばいいのにと思ったけど、おそらくはその買ったばかりのワンピースをデートに着ていくのだろう。未来の彼氏くんが本当に羨ましい。


 ワンピースを買って気分が乗ったらしい美月はショッピングモール内にあるゲームセンターへ行こうと言い出した。

 お目当ては県内最大級と言われるくらい沢山のプリクラ機が並ぶエリア。


「せっかくだしプリ撮ろうよ。最近男子禁制の所が増えてるからまたとないチャンスだよ?」


「いや、そもそも男だけでプリクラを撮りに行くことが無いんだけど……」


「それじゃあ尚更貴重なチャンスじゃん!このビッグウェーブに乗るしかない!」


 とか言って美月の本音は自分が撮りたいだけなのだろう。まあこれもデートの練習のうちかと思って僕は仕方なくプリクラ機に吸い込まれていく。


「ほらもうちょっと寄りなさいよ、そんな端に居たらカメラの枠に収まらないじゃない。……てか陽太、表情固すぎでウケる」


「う、うるさいなあ……。写真撮られるのは苦手なんだよ。勝手もよくわからないし、ちょっとは手加減してくれ」


「仕方がないなあ、それならば私が特別に陽太の顔をモリモリに盛ってあげよう」


 プリクラ機というのは凄まじいもので、普通に撮ったはずの僕の顔が美月の手によってみるみるうちに別人へと加工されていく。すべからく女子というものはみんなこんな盛り盛りテクニックを持っているのだろうか。最早僕の顔の原型がないじゃないか。なんなんだこの目のでかい動物は。


「ヤバい、盛りまくった陽太の顔超ウケる」


「流石にやり過ぎだ、最早誰かわからないだろ」


「大丈夫大丈夫、ちゃんとしたのも残しておくから安心して」


 そうして印刷された写真には、盛りに盛られたものと、加工抑えめの二人のツーショットが写っていた。

 ……流石にこれは未来の彼氏くんに見られたら誤解されるだろう。後で美月にはちゃんと処分するように言っておかないと。


 その後、ゲームセンターで少し遊んで、フードコートでアイスを食べたり、雑貨屋を眺めたりした。内容的にはごくごく普通のデートだ。これで美月の練習になっているのかはよくわからないけれど、それでも彼女が楽しそうにしているから良し。


「あっ、そういえばあれも乗っておきたい。観覧車」


「あー、このショッピングモールの屋上にあるやつか。いいんじゃない?」


「私苦手なんだよねー観覧車。ちょっと練習しておかないとマズいかも」


「よく言うよ、ジェットコースターとかフリーフォールはノリノリで乗るくせに」


「あれは一瞬だけ高い所にいるからいいの。観覧車みたいに何分も高い所にいるのは苦手」


「へえ、そんなもんかね」


 美月は観覧車が苦手ということを僕は初めて知った。これだけ長いこと付き合いがあっても良くわからないことばかりだ。

 僕ですらこうなのだから、未来の彼氏くんはこれから美月のいろいろな面を知るに違いない。そしてそのうちその彼が僕の知らないようなことをどんどん知っていくのだろう。そう思うとちょっとばかりセンチメンタルになる。でもそんな事を表情に出すわけにはいかない。今の僕は美月の練習台なのだ、出来るだけフラットな気持ちでいなければ。


 観覧車のゴンドラに乗り込むと、あれだけテンションの高かった美月が急に静かになった。さっき言ったとおり長時間高い所にいるのは苦手なのだろう。


「ごめん……、やっぱりちょっと怖いかも……」


「大丈夫だよ、ジェットコースターと違って落ちやしないんだから」


「それでも無理なもんは無理っ!」


 僕の対面に座る美月は、ゴンドラがどんどん上に登るにつれて表情も身体も固まってきた。高所への恐怖によって他のことを考える余裕がないのだろう。高さが3分の2ぐらいのところまで来る頃にはすっかりうずくまってしまった。


「……美月?大丈夫?」


 声をかけても返事が来ない。心配になった僕は美月の右隣に座ると、まるですがるかのように美月は僕の左腕にしがみついてきたのだ。


 ……可愛い。普段めちゃくちゃ陽気なだけに、こんな風にしおらしくなってしまうギャップに僕はやられてしまいそうだ。


 でもそういうのは本命である未来の彼氏くんにやってほしい。僕にそんなことしてもなんの意味もないのだから。せっかく美月のことを諦める決心がつきそうだったのに、また心が揺らいでしまう。


 なあ、僕は泣いて良いだろうか。



 ◆


 美月とのデートの練習から2週間ぐらい経った。


 そういえば美月にはいつデートに行くのか聞いていなかった。でもさすがに2週間も経ったし、もう既に本命くんとどこかへ行っただろう。

 一応相談を受けた身ではあるので結果ぐらいは聞いておかなくてはならない。ちょうど今日、僕と美月が日直になる日なので、帰り際にそれとなく聞いてみることにした。


「……そういや美月、デートには行ったの?」


「うん、行ったよ。楽しかった」


「そっか、それなりに手応えあったっぽいな。良かった良かった」


 僕は胸を突き刺すような痛みを堪える。大丈夫、美月は幸せそうにしている。それだけで十分だろう。自分で自分を納得させるため、何度も何度もそう言い聞かせる。それしか僕にはできなかった。


「……まあでも手応えは良かったけれど、もうひと押しって所かなあ」


「そうなのか。――じゃあいっそ美月から告ってみたら?」


「それもありかも。今告ってみたら上手くいく気がする」


「なら善は急げだ。――日直の仕事は僕に任せて行ってきなよ」


「………うん、そうする。――じゃあこれ、返すね」


 美月はうちの神社で買ったお守りを差し出してきた。


「お守り……?いや、告白するまで持っておけよ。そうじゃないとご利益が無いだろう?」


「いいじゃん、どうせ100%成功するんだから。今返そうが後で返そうが同じじゃない。こういうのって使い終わったらお炊き上げするんでしょ?」


「まあ確かに使用したお守りはお炊き上げするけどさ……。別に今返さなくても……」


「後で陽太んちに行くの面倒くさいんだもん。今渡すのが合理的」


 僕は渋々お守りを受け取った。随分と短いお役目だったようで、まだ新品みたいに綺麗な見た目だ。


「そういえば陽太はこのお守り使ったことある?」


「あるわけないだろう。僕はご利益をみんなが享受できるように務める側なんだから」


「ふーん、そんなもんなんだね。――じゃあ別に好きな人も居ないんだ?」


 その質問の答えに窮した。当たり前だ、こんな状況で『美月のことが好きだ』なんて言えるわけがない。美月にはこれから結ばれるだろう人がいるんだ、彼女の幸せのためにも僕が下手に何か言うのは得策ではない。


「……まあ、いないこともないけど。でも、多分無理かな。その人は僕のことをもう必要としていないみたいだし」


「……何それ、変なの。たまには逆に恋愛相談に乗ってあげようと思ったのに全然面白くないじゃん」


「余計なお世話だ。――ほら、告りにいくんだろ?早く行けよ、日直の仕事は僕がやっておくから」


 そう言うと美月は残りの日直の仕事を僕に押しつけて教室から去ってしまった。ひとりになった僕の目にはいよいよ涙が溢れてくる。


 ちくしょう。こんな辛い思いをするぐらいなら、美月のことを好きになんてならなければよかった。何が縁結びの神社だよ、何が神様だよと、こんなにも自分の境遇を恨んだ。



 今頃美月は告白が上手くいって仲良く二人で下校をしているに違いない。

 もう何も考えたくなかった僕は、日直の仕事を黙々とこなすことで悲しさを紛らわした。


 そうしているとあることに気が付いた。

 先程美月がお炊き上げしておいてくれと僕に返却しでくれたお守りが手元にあるのだが、そのお守りの巾着の部分をよく見ると一度紐を解いて緩めたような形跡があった。

 うちの神社のお守りには都市伝説として巾着の中に相手の写真を入れると効果倍増なんて話がある。もしかしたら美月もそれを実行していて、このお守りの中には今まで誰なのかわからなかった美月のお相手の写真が入っているかもしれない。


 そういうわけで神社の息子としては最低な事かもしれないが、このお守りに入っているであろう写真を見てしまおうかと思う。そしてそのご尊顔を目に焼き付けたあと、大火力でお炊き上げしてやろう。


 僕はドキドキしながらお守りの紐を解く。あまり評判の良くない奴だったらどうしようかとか、実は凄く年上のおじさんでしたとかそんなことで頭はもういっぱい。せめて、美月を幸せにしてくれる人でありますようにと祈りながら写真を取り出した。


 その写真には、まさかの人物が写っていた。



「………嘘、だろ?」



 僕は言葉を失った。中に入っていた写真のその意味を理解するため、今までの出来事や美月の発言を振り返る。……確かに美月は間違ったことは言っていない。整合性も取れている。


 そしてなにより、あの美月がこんなにも回り道をして想いを伝えようとしていたのがとても愛おしく感じた。








 そう、取り出した写真は、2週間前に美月と一緒に撮ったツーショットのプリクラ写真だったのだ。



おわり



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