【Session05】2015年07月23日(Thu)大暑
梅雨も明けたが、今日は朝から今ひとつ天気が優れずぐずついた空模様で、今にも雨が降り出しそうなそんなぶ厚い雲が垂れ込んでいるのを、学は自分のカウンセリングルームから伺うことが出来た。
学は彩とのカウンセリングの約束の時間が迫っているのを気にしながら、自分のディスクでひとりあやとりをして彩が来るのを待っていたのだ。ちょうどその時、彩から学のカウンセリングルームへ連絡が入ったのである。
木下彩:「もしもし木下です。『カウンセリングルーム フィリア』ですか?」
倉田学:「はい、そうです。どうしましたか?」
木下彩:「すいません。電車が遅れてて、5分ぐらい遅れそうなんですが…」
倉田学:「そうですか、わかりました。では気をつけていらしてください」
木下彩:「わかりました。ありがとう御座います」
倉田学:「では、お待ちしていますので、お願いします」
こうして彩から5分程カウンセリングに遅れる旨の連絡が、学の元に入ったのだ。学はカウンセリングルームの時計に眼をやると、ちょうど時間は約束していた15時に、時計の針が差し掛かろうとしていた。
そしてしばらくすると、1階フロントロビーの玄関のチャイムの鳴る音がしたのだ。学は前回と同様におもむろにインターフォンの呼び出し音に反応し、インターフォンに出たのだった。
木下彩:「すいません木下です。ドアを開けて貰えますか?」
倉田学:「お待ちしていました木下さん。今、 ロビーのドアを開けますね」
木下彩:「お願いします」
こうして彩は、学のカウンセリングルームがある7階へとエレベーターで急いで駆け上がって来たのだ。そして705号室の『カウンセリングルーム フィリア』へと向かった。
間もなくして705号室のチャイムが鳴り、インターフォン越しに彩の息を切らした声を聴くことが出来たのである。
木下彩:「すいません、遅くなりました。木下です」
倉田学:「お待ちしていました。今開けますね」
こうして彩のカウンセリングは、結局15分遅れで開始することとなったのだ。
倉田学:「木下さん、今日は2回目のカウンセリングになりますね。宜しくお願いします」
木下彩:「こちらこそ、宜しくお願いします」
倉田学:「ではカウンセリングを始めたいと思いますが、今急いで来られたので少し深呼吸をしてみましょうか?」
木下彩:「そうですか、はい」
倉田学:「それでは、吸ってー吐いてー、吸ってー吐いてー」
木下彩: 吸ってー吐いてー、吸ってー吐いてー」
倉田学:「少しリラックス出来たら始めましょう。時間の確認をしたいと思います。今日のカウンセリングは120分で、15時から17時までの予約となっていましたよね?」
木下彩:「はい、そう言う予約でした」
倉田学:「しかし木下さんは、約束の時間に遅刻しましたよねぇ」
木下彩:「ええぇ、まあぁ」
倉田学:「15時から17時までの時間という枠を決めたのは木下さんですよ。なので15分遅刻したからと言って、15分延長することはできません」
木下彩:「えぇー、でも電車が遅れていたので…」
倉田学:「それでも駄目です。もし時間を変更するならリ(再)・コントラクトを取り、時間を変更する必要があります。しかし、あいにくわたしも忙しいので無理です」
木下彩:「えぇー、ではその15分間の料金を引いて貰えますか?」
倉田学:「それも駄目です。さっきも言ったように、お金も時間と同様に木下さんが了承した金額という枠です」
倉田学:「わたしは木下さんが決めた枠(時間・お金)があるからこそ、その中で構造(どのようにカウンセリングを組み立てるか)を作ることが出来るのです。もしご納得頂けないのであれば、次回から来なくてもわたしは構いませんよ」
木下彩:「えぇー、そんなこと今まで言われたこと無いですけど…」
倉田学:「木下さん。わたしにとってカウンセリングは枠(時間・お金)があるからこそ構造(どのようにカウンセリングを組み立てるか)が作られ、限られた枠(時間・お金)の中で最大限の力を発揮するのがある種、わたしにとってのカウンセリングに対する哲学の部分になります」
倉田学:「だから時間を勝手に延長するとか、料金を割り引けとか、回数券みたいなチケットで割引のカウンセリングをすることは、わたしにはできません」
彩は学の力説する彼なりの哲学に基づいてカウンセリングを行なっている事について、今まで受けてきた心理カウンセラーで学のように、カウンセリングに対する軸を持ってカウンセリングをしているひとが、どのくらい居たのだろうかと振り返ってみたのだ。そして学のある意味ポリシーがどういったものか、またカウンセリングに対する姿勢を知ることが出来たのだった。
倉田学:「では、どうしますか木下さん?」
木下彩:「すいません、お願いします」
倉田学:「わかりました。では時間の確認をしたいと思います。今日のカウンセリングは120分のお約束ですが、15分遅れましたので15時15分から17時までで宜しいでしょうか?」
木下彩:「はい」
こうして彩の2回目のセッションがようやく始まった。彩は学のカウンセリングに対する姿勢を聴いて、学のカウンセリングに対する信頼をさらに寄せるようになって行ったのだ。
今回のカウンセリングで学が一番聴き出したかったのは、彩の何がトリガーとなって解離性同一性障害(二重人格)、つまりもうひとりの人格が現れるかであった。そしてカウンセリングも終盤になり、その答えを彩から聴き出すことが出来たのだ。
倉田学:「最近、もうひとりの人格が現れたのはいつか覚えていますか?」
木下彩:「はい、7月11日(土)だったと思います」
倉田学:「具体的にどのような行動をとった時か、お話頂けるでしょうか?」
木下彩:「えぇー、確かアルコール(お酒)を飲んだ時に…」
倉田学:「アルコール(お酒)を飲むと、どのようになるのでしょうか? また、その時の意識などはあります?」
木下彩:「それが、自分でもよく覚えていないんです」
倉田学:「わかりました木下さん。そろそろ時間ですし、今日はここまでにしておきましょう」
木下彩:「はい」
こうして2回目のセッションを終えることとなった。彩は次回のカウンセリングの予約を8月6日(木)15時からで学にお願いし、学はスケジュールを確認して大丈夫であることを彩に告げた。学はカウンセリングルームの玄関で彩を見送り、次回のカウンセリングをどう組み立てるか考えていたのだ。
今回、学が一番知りたかったトリガーとなるアルコール(お酒)を彩から聴き出せたので、2回目のカウンセリングとしてはかなりの収穫だったと学自身思っていた。それと同時に彩の中のもうひとりの人格がどういった人物なのか学なりに想像を膨らませていたのである。
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