【Session04】2015年07月20日(Mon)海の日・土用
梅雨も明け、朝から雲ひとつない青空の絶好の海の日である。そして子共たちは夏休みが始まり、また暑い夏がやって来た。
今日は海の日の祝日で、彩も会社はお休みであった。しかし先日、透のお店でアルコール(お酒)を口にしたせいで、もうひとりの人格の綾瀬ひとみが出てきて透のお店に迷惑を掛けたとのことで、透から連絡が来ていた。実は、彩が最初に透に会った時に喫茶店で、透とLINE交換をしていたからだ。そして透からのLINEの内容はと言うと、次のような内容であった。
樋尻透:「銀座の柳の下で~♪ 午後21時に~♪」
彩は意味が良くわからずスマホで『銀座の柳』を検索すると、それらしき場所が出て来たのだ。そこは新橋駅から歩いて3分ぐらいの場所だと言うこともわかった。おそらくここだろうと彩は思い、新宿で透のお店での場違いな格好の反省から、今度は彩の持っている服の中で一番のおめかしをして出掛けることにしたのだ。
透はと言うと新宿の自分のお店から既に出掛け、銀座8丁目にあるじゅん子ママが経営する『銀座クラブ マッド』に到着するところであった。そして透はじゅん子ママのお店の中に入っていったのだった。
樋尻透:「じゅん子ママ! 久しぶりー」
じゅん子ママ:「おぉー。透ちゃん、久しぶりー」
樋尻透:「じゅん子ママ、元気してたぁー」
じゅん子ママ:「透ちゃんこそ、最近お店に来てくれないんだもん」
樋尻透:「でもさぁー。今日、お店にイイ子紹介するからさぁー」
じゅん子ママ:「ホント! 透ちゃん、信用してもイイの?」
樋尻透:「それは俺の腕次第かなぁー」
じゅん子ママ:「で、透ちゃん。その子、いつ連れてくるの?」
樋尻透:「21時に『銀座の柳』で落ち合うことになっているからさぁ。今から迎えに行ってくるよ」
じゅん子ママ:「透ちゃん、楽しみにしてるからね♡」
透はじゅん子ママのお店を後にしたのだ。そして彩と待ち合わせしている『銀座の柳』へと向かった。その頃、彩は新橋駅から約束している『銀座の柳』に到着し、透が来るのを待っていたのだった。しばらくして透が彩の横から現れたのだ。
樋尻透:「ごめんごめん。ちょっと待ったぁ」
木下彩:「ううん。今来たところ」
樋尻透:「じゃあ、行こっか?」
木下彩:「えっ、どこに行くの?」
樋尻透:「彩さぁー。夜の仕事探してたよねぇー」
木下彩:「うん。そうだけど…」
樋尻透:「彩に、いい仕事があるんだよぉー」
木下彩:「どんな仕事なの?」
樋尻透:「それを見せに、今から行くんだよおぉー」
木下彩:「そう。ここから近いの?」
樋尻透:「行けばわかるからさぁー。おいで…」
透は彩の手を繋いで、銀座8丁目にあるじゅん子ママが経営する『銀座クラブ マッド』に向かった。道中、彩は先日の新宿歌舞伎町にある透のお店でのことを透に訊いたが、透はその件には触れずはぐらかしたのだ。
樋尻透:「じゅん子ママ、連れてきたよぉ」
じゅん子ママ:「透ちゃん。どんな子だい?」
樋尻透:「紹介しまーす。彩ちゃん」
じゅん子ママ:「えぇー、この子?」
樋尻透:「まぁー、後からのお楽しみと言うことで…」
木下彩:「こんばんは、木下彩です」
じゅん子ママ:「こんばんは。このお店のママのじゅん子よ」
樋尻透:「まぁー、せっかくだから俺が一杯ご馳走するよ」
木下彩:「わたしも飲むの?」
樋尻透:「彩さぁー。ソフトドリンクなら飲めるよねぇー」
木下彩:「ソフトドリンクなら大丈夫だけど…」
樋尻透:「ママ! 久しぶりに俺が作ろっかなぁー」
じゅん子ママ:「透ちゃん。透ちゃんが作ってくれるの久しぶりー」
透はすごく久しぶりに『銀座クラブ マッド』のバーテンの場所に立ち、バーテンダーとしてまず、じゅん子ママが何時も飲むホワイト・レディを作った。次に透は、どの順番で彩のソフトドリンクを作るか一瞬迷ったのだ。透のバーテンダーの腕は昔と比べ全く落ちていなく、むしろ自分のお店で透はバーテンダーを指導しているので前より動きにキレがあった。
そして透は決めたのだ。彩のソフトドリンクを最後に作ると彩に見破られる恐れがあるので、二番目の真ん中に彩のドリンクを作ることにした。それがスクリュー・ドライバーだ。
最後に透の飲むマティーニを自分用に作った。透は計算していたのだ。じゅん子ママと透が飲むグラスはカクテルグラスで、彩が飲むグラスはタンブラーグラスである。つまり彩のグラスだけソフトドリンクを飲むグラスに似た形をしていたからだ。彩は普段、この手のお店で飲んだことが無いので、気づかれないだろうと"透"は予想していたからであった。それぞれがそれぞれのグラスを手に持ち三人で乾杯した。
樋尻透: 「カンパーイ!」
じゅん子ママ:「カンパーイ!」
木下彩: 「カンパーイ!」
彩は前回と同様にゴクゥとひと口飲んだのだった。するとたちまち顔色が悪くなり、彩はトイレへと走り込んで行った。そして戻ってきた彩を観て、透は「やったー」と思った。そこに現れたのは木下彩ではなく綾瀬ひとみだったからだ。
ひとみとなった彩は、まるでさっきまでの顔つきと違い、化粧も濃くなりとても似ても似つかない表情をしていたのであった。そしてひとみは妖艶な笑みを浮かべて透の元に近づいて来たのだ。
綾瀬ひとみ:「あら、透。 久しぶりねぇー。この間はご馳走さま♡」
樋尻透:「こないだはよく飲んだねぇー。家には無事に帰れたんだ?」
綾瀬ひとみ:「もちろんよ。ト・オ・ル♡」
じゅん子ママ:「何よこれ、透ちゃん。どうしちゃったの?」
樋尻透:「ママ、紹介するよ。ひとみちゃん」
じゅん子ママ:「透ちゃん。彩ちゃんじゃなかったの?」
綾瀬ひとみ:「ママなの? わたしは綾瀬ひとみよ!」
樋尻透:「ママ! 細かいことは後で説明するからさぁ。ひとみちゃんをこのお店で働かせられるかなぁ?」
じゅん子ママ:「ひとみちゃんなら、大丈夫だと思うけど…」
樋尻透:「やったー、よし決まった! 大丈夫だってひとみちゃん」
綾瀬ひとみ:「そうなのー、嬉しい♡」
樋尻透:「ちょっと待ってね」
透はおもむろに五円玉に紐を結んで、15cm程の長さに垂らした振り子をポケットから取り出し自慢げにじゅん子ママに見せた。
じゅん子ママ:「何それ透ちゃん?」
樋尻透:「今から、いいもの見せてあげるよ」
じゅん子ママ:「ちょっと説明してよ」
樋尻透:「観てればわかるって!」
透はその五円玉の振り子をひとみの目の前に持って行き、ひとみにこう言ったのだ。
樋尻透:「ひとみちゃん。この振り子を見ててね」
綾瀬ひとみ:「透、なあにぃ?」
樋尻透:「まぁー、いいから見ててよ」
綾瀬ひとみ:「そおぉ」
透は五円玉の振り子を左右30度ぐらいに振りながら、しばらくひとみがその振り子を見ているのを観察していた。そしてひとみに語り掛けたのだ。
樋尻透:「君は今から僕の言うことにうなずき、すべての質問にはいと答える」
綾瀬ひとみ:「はい」
樋尻透:「君は、今日からこのお店で働く」
綾瀬ひとみ:「はい」
樋尻透:「君は、このお店のホステスになる」
綾瀬ひとみ:「はい」
樋尻透:「君は、僕からのLINEのメッセージを観ると、いつでもひとみになることができます」
綾瀬ひとみ:「…………」
樋尻透:「では質問を変えます。あなたは彩からひとみになることが出来ます」
綾瀬ひとみ:「はい」
樋尻透:「ひとみから彩になることも自由に出来ます」
綾瀬ひとみ:「はい」
樋尻透:「ひとみに自由にいつでもなれます」
綾瀬ひとみ:「はい」
樋尻透:「ではもう一度訊きます。君は、僕からのLINEのメッセージを観ると、いつでもひとみになることができます」
綾瀬ひとみ:「はい」
樋尻透:「本当にあなたは、僕からのLINEのメッセージを観ると、いつでもひとみになれますね?」
綾瀬ひとみ:「はい」
透は「やったー」と思った。そして最後にこう言ったのだ。
樋尻透:「 では一度、彩になってください」
綾瀬ひとみ:「はい」
そして少しすると、ひとみから彩になって行くのが、その表情から伺えたのだった。これを観ていたじゅん子ママは、呆気に取られていたのだ。するとひとみの「表情」や「仕草」がみるみる彩へと戻って行ったのである。
木下彩:「あれ、わたしどうかしてた?」
樋尻透:「いや、別にどうもしてないけど…」
木下彩:「ならいいんだけど…」
樋尻透:「それでさぁ、彩。このお店で働けるんだって」
木下彩:「ほんとぉー。わたしで大丈夫?」
樋尻透:「ママが大丈夫だって。ねー、ママ」
じゅん子ママ:「ええぇ、まあぁ」
樋尻透:「彩は週にどのくらい入れるの?」
木下彩:「うーん。5日ぐらいかなぁ」
樋尻透:「時間は?」
木下彩:「えーと。19時から終電までには」
樋尻透:「あと何か訊きたいことある?」
木下彩:「えーと。お給料とか」
樋尻透:「ママ! 時給幾らぐらいかなぁ?」
じゅん子ママ:「そうねぇー。まずは7千円かなぁ」
木下彩:「えっ、7千円も」
樋尻透:「そうだよ。君にはそれだけの価値があるんだよ!」
木下彩:「本当に?」
樋尻透:「それと、今住んでるとこ実家?」
木下彩:「そう。千葉県の船橋市だけど…」
樋尻透:「せっかくだからさぁ。ひとり暮らししなよ」
木下彩:「そうかなぁ。だけど家賃とか…」
樋尻透:「大丈夫だよ。手当とかでるからさぁ。ねー、ママ!」
じゅん子ママ:「そうねぇ。週5日入ってくれるなら、出してもいいわよ」
樋尻透:「やったじゃーん」
木下彩:「ありがとう透くん」
樋尻透:「これで彩も貧乏生活からおさらばだぁー」
透は思ったのだ。彩にひとり暮らしして貰えれば、透の仕組んだ催眠術がバレることがないと…。そして最後の確認として、本当に彩が透からのLINEを受け取ったら、彩からひとみへと人格が入れ替わるか最終テストを行ったのである。
樋尻透:「ちょっと待っててね彩」
木下彩:「どうしたの透くん?」
透はおもむろに自分のスマホを取り出し、LINEで彩にメッセージを送った。と同時に彩のスマホの着信音が鳴った。透はわざとらしく彩のバックに入っているスマホの着メロが鳴っていることを彩に知らせたのだった。
樋尻透:「彩! 彩のスマホ鳴ってるよ」
木下彩:「そう。誰だろう?」
木下彩:「あれ、透くん。今、わたしにLINEしたぁ?」
樋尻透:「彩! ちょっと見てみてよ」
木下彩:「何だろう?」
樋尻透:「何かメッセージ書いてあった?」
木下彩:「ちょっと待って。えーと、『Good Luck!!!』」
これを見た彩はたちまち顔色を変え、「表情」や「仕草」もまるで別人へと変化して行ったのだ。そう、そこに現れたのは紛れもなく綾瀬ひとみだった。
綾瀬ひとみ:「ア・リ・ガ・ト。透♡」
樋尻透:「ひとみちゃん。君に逢いたかったよぉー」
綾瀬ひとみ:「で、わたしはこれから何をすればいいの?」
樋尻透:「このお店でさぁ、じゅん子ママと一緒に働いてよぉー」
綾瀬ひとみ:「お酒は飲めるのかしら?」
樋尻透:「もちろん。お客さんが、ご馳走してくれるよ」
綾瀬ひとみ:「あら、嬉しいー♡」
樋尻透:「ママ、そうだよねぇー」
じゅん子ママ:「好きなだけ飲んでいいわよ」
綾瀬ひとみ:「やったー」
樋尻透:「ママ、わかったー?」
じゅん子ママ:「なるほどね、透ちゃん。透ちゃんも悪い子なんだから…」
透の催眠術によりアルコール(お酒)がトリガーだった彩は、アルコール(お酒)だけでなく透からのLINEもトリガーとなって木下彩から綾瀬ひとみに人格が入れ替わるようになったのだ。
透が取った行動は一見馬鹿げたことのように思えるが、彼なりの根拠があった。それはここでは秘密にしておくのだが…。こうしてひとみになった彩は、透の古くからの付き合いのじゅん子ママが経営する『銀座クラブ マッド』で週5日働くこととなったのである。
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