第4話
「聖女ユイよ。お前にリカルド・ハロウズ侯爵と、その番ミーシャ・フェリーネの婚姻式での、祝福の言を授ける任を与える!」
次の日、王宮に呼び出され、謁見の間にて私は王様からそう命令されました。
王様はライオンの獣人です。とても体が大きくて、鋭い目つきをしています。
「どうした! 国王陛下のお言葉であるぞ! 返事をしないかッ!!」
「……はい」
ネズミの獣人の大臣様から怒鳴られて、私は俯いたままボソボソと返事をしました。
顔を上げることは許されていません。
跪き顔を伏せ、周囲を獣人の騎士たちに取り囲まれた私は、謁見というよりはまるで裁判を受ける罪人のような有様でした。
いえ、ある意味それで、間違ってはいないと思います。
王様は昨日の侍女から私の発言について報告を受け、たいへんご立腹な様子ですから。
「ふむ……。お前には以前から『聖女』の自覚が足りないとは思っていたが、もはやこれほどまでとはな……。お前を気にかけてくれたリカルドに、運命の番が現れた事を、まさか祝福ではなく愚弄するとは……」
「…………私は、この国の人間ではありませんから」
「そうだな、だがこの国の庇護下にある。ちゃんとした耳や尾を持たぬ劣った者でも、常識程度は持ち合わせていると思っていたぞ」
「……あなた方のような『常識』は、ないかもですね」
「ふん」
王様は不機嫌そうに嘆息しました。
その近くでは、ネズミ大臣が顔を真っ赤にして私を睨んでいます。
国王陛下である彼に口答えをしても私が処刑されないのは、私が聖女……淀みを散らす『浄化装置』であるからです。
本当なら彼らは離宮ではなく、私を牢にでも閉じ込めてしまいたい気分でしょう。
ですが異世界の人間が彼ら獣人より体が弱い事を、彼らは経験からよく知っているようでした。
過去には雑に扱ったせいで、早々に死んでしまった『聖女』もいるそうですから。
「……まあ、よい。先ほども言ったが、お前にはリカルド侯爵の婚姻式で祝福の言葉を述べてもらう。それがこの国の習わしだからな」
「……なぜそんな習わしがあるのですか? この国では、婚約破棄をされた者が相手を祝う風習があるのですか?」
「そうではない。浅はかな耳無しよ。この国を建国した始祖もまた『運命の番』であったのだ。始祖が婚姻を結ぶ際、そのときに現れた異国の『聖女』が、その祝福をしたという。……これは名誉な役割なのだぞ? お前のような者には、もったいない」
「もったいないなら、辞退したいです……」
「ふん、身勝手な女だ」
王様は吐き捨てるようにそう言いました。
勝手なのは、どちらなのでしょうか?
頭痛が酷くて、胸が苦しくて、分からなくなってしまいそうでした。
そしてそれから――
やっと謁見の間から解放されて、私が離宮で休んでいると、そこにミーシャ・フェリーネがやって来ました。
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