第3話

 獣人族にとってつがいとは、魂で惹かれあう『運命の相手』であるそうです。


 しかし広い世界に、番となる相手はひとりだけ。

 通常ならば、出会う事もなく一生を終えるのが常であるとか。


「だからこれは、奇跡のような事なのですよ!」


 興奮した様子で、侍女の方が私にそう言いました。

 彼女は私に食事を運んできてくれた傍ら、先ほどからずっと、頼んでもいない『番』の説明をしてきます。

 リカルド様との婚約破棄から、ずっと塞ぎ込んでいる私を見かねての行動らしいです。


「そうですか……」


「凄くすっごく、低い確率です! 番と出会えるだなんて、リカルド様はなんて幸運なのでしょう!」


「はぁ……」


「ですからリカルド様は決して、浮気をしたという事ではないのです。……ユイ様には、馴染みのない事柄かもしれませんけれど」


 気のない返事を続ける私を、侍女の方は焦れたような目で見据えてきます。

 彼女は言外に、私にリカルド様とその番の方を祝福しろと言っているのです。


 説明という名の言葉の刃が、私の心を抉り続けます。

 私が気の抜けた返事をしているのは、せめてもの抵抗――いえ、心の防衛なのですが、彼女にはそれがとても気に入らない様子です。


「まったく。私なら婚約者が相手でも、番が現れたのなら祝福しますよ!」


 そしてついに、彼女は叱りつけるようにそう言いました。

 ズキリと胸の奥に痛みが走り、私はぽろりと、言うまいと思っていた言葉を漏らします。


「……リカルド様の私へのお気持ちは、獣の本能に負けたのですね」


「っ!」


 その途端、侍女の方はギロリと私を睨みつけました。

 彼女は猫の獣人です。尻尾の毛が、怒りにぶわりと広がっておりました。


「いくら聖女様でも、言っていい事と悪い事がございます! 今の発言は、陛下に報告させていただきますからね!」


 ……言っていい事と、悪い事。

 彼女が私に先ほどから語っていた内容は、言っていい事だったのでしょうか……。


 私はもう、考えるのも億劫な気持ちだったので、ただひとこと告げました。


「……どうぞ、ご自由に」

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