異世界魔王が来た。だが人類は滅亡していなかった〜転生魔術師は追放高専生を育成して、東京で世紀末覇者を目指す〜

@daisandaison

第1話 プロローグ~高専追放と魔王討伐~


天王寺てんのうじ君、職員会議で君の退学が決まった。日程としては今から一週間後だ。準備しておくように」


……はい?僕は校長のその言葉に耳を疑った。

理解が追い付かずに頭の中でこれは冗談なのではないか、とかドッキリなのではないかとか、様々な可能性が逡巡する。


え?何、タダで読める異世界小説みたいなこと言っているんだ?

ここは異世界じゃないんだぞ?数十年前に滅びかけたとはいえ日本の首都、東京であることは間違いない。


「え?ちょ、ちょっと仰っている意味がよく分からないのですが……退学なんて犯罪をしない限りならないんじゃないんですか?」

僕は、自分の知識から正しいと思われる可能性を口にした。

その言葉を校長は鼻で笑う。


「いやね。天王寺君。今の時代みんなが教育を受けられる訳じゃないからさぁ。そこんとこは理解が足りなかったよねぇ?」


そこは理解している。結局のところ、今の時代は公立の学校でも学費が必要だ。それを払えなければ退学だろう。


何故だ?学費も親の仕送りとアルバイトで払っているし、成績は低いが、僕よりもっと低い奴はそれなりにいる。


「天王寺君、新東京都学生 討魔ランキングも13,421位とかだっけ?ダントツのFランクだよね?魔術適正もないしさぁ。ちなみに学業の成績は11,421位か。」


校長のネチャっとした嫌味が耳に残る。


いつの間にかこの国は、魔族と魔獣に怯え、学業の成績以外に、勇者が異世界から持ち込んだ魔狩りの技術という視点で学生をランキングづけするようになった。その点では確かに僕は無才なので、何も言えない。


「い、いや。でも、それは関係ないでしょう。僕は学費を……」


「とにかく!1週間後にこの高専からは出て行ってもらうから、片づけておくように。話は以上だ」

僕の反論を校長は大声で遮った。


ええ?いや、嘘だろ?

僕はクラクラと眩暈がし始め、それから目のまえが真っ暗になった。



・・・・・・・・・

【勇者視点】



魔王は悠然と歩を進めた。


口元には微笑が浮かんでいる。その銀の髪と白い肌に、漆黒の衣が対照的である。何とも非現実的で、絵画の中の人物のようにも見える。


そして最も、この地球の人間と異なる点は異形の角であろう。何か魔王がその力を発現させるたびにその角が光り輝くのだ。


勇者ことオレは初めて魔王と相対していた。そして戦慄する。


魔力の底が見えない。そして何という昏く冷たい魔力だろうか。




結局、ここまで来れたのはオレを含めて三名か。ここまで来るまでに多くの犠牲を払った。




勇者デュークことオレ

聖女セシル

魔術師レイヴン


聖女セシルはオレの幼馴染だ。この「地球」という世界に魔王討伐のために、一緒に召喚されてきた。で、初めから一緒に戦っている。


そして、この魔術師レイヴンはオレが召喚されてから数年後にオレがいた元の世界から追放され、結果としてオレのパーティーに入った。


セシルは力を持っているが性根の優しい娘だ。戦場は似合わない。だが、この魔術師レイヴンはそうではない。いわゆる戦闘狂である。


この世界にも闘いと殺戮が過ぎたために追放されてきたタイプだ。圧倒的な強さを持ち、数々の実績を残してきたが、国家資格を持たない、いわゆる「闇魔術師」でもあったため、あちらの世界でも煙たがられていたのだ。


で、この世界に来てついた仇名が「死神のレイヴン」である。最近ではもっと酷く「鏖殺のレイヴン」とかも言われ始めている。


あーあーまた魔王の魔力に当てられて目が血走っちゃってるよ。


と、刹那レイヴンが消えた!


一瞬にして魔王の横へ移動。そして既に大鎌を持ち、魔王の首を刈らんと横にその得物を薙ぐ。


魔王はその魔剣でいとも容易く、その鎌を止めた。


「やるな」


だが、魔王は感嘆の声をあげた。


レイヴンの手が魔王の左胸に突き刺さっていた。

そしてその手を引き抜くと、レイヴンの手には紅く血塗られたものが握られていた。


心臓である。


オレはその光景にどちらが魔王なのか、最早わからなくなった。


「ほう」


そう言うと魔王は平然と構えていた。


狂気じみた高笑いとともに、レイヴンはその心臓を握り潰す。


「ケケケ。早くも一つ目だな」


やった!魔王の3個の心臓のうち、一つ目を潰した。


だが、魔王は表情一つ変えなかった。


「次は私からゆこうか」


魔王はそう言うと、一瞬にして魔力を練った。


「闇魔法 重力錐ギガグラビトン


魔王はその言葉とともに、オレ達三人を黒色と灰色の三角錐の結界で取り囲む。そしてその三角錐が、ゆっくりと規則的に回転し始める。その光景は、無機質だがどこか美しさを感じさせた。




「な、なに?」


セシルは不安気にその様子を見る。


と、一気にオレ達の上に圧倒的な「重さ」がのしかかった。




「ぐあああ!!」


オレは大声をあげてそれに耐える。だがまずい。耐久力のあるオレならまだしもレイヴンやセシルは既に限界である。


と、レイヴンの左脚からいやな音がした。骨が折れている。




伊奘冉イザナミ!!」




ちょっとしたタイムラグの後、セシルが事前に詠唱していたスキルを使用した。虹色の幻想的な光が、オレたちの周りにあった魔王の魔法を包む。




そして、その魔法を強制解除した。聖女たるセシルの力である。


「ほう。凄まじいな」


だが、魔王の余裕はまだ失われない。


「ケケケ、おいデューク。あいつ全然本気出してねぇぞ」


レイヴンが折れた足を意にも介さず、少し面白そうにそう言った。オレは全然面白くないが。


「ああ、そうだな。この聖剣で至高の一撃を出せれば、心臓を一つ一つ潰すまでもないのだが」


聖剣。対魔王用の必殺武装。


オレにしか召喚できない、俺だけの武装。あらゆる結界を打ち破り、至高の一撃発動の際、あらゆる「魔」と名のつく種族を一撃で屠る。


「当たる気がしないからお前は、仕掛けないんだろ?」


図星である。


先程のレイヴンの攻撃は、どう見ても魔王は敢えて受けていた。正直、気まぐれな魔王の、そういう気分だったから、という直撃だ。


この聖剣であれば、絶対に当てさせまい。


「俺の命を使えよ」


レイヴンはそう言って笑った。


「あ?お前何言って……」


そう言うや否やレイヴンは詠唱を既に始めている。レイヴンの周りに禍々しい禍々しい魔力が充満し、全身に入れ墨のような紋様が浮かび始めた。


「究極闇魔法 冥府魔道の門」


そして、黒い魔力の波動が目に見えるほどに、放たれた。



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