ホワイトなブラック企業

ふみ

第1話

「なぁ、俺たちってブラック企業で働いてるのかな?」

「なんだよ突然、当り前だろ。『世界征服』を目標にしている組織で俺たちは働いているんだぞ。」

「でも、ブラック企業って、本来は反社会勢力の会社に使う用語のはずだ。」

「俺たちって反社会勢力なのか?」

「『世界征服』を目標に掲げてるんだから社会的ではないと思うけど……。」



 黒い全身タイツを制服として、『イー、イー』と奇声を上げなげながら対抗勢力である改造人間の体力を削る仕事に命を捧げている男たちの雑談だった。

 彼らは、ただ相手を少し疲れさせるだけの仕事に命を懸けている。


 

「今のブラック企業は、違う意味で使われているよな?」


 男の一人がスマホを取り出して検索を始めていた。


「長時間労働やパワハラの横行、高い離職率、サービス残業等で労働者の権利を無視する企業のこと。らしいぞ。」


 全員が黙って思案する。


「総統様が社長で俺たちは一般社員ってなるのかな。管理職の怪人さんが上司になるわけだ。」

「上司の入替りは激しいな。」

「それは仕方ないだろ、毎回倒されちゃうんだから……。でも、どの怪人さんも体を張って戦ってくれた。無責任に途中で逃げ出したりはしない、良い上司ばかりだ。」


「総統様、やられた怪人さんのお墓作ってるらしいよ。」

「冷蔵庫に入ってる栄養ドリンクも総統様からの差し入れらしいぞ。」

「長時間労働で給料も低いけど、世界征服にはお金もかかるだろうから仕方ないよな……。」


「そう言えば、ブラック企業って、やたらと『アットホーム』感をアピールするらしいんだ。」

「……なんだそれ?」

「『アットホームな会社です。』とか『風通しの良い会社です。』を売りにする職場は要注意なんだって。」

「当り前だよ、『職場は戦場』なんだ。職場に居心地の良さを求めたら終わりだ。」

「きっと、『居心地が良い場所だから、残業も苦痛ではないですよね?』ってことなんだ。残業や休日出勤させる気満々の罠なんだ。」

「……怖いな。」


「この前、故郷のお袋の誕生日だったんだ。……総統様から花が贈られてたって。」

「俺のところもあった。……総統様は何も言ってなかったのに。」



 全員が顔を見合わせてお互いの意思を確認するように言葉を発する。



「大変だけど遣り甲斐はあるし、総統様も尊敬してる。入れ替わりは激しくても、上司には恵まれている。」

「それなら俺たちの組織は、ブラックじゃない。」

「そうだな。」


「……でも、制服が真っ黒な全身タイツだから印象が悪いんじゃないのか?」

「それは総統様が、汚れの目立たない色にしてくれたんだ。」

「あぁ、俺たち暴れまわるからな。……その心配りは流石だよ。」

「ちゃんと顔や体にはアクセントの飾りを入れてくれてるしな。」



 全員の意見は一致していた。



「でも、どうしてブラック企業って言葉を使うようになったんだ?」

「新しい言葉を作って、『上手いこと言うな』的に流行らせたかったんだろ。」

「……流行語ってやつか?」


「でも、ブラック企業って言葉は、違うと思わないか?」

「どういうこと?」

「だって、ブラックなのは指示を出している社長とか上司で、企業がブラックじゃないだろ?」

「……確かに、ブラック社長かブラック上司って言わないとダメだな。」

「本質から遠ざけるための手段だったのか……?」


「散々こき使われて、ブラック企業を辞める時には『会社に裏切られた』って捨て台詞を言うんだぜ。」

「……悲しいな。裏切るのも人間で、会社は何もしていないのに。」


「そう考えると、ブラック企業って言葉を普及させた罪は重いぞ。わざわざブラック社長やブラック上司が言い逃れできる状況を作ってしまったんだ。」

「だから政治家たちも使い始めたんだよ。」

「企業は自分からブラックになることなんかなくて、ブラックにしているのは人間なんだ。それを有耶無耶に出来る有効手段だよ。」


「……その話だと社会全体が愚かに見えてくるよ。」

「同感だ。」


「社会不適合者だって同じだぞ。」

「どういうこと?」

「『社会があなたは不適合です。』なんて言っていないのに、社会の枠組みから外すんだ。不適合だと言っているヤツが思っているだけなのに、社会を語るんだ。」

「……最低だな。」



「やっぱり俺たちが世界征服を成し遂げて、社会を正す必要があるんだ!」



「ただ、俺たちが相手にしている改造人間は『正義の味方』って言われてるんだぜ。そんな相手を倒そうとしているんだから、やっぱりブラックになると思うんだ。」

「……でも、本当にアイツが正義なのか?」

「そうだよな。総統様が新しい世界を作ろうとしているのに、アイツの私怨だけで邪魔しているんだぜ。」

「民主主義の国でアイツだけが総統様を悪と呼んで抵抗しているだけなんだ。総統様の目指す世界が悪だと多数決を取ったわけじゃない。」

「それを『孤高のヒーロー』みたいな言葉で誤魔化しているだけなんだ。」

「結局は、アイツも言葉のマジックを使っていたのか?」


「……世界は騙されている。」



「やっぱり俺たちが世界征服を成し遂げて、社会を正す必要があるんだ!!」



 ホワイトなブラック企業だったはずが、社会貢献の目的を得て真のホワイト企業として確立した瞬間であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ホワイトなブラック企業 ふみ @ZC33S

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ