苦笑3
ちなみに私の恋人も、私とは違ってクラスで注目を集めるタイプの一角だ。和気藹々と誰からも好かれる大和とは少し方向性の違った人気があり、それは主に男子生徒からの熱い眼差しと共に送られる。
見目麗しく、朗らかな彼女はよくモテる。そしてそれをバッサバサと容赦なく切り捨てる人斬りのような姿が、感傷を好物をする一部の男子供を刺激し、またモテる。雪だるま式かよ。
恋人としてはとてつもなく複雑な心境だが、自慢の彼女であることに違いないので、今はその人気含めて彼女の全てが魅力的だと感じている。
「いいねえ、浅倉さんと朝から熱々で」
「………………」
おし黙る。何についての見透かされた発言なのかは聞き返さないでおく。
大和は私が彼女に恋慕していることに気が付いている節がある。今だって、故意に彼女の名前を出して私を揶揄する。こういった切り口の会話を私に仕掛けるのも大和だけで、それは大和の勘が鋭いのか、それとも私が分かりやすいのか、はたまた両方なのか、やはり私がウルトラバカなのか、答えは自分の中であえて出さない。出さないが、私が彼女と二人で登校していることも話していないのになぜか知っていたりするなかなか油断のならない奴である。
だが、今日に関しては確かに普段とは大分異なる顔色で着席していたのかもしれない。だって、だってねぇ。あーんな事があったのだ。大和の言う通り朝から熱々で暑圧なのだ。
「口元下がってんぞー」
「ぬおっ」
脇腹を肘で小突かれて、口角をキュッと引き上げる。せっかく答えはほのめかしたのに、これでは自分に面目ない。
それとも逆に大和と肩を組んで『聞いてくれよー!今朝彼女とほっぺにチューでさあ!』とか言えばいいのだろうか?無理。私も無理だし多分彼女もそこまで露にするのは嫌がる。なんせまだ付き合って三日だ。隠匿しているから得られる背徳感的なものも確かに存在するが、何より、付き合い始めだからこそ、二人で丁寧に折り重ねて歩んでいきたい。だから私自ら彼女との関係について口外する気は、今のところない。
「………………」
頭に浮かべたその顔が無性に見たくなり、後ろを向いて彼女の席へ視線を合わせる。
「おわっ」
目がかち合って少しだけ後ろに仰け反る。ビックリした。
向こうも突然振り返った私に驚いたのか一瞬目を丸くしたが、すぐに細めてゆるりと微笑む。そしてひらひらと軽く手を振ってくれた。
私も釣られて口角が上がり、頬のあたりがじわりと熱くなる。
「やーれやれだなぁ」
隣から聞こえる呆れた声も鼓膜を通過させ、今はただ、指を折って彼女に手を振った。
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