『ペンギン』
黒煙草
1羽
《
ペンギンと言われたら何を思い浮かべるだろうか?鳥なのに飛べない、水の中だけ速い、氷の上でシャチに食われる
《ゴーゴーゴー!!》
でも僕はペンギンが好きだった
見た目は可愛いし、癒される。白い腹を撫で回したい
水の中で魚を咥える姿は可愛らしさとは逆にギャップがあり、力強さを感じる
《右の部屋、クリア!》
《左、クリア!》
そしてなにより、1番に海に潜るペンギンは、勇ましい
《奥の部屋に2人……目標と子供1人!》
『ファーストペンギン』、他のペンギン達は未知なる海を潜る際に躊躇してしまうが、この1匹だけは違う
僕はそのペンギンに憧れた
《裏手の階段から足音!目標の夫を確認!!》
《殺せ》
この日、僕の憧れの『ファーストペンギン』は階段で死んだ
《目標確保!子供はどうします?》
《私たちの管轄外だ、捨ておけ》
黒い、シャチみたいな人達に囲まれる
僕が座る周りで、僕をどうやって食い殺すか、見定めている
《了解!撤収!!》
《歩け!》
「待って!!子供は!?あの子はひとりじゃ生きていけないのよ!!」
親ペンギンが、離れていく
《隊長……》
《いいだろう……暇つぶしになるだろう。娯楽になるだろう。持って帰るぞ》
今日から僕は、捕食動物に育てられるのか?
まるまる太らせて、食べるつもりなんだ。絶対
そんなことされてたまるか
親ペンギンの言葉を思い出す
『一人じゃ生きていけない』
これは合図だ
僕は一人で生きていけない、ならどうすればいい?この人たちについて行く?ありえない
簡単な話だ
みんなで一緒に逝けばいい、僕が『ファーストペンギン』になって
《……むっ!?伏せ────》
僕の口の中では飴玉を転がすように、球状のFBM──火炎属性付与大規模爆破魔術玉──を噛み砕いた
腹の底から響く轟音、スラム街に一気に広がる爆炎の風圧によって辺りは焦土と化した
「あー……うー……」口の中で爆発を起こした僕は、親ペンギンに僕へかけられていた超硬度防御魔法によって生き延びた
FBM自体は、爆炎が広がっていく度に火力を増すので、爆心地にいた、使った人間は手で砕けば腕の1本を失う程度で済むが、僕のように防御魔法をかけていないと余波で大概焼死する
僕は両頬の肉の損失と全身火傷程度で済んだ
それが10年も経つのに、爆発があったのを昨日のように思い出せる。身体中の火傷が今も痛むからだ
《ペンギン、目標は高層ビル、ナヤが取仕切るカジノのディーラーをしている》
「……」
暗闇の中、僕は事前に確認した書類から目標の姿形、顔を思い出す。ナヤとはこの街No.2の悪事を働くがそれ以上に『家族思い』で有名だ。目標はそのナヤの部下にあたり、ナヤ自身は家族を自身の手で汚さない
子へのイメージ操作というものだろう
こうやって第三者の雇われ傭兵に頼むところ、醜い
つまり、親が他人に頼んで自分の子を殺す……要訳するとこんな感じだろうか
しかし、無線機からの無機質な声に苛立った。僕の上司は先の爆発で唯一生き残った男だ
《目標との接触後、確保だ。いいな?》
「……」
10年間、上司の暇つぶしに訓練させられ、力を身につけられた僕に上司は嗤いながら目を細めていた
目には部下たちを殺された復讐心の炎がチラついていたのだから、肩身狭い思いをした
僕も同じ目をしていたからだ
「……」
《こちらチェリー。ダイシームーンにて上空3000メートル、目標地点上空に到着。襲撃開始まで3秒、2……ペンギン、一人でやれ。死んだらそこまでだ》
1と0の合図すら無しに上司である少将のチェリーは透明化させていた軍事用愛玩具の
長方形の黒箱、170×60の狭い”棺”に僕はいる
《合図はナシだ、命賭けて逝ってこい『ファーストペンギン』》
「うー……」
唸ると共に、エレベーターが階を降りるような浮遊感が伝わるが、何度も経験したことなので慣れた
むしろ、この方法でしか潜入してくれない
高層ビル屋上のヘリポートに棺が着地───する訳がなく、接地面を破壊していく
ビル自体は50階建て。2階にあるカジノまでの48階の天井と床を縦の棺が一気に貫通破壊していく
棺が壊れるのでは?そんなことは無い、少将チェリーは死んだ部下の遺品を売り捌き、その金で頑丈な箱を発注してくれたのだから壊れる心配はない
むしろ死んだ部下たちに悪い気がしてきたと思えた時、破壊音が止まる
「……う?」
《着いたようだな。”解除”》
目の前の蓋が射出され、箱の中に光が差し込む
闇の中から急に光が入るので、目眩を起こすが必死に慣れさせる
カジノのど真ん中に落ちたらしく、周りの状況は驚愕の顔、顔、顔
それもそのはず、長方形の箱の中から出てきた僕に驚いているのだから
「だれか……発注したか?こんな……変なやつ」
僕の、必要以上に拘束された魔力縛ベルト付きの白のロングコートに口元を覆い隠す水色のラインが入った白いガスマスクを見て1人がそんなことを呟くも、誰からも返答がなかった
僕は光に慣れてきた目で目標を探すと逃げる男の背中を見た
「うー……」
仕方ない、流れ弾が他に当たって死んだって事故で済む
いや、済ませる
後から
一丁につき約80kg、大の大人でも固定させてやっと撃てる速射砲を、僕は軽々と片手で持てるのは火傷跡に彫られた魔針による刺青を施されていたからだ
刺青には筋力増強、瞬発力増強、オート防御壁術式などが彫られている
別に火傷跡に彫らなくてもいいのだが、少将チェリーからの嫌がらせだ。甘んじて受けるしかなかった
念じれば各刺青の魔力が解き放たれる。なので、今回使う筋力増強で、片手でも速射砲を持つことを可能とした
引き金を引くと同時に乱射する速射砲
周りの客やナヤの部下たち、逃げきれなかった目標
全てに弾丸が撃ち込まれ、立ち上がるものはいなかった
「う」
《こちらで排除の確認をした。いやはや、確保できなくて残念だ……不慮の事故として依頼人には報告しておくよ》
わざとらしい。
少将チェリーはこうなることを予測していた
僕のガトリングガンに細工するか、あるいは銃弾に誘導魔法でも掛けていれば可能なのだ
速射砲を長方形の箱に収めると、吹っ飛んでいった蓋を回収して閉じて箱を倒し、引きずりながら帰った
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