冬日之温

高田"ニコラス"鈍次

第1話 「冬海」

海沿いの道を歩いていた。

ボロボロになった青いスニーカー。

波の音がザワザワと聴こえるけれど、

海は見えない。

曼珠沙華が赤く咲き誇る細い小路を

ただ、まっすぐに歩く。

何処に行くのかなんて分からない。

けど…歩き続けるしかないのだ。


遠くの方に人影が見える。

優しい笑顔で手招きをする。

こっちへおいで

白く光る掌がそっと風を興した。


そよ風が頬を撫でる。

なんて気持ちがいいのだろう。


早くそこまで辿り着きたい

けれど…

歩を早めても、早めても

主との距離は一向に縮まらない。


もう疲れたよ…

わたしは土埃が舞う小路にしゃがみこむ。

意識が

だんだんと薄れていく…



────────────────────


「あ! 目を覚ましたんだね」


気がつくとわたしは

見知らぬ男の部屋に居た。


まだ頭は朦朧としているが

無意識のうちに

(こんなところに居てはいけない!)

慌ててベッドから飛び降りようとして

足元がもつれた。


「まだ寝てた方がいいよ。大丈夫、何にもしないから」


男は既に初老という年齢だろうか…

塩で真っ黒に焼けた肌に無精髭が白く光っている。

いかにも海の男という風情だ。


「あの…わたしは…」

「とりあえず助かって良かったよ。何があったかは知らないけど、生命を粗末にするのがどうしても我慢出来なくてね。余計なお節介だったかな…」


記憶ははっきりとしないのだが

どうやらわたしは、崖の上から飛び降りようとしていたらしい。

でも飛び降りる手前で、気を失って倒れてしまったのだと・・・


「少しゆっくりしていくといいよ。元気になったら家まで送って行ってあげるから…」

「はい…でも…」

「どうぞ。甘い物口にすると、少しは落ち着くよ」


男は温かいココアを私の足元に置いた。

喉を焼き尽くすほどの熱い液体は

わたしの五臓六腑に染み渡り

なぜだろう・・わたしは大声をあげて泣いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る