第42話 都合の良い思い込みはひたすら迷惑なだけなのだ
ルージュココがハインリヒトへの怒りと激しい憎しみを燃え上がらせてから約1週間。あれからどうなったかというと……。
「ココぉぉぉ~っ!なんで部屋から出てきてくれないのぉ?!何に怒ってるのか全然わからないから、そろそろ出てきてよぉ!」
ルージュココはブートキャンプやハインリヒトとの面会などの全てをボイコットして部屋に立て篭もり、その部屋の前でハインリヒトが泣いていた。鼻水と涙を撒き散らしながらルージュココに許しを乞うものの、なぜルージュココがそこまで怒っているのかは全くわかっていないハインリヒトの謝罪には誠意が足りない。誠意があるのかすらわからないが。そんなペラッペラな謝罪を扉の前でみっともなく喚き散らすハインリヒトの姿に王子の威厳は欠片もなかった。いや、元々ほとんどないので今更か。さらに、その姿を遠目に見ているしか無い使用人たちはドン引きである。一部の使用人たちは「なんか、見たことある」とデジャヴを感じていたが。
「あ、もしかして結婚式のドレスのデザインを僕が勝手に決めたから?!それともウェディングジュエリーの色を勝手に決めたから?!そうか、結婚式のご馳走を僕が勝手に決めたからだね?!……はっ!まさか実はウェディングドレスじゃなくて和装派?!白無垢を着たかったのかい?!それならなんとしてでも着物を作らせてお色直しでもなんでもするよぉ?!」
もはや“婚約破棄して平民になって駆け落ちする作戦”のことなど頭からすっぽり抜け落ちている浮かれポンチなハインリヒトの不用意でトンチンカンな発言をもしもルージュココが聞いていたらどれだけ神経を逆なでするかなど考えもしていないようだ。なぜかハインリヒトの中ではすでにルージュココと自分は相思相愛の両想いになっていて、もはやルージュココが婚約破棄にこだわる意味は無いと思っているようである。なぜルージュココがダイエットを始めたのか。その理由と原因をすっかり忘れている。それを知っている者からしたら「鳥頭にもほどがある」と思わずにはいられないほどだ。
いや、最初は覚えていたはずだった。悪役令嬢の運命を恐れるルージュココの心を守るために奮闘する気は満々だった。だが、ルージュココから駆け落ちに同意してもらい、さらには好意的な態度をとられ、ハインリヒトと駆け落ちするために過酷なダイエットにもチャレンジしているルージュココの姿を見ていたら……盛大な勘違いをしてしまっただけなのである。そしていつの間にか脳内にはヒロイン顔負けのお花畑が出現し、ハインリヒトにとって都合の良い部分だけをつなぎ合わせてこねくり回したような結果だけがハインリヒトの真実となってしまったようだ。
そんな残念なハインリヒトの姿を他の使用人から離れた場所で見ていたのはハインリヒトの執事であるウィンだった。そしていつものように細身の眼鏡をくいっと持ち上げると、眉を顰めてため息をついた。
「全く、あのアホ王子め……。せっかく人がお膳立てしたっていうのに、全部無駄になったらどうしてくれるんだ」と、忌々しげに呟きながら。
***
一方、ルージュココはというとーーーー。
「とってもお会いしたかったですわ、ルージュココ様!」
「あれから学園は大変でしたのよ!」
「あぁ、こんなにおやつれになられて……!苦労なさっていたのね!」
「皆さん……!私も会えて嬉しいです!」
学園にいた頃に仲良くなっていた3人の令嬢たちと、久々の再会を果たしていたのだった。
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